Knowledge is stronger than belief
キリスト教のイエス・キリストが存在していた頃を舞台にした「フィクション」映画。もちろんその頃のお話なので、聖書に登場する人物や話も出てくるが、あくまで「フィクション」を強調する物語で、現在の状況や事件も取り入れた虚構である。『The Harder They Fall / ザ・ハーダー・ゼイ・フォール:報復の荒野 (2021)』のジェイムス・サミュエル監督・脚本。ラッパーのジェイZが製作総指揮として参加。主演には、『Judas and the Black Messiah / ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償 (2021)』のラキース・スタンフィールド。
紀元前33年の日曜の朝、エルサレムにて。物乞いが町で小銭をねだる中、クラレンス(ラキース・スタンフィールド)と親友のイライジャ(RJ・サイラー)はマグダラのマリア(テヤナ・テイラー)と戦車競走をしていた。それに勝てば今までの賭けの借金を取り返せる筈だった。クラレンスは、高利貸しから追われていたり、アヘンを吸ったり、双子のトーマスと確執があったりと、不埒な生活を繰り返していた。そんな中、破れかぶれのクラレンスは、洗礼を受け、メサイア(救世主)となったと捏造していくが...
今までかつてない程に、この一個☝のプロット書きに苦労した。「エルサレム」としたけれど、今ならエルサレム旧市街。しかも「Lower City」。日本語探したけれど、全然出てこなかった。こんなに気を遣うプロット書きは初めて。同じくキリスト教を扱っているタイラー・ペリーなら、こんなに苦労することはない。「フィクション」ではあるが、全然関係ないこともない。だからといって、キリスト教じゃない人々がどこまで理解できるのか、そこが一番難しいところだと感じてしまいがちだが、そこまで肩肘張らなくて観れるのである。第3幕に分かれた本作では、1-2章は誰でも分かりやすいようなコメディと皮肉が散りばめられている。途中は、スパイク・リーへのオマージュかと思うシーンまであった。ラストの3章は、他のキリスト教映画で観たり、一般知識として知っている部分がシリアス路線ではあるが、突然のコメディを入れて物凄い緩急をつけている。そう本作は、元々のアイデアからとても大胆に仕掛けていて驚きの連続なのである。そんな大胆な作品の中で、主演のラキース・スタンフィールドをはじめとする俳優たちがキャラクターを活き活きと輝かせ魂を吹き込み、物語を分かりやすくしているのが印象的だ。スタンフィールドと『Haunted Mansion / ホーンテッドマンション (2023)』で共演したばかりのチェイス・ディロンの掛け合いに相性の良さを感じた。だが一番の笑いを引き出したのが、ベネディクト・カンバーバッチ。そして特に観客を惹きつけるのが、バラバを演じたオマール・シーであろう。細かく書き出したら止まらないほどに俳優の魅力で成立している部分も多い。
一見、タイラー・ペリーのゴスペル作品より小難しい印象を受けるかもしれないし、キリスト教をこねくり回しているかのように感じるかもしれない。だが最後まで観ると、これはやはり信心深いキリスト教映画なのだと強く感じる。大胆に見せながら、かなりシンプルにメッセージを伝えているのである。
(4.5点/5点満点中)
The Book of Clarence / 日本未公開 (2024)