One Night in Miami / あの夜、マイアミで (2020) 1787本目
過度期にある4人の伝説をギュッと詰めた『あの夜、マイアミで』
マルコムX、モハメド・アリ、サム・クック、ジム・ブラウンという時代を切り開いた人たちの物語なのだけど、残念ながらこの物語はフィクションである。この4人がマイアミで「あの夜」一夜を一緒に過ごした事実はない。が、4人が仲良かった事は真実。マルコムXとモハメド・アリは言わずもがなだが、サム・クックとモハメド・アリは特に親しい間柄だし、モハメド・アリがベトナム戦争徴兵拒否した時にNBAやNFL選手などがアリのために立ちあがったが、その時のリーダー的存在がジム・ブラウンとカリーム・アブドゥル=ジャバー(『死亡遊戯』のアノ!)。彼ら4人の60年代の物語をギュっと「あの夜」一夜に詰め込んだドラマ。元々は、舞台。その戯曲を書いたのが、『Soul / ソウルフル・ワールド (2020)』の脚本も担当しているケンプ・パワーズで、映画化でも脚本を担当。監督は、女優レジーナ・キング。キングにとってTV映画以外では初となる長編映画監督作品。
1963年、ロンドンのウェンブリー・スタジアムでカシアス・クレイ(イーライ・ゴリー)は、ヘンリー・クーパーと対戦していた。サム・クック(レスリー・オドム・Jr)は、コパカバーナというクラブで白人だけの観衆の中、嫌味を言われながらも歌っていた。ジム・ブラウン(オルディス・ホッジ)は、知り合いの男性から招待されるが、その男性は悪気もなくジムに人種差別語を放つ。そしてマルコムX(キングズレー・ベン=アディル)は、妻ベティに所属しているネイション・オブ・イスラムを去ることを告げる。その4人がある日の夜、マイアミに集い...
伝説、偉大、時代の申し子... な4人の偉大で伝説的でどのように一時代を築いていったかが、本当にギュっと見事に詰まっている。サム・クックは途中であの曲を作ることがクライマックスになるのが凄く分かったし、マルコムXはネイション・オブ・イスラムを去る過度期にあり変化していく途中、カシアス・クレイもモハメド・アリになっていく時期で、ジム・ブラウンはNFL選手から映画俳優へとなる頃。1963年という年も、1964年に公民権法が設立されるので、公民権運動にとっても変化の時期。そういった「変化の時期」に、彼らがどのように思い、願い、そして成長を遂げていったのかが、4人の交流を描くことで見えてくる。そしてレジーナ・キングの演出も素晴らしく、舞台の映画化だと、どうも密室で話しが進む事が多いが、本作では映画らしい映画でしか出来ない奥行と空間を感じることが出来た。そして何より4人を演じた俳優たちが彼らの魂を蘇らせている。サム・クックに至っては、魂だけでなく、あの曲が持つメッセージとパワーをも蘇らせていた。
ジム・ブラウン以外は、どんなに願ってももう会うことができない。でも、素晴らしい映画だと、それすらも可能になる。映画って凄いな。改めて映画のパワーと良さを純粋に感じてしまった。
(5点満点:1/16/21:1787本目)
One Night in Miami / あの夜、マイアミで (2020)