SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて

Becoming Frederick Douglass / 日本未公開 (2022) (TV) 1848本目

I was a graduate from the peculiar institution, with my diploma written on my back.


フレデリック・ダグラス。『私は黒人奴隷だった』という彼の自伝訳書タイトルが示す通り、彼は黒人奴隷だった。彼の名前を知らないアメリカ黒人はいないであろう。アメリカ黒人史に関する書物を読めば、キング牧師とともに必ず書かれている名前である。奴隷からリンカーン大統領にも影響を及ぼす偉大なる奴隷制度廃止運動家となった人である。そんなフレデリック・ダグラスの半生を、『Attica / 日本未公開 (2021)』ではアカデミー賞にノミネートされ、『Tulsa Burning: The 1921 Race Massacre / 日本未公開 (2021)』ではエミー賞を獲得したドキュメンタリー映画職人スタンリー・ネルソンが監督の1人として参加した6作品。

フレデリック・ダグラス生誕から、奴隷時代、そして活動家時代、そして晩年までを60分で駆け巡る。かなりギュっと凝縮されている。途中、ダグラスが得意としていたスピーチなどは、俳優のウェンデル・ピアースがなりきって読み上げるので、とても臨場感と迫力がある。実際のダグラスの声は想像もつかないが、このような深みのある説得力に溢れた声だったんじゃないかと感じる。駆け足ではあるが、奴隷時代にはかなり珍しく文字が習えたこと、逃亡も割りとあっさり出来たこと、人生を変えた妻との出会い、そして活動家として名を揚げていく過程などが丁寧に示されている。こういう名を立つ活動家になるしかない運命みたいのを感じる。奴隷としては、珍しい&あり得ないことが彼を取り巻く。しかも彼はそれを有効に使う頭の良さと詭弁さがあった。

最近、私個人的にリコンストラクション時代を深く勉強していて感じるのは、やはりフレデリック・ダグラスの先見の明。イメージ・印象にとても重きを置いていたことが分かる。そしてそれによる黒人への悪い方への印象効果などを危惧し、積極的にそれを改善しようと試みていた。いつも威厳溢れる表情で上品に着飾った彼の写真の多さがそれを物語る。そして、上記したダグラスの有名な言葉「私は普通ではない教育機関の卒業生で、背中に卒業証書が書かれている」は、お見事である。背中に刻まれているのは、『Emancipation / 日本未公開 (2022)』という映画でも描かれた鞭で叩かれたピーターのように鞭で叩かれた痕。印象効果を良い方に改善していくというだけでなく、別の方向からも試みているのである。奴隷時代の鞭痕の意味は、反抗をしたという証拠でもある。そして、奴隷時代に教育機関では教えない沢山のことを学んだということ。そして、ダグラスには大学どころか、高校すら出てないが、自分で学び、このような功績を残している。

そして、未だにアメリカ黒人はこのリコンストラクション時代から続く印象効果は根強く残り悩ませている。ダグラスの将来を見据えた活動は今も続いているのが、本作で分かる。

Becoming Frederick Douglass / 日本未公開 (2022)

ジム・ブラウン追悼

ジム・ブラウン追悼

ジム・ブラウンが逝ってしまった。最近やっと2年越しに『One Night in Miami / あの夜、マイアミで (2020)』の感想をようやくアップしたばかりで、その締めに「ジム・ブラウン以外は、どんなに願ってももう会うことができない」と書き記した。その3日後の2023年5月18日にジム・ブラウンはこの世界に色んなものを遺して去ってしまった。もう『あの夜、マイアミで』の4人にどんなに願っても実際に会うことはできない。

私にとってジム・ブラウンはとにかくカッコいい人。と書いてしまうと、そのルックスやたくましい肉体的なものだと思われてしまうが、そうではない。色々なバリアや壁をぶち壊したカッコいい人だった。

アメリカンフットボールが大好きで、中でもジム・ブラウンもそうだったランニングバックというポジションが大好きで、仲間のブロック援護もあって相手のタックルをかわし、針の小さな穴に糸を通すように颯爽と駆け抜ける姿は何とも言えない爽快感を私に与えてくれる。その中のトップ、いやトップ・オブ・ザ・トップ、ベスト・オブ・ザ・ベストと言えるのがジム・ブラウン。NFL100年以上の歴史でも、未だに破られていない1ゲーム100ヤード以上平均ラッシングなどの記録保持者である。恐るべき伝説である。

