Burning Cane / 日本未公開 (2019) 1729本目
絶望の底に見えるもの。とんでもない19歳が現れた『Burning Cane』
あなたは17歳のころ、何をしていましたか?何を考えていましたか?私が17歳だったころ... 遥か遠い過去のこと過ぎで記憶が無いけれど、映画の脚本を書こう!とペンを握った記憶がない事だけは確か。いや、そう思ったとしても、実際には書く実力や、書けるという自信や、書いてやろうという勇気すら無かったというのが真実。ところが、この作品の脚本家であり監督のフィリップ・ユーマンズには、その勇気も自信も実力もあった。2000年というミレニアム生まれのユーマンズは、17歳の時にこの脚本を執筆し、そして今現在19歳でこの映画を発表している。とんでもない人である。いや、過去には全く同じとんでもない人がいた。『Straight Out of Brooklyn / ストレート・アウト・オブ・ブルックリン (1991)』のマティ・リッチだ。彼も、17歳でその脚本を書き、19歳の時に映画を発表している。そういう人達の作品は鮮明に記憶に残る。今回も恐らく...というか、確実に私の記憶に鮮明に残るであろう。ロバート・デ・ニーロのトライベッカ映画祭にて上映され、作品賞などを受賞。その際、本作を大変気に入った映画監督エヴァ・デュヴァネイが、自身の配給会社「Array」が配給権を獲得し、アメリカではNetflix配信されている。
ヘレン(カレン・カイア・リヴァース)は、愛犬ジョジョについて回想していた。ジョジョは、毛包虫症という皮膚病を患い、ヘレンはジョジョの為に色々と試してみたが、どれも結果は出なかったことを。一方、ヘレンの息子ダニエル(ドミニーク・マックレラン)は仕事がなく、お酒を浴びるように飲みながら、家で息子ジェレマイア(ブレリン・ケリー)と時間を潰していた。そして街の教会の牧師(ウェンデル・ピアース)もまた、広大な畑に囲まれた真っすぐの2車線を酒気帯び運転で蛇行を繰り返し運転していた。
と、起承転結が無さそうなプロットだ。ルイジアナ州ニューオリンズの郊外の人口少ない小さな街で暮らすこの3人を淡々と追っている。何というか、『Killer of Sheep / 日本未公開 (1977)』のようでもある。LAを舞台に淡々と男の生きる姿を描いた作品。物語がないようで、ちゃんとしっかりとしたその男の物語が描かれた作品は、私の生涯ナンバーワンの映画に今でも君臨している。3人の物語が描かれていないようで、しっかりと描かれている。そしてどことなく、私が知るアメリカの小さな田舎町を思い出した。夫の故郷がこんな感じなのだ。空虚な感じ。小さな町ゆえ、住民全員がお互いを知っているからこそ感じる、私みたいな異物が混ざった時の違和感。でも閉鎖的とも違う、上手く説明出来ないけれど、「無」な感じ。吸った者にしか分からない「無」な空気感。あの感じをすごくスクリーンから感じる。それをスクリーンで感じさせるのは、熟練されたプロでも中々出来ることではない。まるでウィリアム・フォークナーの小説のように、南部特有の土の匂いを感じる。そして多くの映画批評家が口をそろえて「まるでテレンス・マリックの映画のようだ」と言っている。19歳の監督を称賛する言葉としてこれ以上のものはない。でも私が最も驚かされたことは、それではない。聖書を引用しつつ、絶望を描いたことだ。あのエンディングはどうにでも取れる。でも、どう解釈しても、やはり絶望だけが残る。17歳にして、このような救いのないエンディングを書けたのは驚きである。このままではいけないのだ。
このままではいけないことを17歳という未来を担う人はちゃんと知っている。しかもそれを書ける人が現れた。それが希望。フィリップ・ユーマンズは、我々の希望なのだ。
(5点満点:1729本目)
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