マーカス・ガーベイと言えばマルコムX。マルコムXの父親と母がマーカス・ガーベイのユニバーサル・ニグロ・インプルーヴメント・アソシエーション(UNIA)のメンバー。しかもお父さんは地方リーダーでお母さんも秘書という、ガッツリと活動していたメンバー。という事で、私世代の人は「マルコムX自伝」でマーカス・ガーベイの名前を覚えたんじゃないかな?という訳で、この映画は歴史・伝記ドキュメンタリーの鬼才スタンリー・ネルソン監督による、初のマーカス・ガーベイ映画である。
マーカス・ガーベイは1887年にジャマイカで生まれた。お父さんがメイソンリー(レンガ・石工)職人だったので、比較的に豊かな家庭環境に生まれ育った。しかしその父はとても厳しい人だったようで、深く掘った墓予定地に幼いマーカスを一晩置いてしまうという、今なら確実に児童虐待で逮捕されるような父親だった。小さな頃から本が大好きだったマーカスは何時間でも本を読んでいられたという。その頃に白人の友人が居たが、高校位になって、白人の友人の父から反対されるようになり、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師も経験した事を経験。14歳で学校を中退し、印刷工として職を得た。23歳頃に中央アメリカに移動。パナマ運河建設に力仕事で参加した。その頃にアメリカの黒人教育者ブッカー・T・ワシントンの「奴隷から立ち上がりて(Up from Slavery)」を読んで感化される。ジャマイカに戻り、エイミーと出会う。そして29歳の時にニューヨーク・シティに1人で渡る。ハーレムにて印刷工の仕事を得る傍ら、様々なスピーチを研究。そして、イリノイ州の東セントルイスで大規模な暴動が起きて、少なくとも40人(100人とも言われている)の黒人が虐殺された。W・E・B・デュボイスをはじめとするNAACPは「サイレント・マーチ」を開催。しかし、マーカス・ガーベイがこの時に「黙っている場合ではない、今こそ団結を!」と呼びかけ、一躍有名になる。そして、その直後にUNIAを結束。
ってそこからが面白いですよ。優れた指導者でもあり、優れた商人っていう感じだ。今でいうとジェイーZぽさがある。ビジネスにも物凄く長けていて、UNIAのメンバーからの僅かな会費を上手くビジネスに回して、黒人運動に使い繁栄させていた。彼が手掛けたものは、工場から船舶までと幅広い。何ていうか、日本だったら彼の伝記を池井戸潤に書いてもらいたい感じ。マーカス・ガーベイは一人『アキラとあきら』。階堂彬ぽい社長になる運命と山崎瑛みたいな人情派な優秀さの両方がマーカス・ガーベイにはあるなーと感じた。マーカス・ガーベイと言えば、ハーレムでの行進の写真。あの時のフィーバーぶりを色々な人々が語っていて、しかも貴重な映像もあったりして、マーカス・ガーベイのカリスマ性を垣間見る。
そしてそんな優秀なマーカス・ガーベイは当然のように、FBIのJ・エドガー・フーバーに目をつけられる。FBIのスパイ工作員が「800」とか「P-138」とか、何か映画好きにはワクワクする名前の付け方だった。郵便詐欺(もちろんフーバーの罠)で、アメリカを追われ、ジャマイカに戻ったが、人々にバカにされる日々だったいう。その後にロンドンに渡り、若干52歳で他界。
何とも切なくなった。この物語、もっともっといろんな形で話されるべきだとも思った。埋もれさせておく物語ではないのだ。
Marcus Garvey: Look for Me in the Whirlwind / 日本未公開 (2000)(4.75点:1594本目)