アメフトでも大学時代については、ジム・ブラウンの後輩を描いた『The Express / エクスプレス 負けざる男たち (2008)』でも明らかになっているが、ジム・ブラウンの功績なくして後輩アーニー・デイヴィスの黒人選手初となるハイズマン賞(大学アメフト最優秀選手賞)獲得はないだろう。もちろんジム・ブラウンもデイヴィス同様の活躍をした。が... なぜ獲得できなかったのかは、『エクスプレス』を観てもらえば分かる。

しかもアメフトだけではなく、ラクロスでも伝説の人物。こちらの競技は詳しくないが、確かこのラクロスでも凄い選手過ぎで、大学で奨学金を貰っている筈。そして確か未だにこちらでも記録が破られていない筈で殿堂入りしている(筈という不確定情報が多くてごめんなさい)。

NFLでは、クリーブランド・ブラウンズに所属。1年目にはルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。近年は強いチームとしては知られていないが、ジム・ブラウンがいた頃は、プレイオフに進出し、優勝も果たしている。そのゲームでは114ヤードも走っている。

そして優勝した次の年に引退。優勝した年辺りから、ジム・ブラウンは映画に出始めたのである。選手として優勝してピークを極めていた時の引退は誰もが驚いた。が、その後の映画での活躍も目を見張るものだった。リー・マーヴィンロバート・ライアンジョージ・ケネディチャールズ・ブロンソンアーネスト・ボーグナインなどという錚々たる俳優とともに出演した『特攻大作戦』(67年)で注目を集め、徐々に主演男優としての地位を確立する。『100 Rifles / 100挺のライフル (1969)』では、ラクエル・ウェルチとのラブシーンが異人種間初となり壁を破った。そして時代はブラックスプロイテーションのブームがやってくる。

公民権運動の60年代に、キング牧師マルコムX、メドガー・エバースというヒーローたちが凶弾で次々と暗殺され、黒人の人々は絶望的であった。そんな中、町の黒人ヒーローが暴力や抑圧にも屈せず悪い者たちをやっつける.... という単純明快なストーリーによって作られたブラックスプロイテーションのブームがやってくる。実社会では無理でも、スクリーンで黒人の鬱憤やストレスを発散させたのだ。ブラックスプロイテーション・ブームは、ジム・ブラウンにとってスポーツで培った身体を生かせる絶好の機会であった。多くの観客は、ジム・ブラウンがアメフトの時と同様に悪人をメッタメッタと縦横無尽に倒していく強さに夢中となり憧れとなる。『特攻野郎Aチーム』のミスター・Tは、そんなジム・ブラウンに憧れ、アメフトを始めた程である。その中でも特に続編も作られた『Slaughter / シンジケート・キラー (1972)』が彼の代表作だろう。中期には他のブラックスプロイテーション・ヒーローたちと組んだ『Three the Hard Way / ハードウェイ (1974)』や『One Down, Two to Go / ザ・リボルバー/怒りの38口径 (1982)』などにも参加し、存在感をアピールしていた。80年代に入ると、そのブラックスプロイテーションのパロディ『I'm Gonna Git You Sucka / ゴールデン・ヒーロー/最後の聖戦 (1988)』に出演し、いつもの硬派な雰囲気とは違うコミカルな一面も見せてくれ、ティム・バートン監督の『マーズ・アタック!』などでその一面を覚えている方も多いことだろう。

また友人だったリチャード・プライヤーが開設した映画製作会社インディゴの社長を任されたのがジム・ブラウンだ。コロンビアから当時破格となる40ミリオンドルを出してもらい製作したのが、リチャード・プライヤーが監督まで務めた自身の半自伝『Jo Jo Dancer, Your Life Is Calling / ジョ・ジョ・ダンサー (1986)』。だが、興行成績が上手くいかず、会社も潰れ、2人の友情もなくなってしまった。

