I'm a bodybuilder. Bodybuilders can't have scars.

邦題は分かりやすく『ボディビルダー』。主役はボディビルダーなのだが、原題の『マガジン・ドリームス』が物語に近く、ボディビル系の雑誌の表紙を飾りたい主役のボディビルダー。と書いても、一筋縄ではいかぬ作品。監督は『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』のイライジャ・バイナム。内向的な主人公を描くのがとても上手い。そんな主人公を演じたのがジョナサン・メイジャーズ。実は、本作品、公開前からジョナサン・メイジャーズのオスカー作品になるのでは? と言う声が非常ーーーに高かった作品。だが、メイジャーズのタクシーでの一件で、作品がまさかのお蔵入りになりかけた。そこまで評判高かったのに... ネイト・パーカーの『The Birth of a Nation / バース・オブ・ネイション (2016)』と状況は一緒。なので全米での公開もひっそりと。
キリアン・マドックス(ジョナサン・メイジャーズ)は、過去のせいで内向的な性格だったが、雑誌の表紙を飾るボディビルダーに憧れており、大会などに出て頑張っていた。特にヴァンダーホーン(マイク・オハーン)に憧れ、何度もファンレターを書いて送っていた程。家では、祖父(ハリソン・ページ)の介護をし、スーパーでバイトしていた。そのバイト先でレジをしているジェシー(ヘイリー・ベネット)に惹かれていた。キリアンは、ボディビルを極める為にステロイド剤注射などに手を染めていき、怒りをコントロールできなくなっていたが...
何でしょう、この閉塞感。エリック一家を描いた『アンアンクロー』を鑑賞後にも感じたこのヒリヒリ感。痛々しい、とにかくこう胸が締め付けられる思い。しかも、キリアンには同情してしまう。何と言うか、観客はキリアンを冷たく突き放すことが出来ない。祖父を大事に介護しているというのも絶対にある。ステロイドに頼ったり、有名になりたいからと短絡的な思想になる自己責任の弱さみたいのはあるけれど、どんな状況でも自分の体に傷つけないとか、大会に出場するという大胆さと強さみたいもある。彼の不幸は大抵が彼のせいでないのもある。面白いのが、本作品の時代設定はハッキリしていなかったと思うが、キリアンの洋服やGoogleのロゴなどから、ちょっと前なのは分かる。今だったら、ChatGPTでもうちょっとだけ配慮のある回答が得られるだろうが、Google検索だとそうはいかない... というのも面白い。そして正直、これ以降、ジョナサン・メイジャーズはキリアンにしかみえない。メイジャーズが笑っているのを見るだけで、「キリアン、幸せそうで良かった」と思ってしまう程、キリアンとメイジャーズが一体化している。
本作品の一番好きなのが希望。祖父の存在が大きい。よく聞いてみると、祖父は普段からキリアンに優しい言葉を掛けている。それがステロイドにも負けないキリアンのブレーキになる。希望がある。ふわっと最後に包み込んでくれる。他の作品では感じられない感覚。だから本作品は中毒になる。
(4.75点/5点満点中)
Magazine Dreams / ボディビルダー (2023)