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Clemency / 日本未公開 (2019) 1749本目

心に残る静『Clemency』

タイトルの『Clemency』とは、恩赦の意味。大統領やら州知事やら権力のある人が、死刑執行を直前で止めたり、減刑したりすること。ただあまり期待は出来ない。私がこの映画を観て、すぐに思い出したのが、トロイ・デイヴィスのことだ。会った事もない知らない人だけど、今でもふと何気ない時に思い出したりする。詳細は「トロイ・デイヴィスのこと」のリンク先で読んで頂きたい。冤罪ながら死刑で殺された40歳の男性だ。彼も恩赦はされなかった。ジェイミー・フォックスが出演した『Redemption: The Stan Tookie Williams Story / クリップス (2004)』のスタン・トゥッキー・ウィリアムスも恩赦が受けられなかった。こちらもマスコミでかなり取り上げられたのに。そんな「恩赦」を、死刑執行する側である刑務所長を描いた作品。監督は、『alaskaLand / 日本未公開 (2012)』のチノニェ・チュク。ナイジェリア生まれのアラスカ育ち。ダナイ・グリラ制作・脚本、ルピタ・ニョンゴ主演という『Black Panther / ブラックパンサー (2018)』コンビのこれから始まるHBOシリーズ『Americanah』の監督もしている、今注目を集めている新人監督の作品です。

刑務所長であるバーナディン(アルフレ・ウッダード)は、控えている死刑執行の準備を整えていた。死刑が控えているヒメネス(アレックス・カスティーヨ)の妻を宥めたり、死刑台の最終確認をしていた。死刑は注射によるものだったが、中々針が上手く刺さらず、看護師が苦労した。途中、不手際があったが、刑務所長としてバーナディンは冷静に対処し、執り行われた。しかし、この事がバーナディンを蝕んでいく。そして、もう一人、この刑務所で死刑を待っていたのが、アンソニー・ウッズ(オルディス・ホッジ)だった。彼は最後まで無罪を主張し、目撃者と名乗っていた4人のうち3人が目撃情報を覆す発言をしており、証拠不十分なまま死刑を言い渡されていた。彼の弁護士マーティ(リチャード・シフ)は恩赦を求めて策を練るが...

かなり重たいドラマ。しかも、誰もが分かるような単純な作品ではない。所謂、とっつき難い映画だ。しかも淡々と描いているので、余計に見る者を選ぶだろう。キャスリン・ボスティックというブラックムービーでは知られた作曲家がこの映画の為に曲を書き下ろしているが、他の映画に比べたら、最近のヒット曲やアーティストを使っている訳じゃないので地味だ。そして派手なアクションもないし、派手な展開もない。唯一派手さがあるとしたら、ヒメネスのシーンがホラーなところだろう。それでも、私はこの映画のことを、トロイ・デイヴィスのことのように、ふと思い出すことがあるだろう。アルフレ・ウッダードの静かなる激怒を、オルディス・ホッジの真っすぐな感情を、チノニェ・チュクの淡々とした演出を思い出してしまうだろう。アルフレ・ウッダード演じた刑務所長は、死刑を執行しないとならない。その死刑に対してどう思い感じようと、やらなければならない。ロボットのように感情を殺す時だってある。それは他人には分からない/見えない。「殺さないで」という死刑囚家族の一つの感情。刑務所長だってそう思う時だってあるだろう。でもそれは全て感じないようにしている。被害者の家族からしたら「殺せ」という感情しかない。刑務所長もそう思ってしまう時だってある。真っすぐに一つある感情を双方からぶつけられる。そんなうちに刑務所長の感情は壊されてしまい、ロボットになった方が楽なのだ。っていうのを最後になってようやく気付かさせる。最後までは、正直、オルディス・ホッジ演じた死刑囚に肩入れして観てしまうのだ。しかし、それは刑務所長もそうだったと感じた。最後に全てが結びつく。

こんな静かな激怒は観たことない。派手で目立てば心に残るってもんじゃない。この静かさこそが心に残る。

(4.75点:1749本目)
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