そして『He Got Game / ラストゲーム (1998)』出演を機に、スパイク・リーと交流を深め、『She Hate Me / セレブの種 (2004)』や『Sucker Free City / 日本未公開 (2004)』というスパイク作品にも出演している。そしてなんといってもスパイクが監督した『Jim Brown All American / 日本未公開 (2002) (TV)』だろう。スパイクがジム・ブラウンの全てを余すところなく追ったドキュメンタリー作品である。余すところなく過ぎで、彼の陰の部分も明らかになっており、鑑賞後は正直戸惑うのが本音である。タイトルが示す通り、彼は紛れもないオール・アメリカン。スポーツでの記録という意味だけではなく、悪い意味でアメリカという国に翻弄された人生だったのがこの作品で分かる。

ジム・ブラウンは、激動の時代を駆け抜けた。『あの夜、マイアミで』で描かれたように、無意識にあるいは意識的に差別を受けてきたことだろう。私が一番好きな写真がこれ☟。モハメド・アリ徴兵拒否の際に、NFLNBAなどのアスリートたちが集まってアリ支援を発表した時の写真。アリの隣を陣取ってマイクが傾けられており、どう見てもこのグループのリーダー的存在であるのは確かである。どんな時にも声をあげ、そしてその中心にいた。

Any Given Sunday / エニイ・ギブン・サンデー (1999)』撮影時に役に入り込んでしまったジェイミー・フォックスLL・クール・Jに喧嘩が勃発してしまったが、ジム・ブラウンが軽く収めた逸話がある。90年代にギャング同士の抗争が激化したロサンゼルスで、クリップスとブラッズの和解に乗り出したのもジム・ブラウンだった

普通の人は喧嘩の仲裁など中々できることではない。ジム・ブラウンには、少なくとも良くしようというする意志とそれに伴う行動力もあった。ただ、彼も人間であった。弱い所やダメな所はあって、彼を全面的に崇めようとは思っていない。だが彼の功績を忘れようとも思っていない。ジム・ブラウンは、彼が演じてきたブラックスプロイテーションのヒーローのように、町の黒人ヒーローになろうとはしていたのだ。安らかに。そして(彼の自伝映画という形で)また会えると信じている。

American Skin / 日本未公開 (2019) 1790本目

ブラック・ライヴズ・マターは語る『American Skin』

本作の主演であり監督でもあるネイト・パーカーは干された。なぜ彼が干されたのかは、本作には無関係のため書かない。本作はその後の作品(恐らくプレプロダクションはその前)である。今後、彼の作品数は減少どころか見れなくなる可能性の方が高い。そんなネイト・パーカーが今回挑んだのは、「ブラック・ライヴズ・マター」。

2017年7月の夜、元海兵隊で父リンク(ネイト・パーカー)と息子カジャーニ(トニー・エスピノーザ)と車で走行中に警官に呼び止められた。保険が切れていることで、警官の態度が豹変し、状況がエスカレートしていった。その末、カジャーニは亡くなった。1年後、リンクの元に映画学校に通う生徒たちが、ドキュメンタリーを撮りたいと訪ねてきた。裁判は公正に行われず、リンクは失望していたが、カメラを持った学生たちを連れて出かけると、学生たちは信じられない光景をカメラに収めることとなった...

最初の30分くらいは、「あ、普通のブラック・ライヴズ・マター映画かな」と思っていたら、急展開する今までにない感じの作品。モキュメンタリー調なのがリアリティさを際立たせる。とは言え、現実的なストーリーでは全くない。リアリティぽさがありながらも、物語はどことなくファンタジーだ。本作を見ながら、キング牧師が「黒人問題は、白人の問題」と言っていたことを思い出していた。本作のように幾らこちらが感情的になっても、罪を犯した白人が実直に語ることはないと思われる。そこにファンタジーさを感じた。それでも劇中語られた言葉は、恐らく彼らが思っていることであろうとは想像できた。彼ら(白人全員ではなく罪を犯した人たち)にはキング牧師の言葉が理解できない。

そして、素直に実直に語ったところで、この問題が解決するわけでもない。それでも、本作の語りは聞かれるべきではある。

(4点:1/26/21:1790本目)
www.blackmovie-jp.com

Big George Foreman / 日本未公開 (2023) 1853本目

Nothing ever came easy. Every day was a fight.


福顔ジョージ・フォアマンモハメド・アリの「キンシャサの奇跡」の対戦相手としても知られるボクシングのヘビー級チャンピオン。その自伝映画なのだが、アメリカでは劇場公開されたが割りと小規模で公開されたため、配信まで待たされた。これは小規模上映が悔やまれる佳作。『Soul Food / ソウル・フード (1997)』や『The Hate U Give / ヘイト・ユー・ギブ (2018)』などのジョージ・ティルマン・ジュニア監督作品。

1950年代にテキサス州ヒューストンに母と兄弟で古い家に引っ越してきたジョージ・フォアマン一家。母の稼ぎだけだったので、食事にも苦労し、衣服もボロボロだった。その事でいじめられてもジョージは人一倍体が大きかったので、拳でやり返していたが、その分トラブルも多かった。成長したジョージ(クリス・デイヴィス)は、街中で強盗を繰り返し相変わらずトラブルになっていたが、偶然に観たジョブ・コープス(労働省による職業訓練)のCMで、入ることにする。そこには、”ドク”・ブローダス(フォレスト・ウィッテカー)がいた。彼は元ボクサーで、今はジョブ・コープスの教官だった。激高するジョージにボクシングを勧めるのだが...

キンシャサの奇跡とかは流石にリアルタイムではなく、ジョージ・フォアマンといえば、愛想よく売りまくるジョージ・フォアマン・グリルのCM、またはイベンダー・ホリフィールドとの対戦頃がリアルタイム。コロナ禍が始まってスポーツが中止になったりした頃にESPNが昔のスポーツ対戦を再放送していて、その時にもフォアマンvsホリフィールド戦が再放送していて、えらくカッコ良かったのを覚えている。何度も書いているが、キンシャサの奇跡辺りのフォアマンはカッコいい。だが今は愛想のいい笑顔が絶えない丸い福顔の印象。そんなカッコいいフォアマンと福顔のフォアマンを1人の俳優クリス・デイヴィスが演じている。これが素晴らしかった。10代後半(前半だけは別の役者)の反抗期から、ちょっと大人になりボクサーとして成功していく20代、そしてキリスト教に目覚めてすっかり丸くなる30・40代のフォアマン... どれも違和感がないし、ただ単に似ているとかではなく、「嗚呼、フォアマンだな」と思わせてくれた。演技がすこぶる上手いという感じではないのだけれど、そのふり幅に切れ目がないというか、その性格や環境の移ろいがとてもスムーズ。そして、ジョージ・ティルマン・ジュニア監督の演出も素晴らしい。何が素晴らしいかって、選曲。歌詞と物語が一体化していて見事。そして、2時間9分映画だが物語の進み具合もテンポも良くてあっという間に終わってしまう。キンシャサの奇跡、そして友人の裏切り... 色んなことから学んで更に強くなったフォアマンの姿に何より勇気づけられる。アリとの対戦から学んで昇華させたフォアマンには感化される。

貧しさゆえに笑われ、バカにされ... そんな人を救ったのが恨むことではなく才能。だけどその才能も、彼の勇気と努力がなかったから開花することはなかった。そして何よりも幾つになっても学び、挑戦することを恐れなかった人の物語。あの福顔は自らが作り上げた努力の証だ。

(4.75点/5点満点中)
Big George Foreman / 日本未公開 (2023)

恥ずかしながら...

帰って参りました(`・ω・´)ゞ

さすがにこの言葉はリアルタイムでは知りませんが、ビートたけしが良く言っていたので覚えている世代です(念のため)。だけど、この言葉より適切な言葉は見つからない。そう、恥ずかしいけれど、戻るしかないかった。何やっているんだろうと思うけれど、それでも...

って大袈裟に書いたけれど、ホームページを元のURL&サーバーに戻しただけのことです。お知らせしてしまったので、また戻すことが恥ずかしいというか... 本当に申し訳ないです。これについてかなりドラマクイーンになってしまった感がある。やはり無料サーバーだとどうしても制限・制約があって、ずっと無料だと思っていたSSLがたったの90日間の無料だった。SSL、つまり「https:~」でお知らせしていたURLが「http:~」に戻さなくてはならないかもしれず、もし戻ってしまったら毎回のように警告が出るし、色々試せば無料で出来るかもだけど、とか色々考えていたら面倒になって、「あれ? 戻った方が楽?」と気づきまして、戻りました。解約していなかったので。あと何と言ってもツイッターで直リン出来ないのが面倒だった。やはりタダなものほど怖いものはないという勉強になった。

ということで、旧メールアドレスも依然として使えたりするのですが、昔から信用できないので、新しいメールアドレスの方でよろしくお願いいたします。

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SOUL * MAIL

という訳で以前に書いたこのブログも大幅に変更しております。そこで貼ったリンクとかも直しております

写真はパソコンを直しているアイス・T。私もこんな感じだったかもです。

Soul / ソウルフル・ワールド (2020) (VOD) 1789本目

ソウルとは?『ソウルフル・ワールド』

沢山の賞受賞、おめでとうございます。ピクサーの長編アニメーションでは、アフリカ系アメリカ人のキャラが主役で声優というのは初となるのかな。間違っていたらごめんなさいだけど、多分合っている。ピクサー以外ならば、ちょいちょいあるのがアフリカ系アメリカ人アニメ。割りと歴史もあり、人気のジャクソン5がアニメになった『The Jackson 5ive』などは、話数こそ少ないけれど人気だった。あと何と言っても何十年も経ってから実写化されたビル・コズビーの『Fat Albert / ふわっとアルバート (2004)』の元はアニメ。これは超有名だった。映画でも『Robin Harris' Bebe's Kids / ベベズ・キッズ/俺たちラップが子守歌 (1993)』というクラシックが存在する。最近でもTVシリーズだったら、『ブーンドックス』、『ブラックパンサー』(TVアニメ版)、『ブラック・ダイナマイト』、『The Proud Family』、『Mike Tyson Mysteries』etc... リストは続く。ただピクサーが今までなかっただけで、アフリカ系アメリカ人アニメーターの世界も沢山の人材を生んでおり、活躍している。ピーター・ラムジーとかラショーン・トーマスとかカール・ジョーンズとか。そんな中、ピクサーから『ソウルフル・ワールド』が誕生した。

ジョー・ガードナー(ジェイミー・フォックス)は、中学で音楽の先生をしながら、ジャズミュージシャンを目指していた。母(フィリシア・ラシャド)は、ジョーには安定している先生の仕事を続けて欲しいと願っていた。そんな中、憧れのジャズシンガー、ドロシア・ウィリアムズ(アンジェラ・バセット)がバンドのオーディションをやっていると聞き、見事に勝ち取った。浮かれて歩いていた所、ジョーはマンホールに落ちてしまい、気が付くと「グレート・ビヨンド」と呼ばれるソウルの世界を彷徨っていた。どうやら「きらめき」を見つければ、地球に戻れるとしり、躍起になるが...

日本的に乱暴に書いてしまえば、いわゆる三途の川を渡る前で浮かばれずに彷徨っている状況ってことですよね。ジョーの場合はこれからという時に... なので後悔ばかりが残る。そんな中、ジョーは必至に「きらめき」を探すことになる。これは大変だと思う。人生長く生きていても「きらめき」なんて、早々出合えない。というか、「きらめき」って何よ! と、普通の大人なら一番先に思ってしまう。それ位、出合えないもの。だから貴方の「きらめき」とは何ですか? というのがピクサーなのでしょう。意外と『ロード』(日本の歌のアノ)ぽいなーと。でも、この年になると、何でもないような事が一番だってことも知っている。

原題は『ソウル』。魂。自分のサイト名を「Soul」とつけた位、この単語には思い入れがある。今ではR&Bと言われているけれど、私個人は今でもソウル・ミュージックと呼びたい。俳優・歌手ハリー・ベラフォンテは、「民族の文化は民族の魂であると信じている」と言っていた。過去の『ベベズ・キッズ』や『ブラックパンサー』には、文化を感じたがゆえに、真似できない強烈なソウルを感じた。とても素晴らしい物語だけれど、そういった意味でのソウルだけが欠けていた。ジェームス・ブラウンの曲を聴いた後にグッとお腹の中が熱くなる感じのあのソウルではなく、普通に超感動する感じだ。

(4.5点/1789本目)
Soul / ソウルフル・ワールド (2020)

The Learning Tree / 知恵の木 (1969) 1847本目

Some of the people are good and some of them are bad -- just like the fruit on a tree


一番最初はもう何十年の前に観た。幾度かTCM(ターナー・クラシック・ムービー)にて放送していたが、今回はたまたまランチ時に放映していて、偶然にも観た。そしたらどっぷりとハマってしまい、久々に真剣に観ることが出来た。ちゃんと感想書いていなかったので、この機会に。と、その前に、本作は大手の映画会社より初めて黒人監督が起用された映画。その監督が、「ライフ」誌の専属カメラマンで既に有名だったゴードン・パークス。そのパークスの半自伝的小説の同タイトルが映画化となり、監督・脚本家・製作者として起用された作品。つまりブラックムービーの金字塔作品だ。

1920年代のカンザス州にある小さな町は農業が盛んで、ニュート(カイル・ジョンソン)やマーカス(アレックス・クラーク)という子供たちが畑からリンゴを盗んだ。畑の持ち主であるジェイク(ジョージ・ミッチェル)に見つかり、その末にマーカスがジェイクに怪我をさせてしまう。結果、マーカスは刑務所に入れられる。その間、ニュートは罪滅ぼしでジェイクの元で働き始めたり、町に来た女の子と恋に落ちたりしていた。だが、マーカスが6か月で出所し、女の子とニュートの間に信じられないことがおきたり、ジェイクの畑で殺人事件が起きたりと、ニュートは必要以上に大人になっていくのだった...

以前に観た時は、その映像の美しさにただただ感動したのを覚えている。美しさゆえに瑞々しさが増し、大人になっていくという青春物語がより印象的だった。今回、久々に鑑賞して、ただただその物語の深さに圧倒され、そして何ともいえない余韻が残った。今も強く残り過ぎていて、切なさとやるせなさが私に覆いかぶさっている。これは、『アラバマ物語』をひっくり返した壮大なる人間物語。『アラバマ物語』は無実の黒人男性が人種差別蔓延る南部の町で命を奪われそうになるので、白人弁護士が無実にしようとする物語だが、こちらは無実の白人男性が人種差別蔓延る中西部の町で有罪になりそうになるが、黒人目撃者が... どうするかという物語でもある。実は、本作を再見する前に、私が住む地元R&Bラジオ局がリスナーにこんな質問を投げかけていたのを思い出した。「銃で脅され強盗被害に遭った。母は法廷で証言すべきというけれど、父は仕返しなどが怖いので証言はすべきではない。どうしたらいいのか」という質問だった。リスナーも証言すべき、すべきでないの両者真っ二つに分かれた。特にアメリカ黒人にとって、この問題はジレンマであろう。特に本作の場合は、簡単に答えが出せるわけがない。小さい町ゆえに、色々な人や物や事が複雑に絡み合う。そう言った中で、ニュートの母や盲目のおじという大人たちが助言し、何が大事なのかを促す。そこまでの過程をとても丁寧にパークスは描いている。ニュートとマーカスは両者ともに貧しい家庭に生まれ育ち、2人で一緒にリンゴを盗んでいる。だがマーカスだけ捕まる。そしてニュートには父と母という両親がいたが、マーカスには売春宿で働いたりする不埒な父だけで、自身も売春宿で働くことになる。パークス監督は恨みを募らせるマーカスにも寄り添い、カーニバル(ステイトフェア)の遊びのボクシングだが、マーカスとニュートをルールに則ったボクシングで1対1で対決させている。それでいてニュートという少年をただのヒーローとして描いていないことに私は感動した。彼はヒーローではない。いやヒーローと呼ぶ人もいるかもしれないが、私はそうは思わない。母やおじが促したように、彼は人間として当たり前のことをしただけなのである。黒人とか白人の前に、1人の人間。それが出来たニュートが大人になれたのだ。最後の最後までニュートは、マーカスと向き合う。その出した答えも、また人間であった。恐らくその答えにマーカスも何かを気づいたことだろう。だが、黒人とか白人ということが大事である保安官が本作で一番大人にはなれておらず、そして人間からは程遠い存在であった。だが、そういう人々が権力を握っているという現実を突きつけられ、とてもやるせない気分になった。

恐らくというか、確実にゴードン・パークスは『アラバマ物語』を意識していないであろう。アンサー映画にするつもりもないだろう。偶然にもそうなった。映画という媒体で、視覚を楽しむ映像では最大限の美しさを引き出し、そして脳を刺激する物語は深く考えるに等しい壮大な人間物語を描いている。我々が必要なのは1人の偉大なるヒーローだけでなく、1人1人の思慮深い人間であると改めて感じる。この偉大かつ壮大な「知恵の木」に熟した物語は、語り続けていくべきである。

(5点満点)
The Learning Tree / 知恵の木 (1969)