ジム・ジャームッシュの「リミッツ・オブ・コントロール」に出演していたイザック・ド・バンコレが主演のドイツ映画です。ドイツ映画なんて何年ぶりでしょうか??多分「Bagdad Cafe / バグダッド・カフェ (1988)」以来?しかもあの映画は西ドイツ映画。西と東が統一してもう何十年も経つっていうのに、私ったら。
この映画の話は実際に1989年にあった事件が元になって制作された作品。タイトルにもなっているフレデリック・オトモというカメルーン出身の男性がリベリアを経て、ドイツのシュトゥットガルトで生活していた。と言っても政治的亡命者なので、移民ステイタスにより仕事も限られている。しかもドイツじゃ、黒人は目立つ。オトモの誕生日だったその日に限って彼が黒人故に様々なトラブルに巻き込まれている。それらがカトリック教徒で普段は一番大人しい彼の発火ボタンになってしまう。ドイツに居たら私だって嫌でも目立ってしまう筈。あんな風に続いたら、私なんてもっと早くにギャーっとキレちゃってるかもしれませんわ。まあでもオトモに遭った出来事を他人は知らないから、それを更にプッシュしてしまう。そのオトモを演じたイザック・ド・バンコレの静かな演技がこれまた切ない。ラストシーンは息をのんでしまう。オトモと一緒に描かれているのが、オトモを追う警察官で正義感のある男ハインツ。彼は別にオトモが黒人だから必死に追っているのではなくて、警察官の任務としてそして昇進の為に執拗に追う。途中からは、オトモとハインツの追いつ追われつの緊迫したドラマになっていきます。しかし、その緊迫した中でオトモがかなりやさぐれていた時に偶然会うのが小さな女の子のシモーネちゃん。この子が良い感じでこれまたドラマに関わってくる。
感想にも書いてしまいましたが、ドイツのメルケル首相は「『さあ、多文化社会を推進し、共存、共栄しよう』と唱えるやり方は完全に失敗した」と発言している。「完全に」である。イスラム系住民について聞かれた際の発言であって、ドイツにおける黒人の事で無いしその首相の発言のかなり前に制作された映画ではあるが、この首相の発言に真っ向対抗したくなるようなメッセージがこの映画にはある。多文化社会を家庭という小さな枠内であるけれど実践している私にとって、「完全に失敗」なんて事は言われたくないのです。
それにしてもこの映画の中でベンツがやたらと褒められていたので、さすがドイツ映画だね!と思っていたら、エンディングの提供でベンツの名前を発見。そういう事か!
確かに暴力はいけない。でもあの状況で人として何が出来るんだろう?悪くないのに完全に不利な状態に陥る事は確か。どちらにしても切ないエンディング。でもあそこまでの悲劇は無かっただろうね。うーん切ない。実話だと思うと余計に切ない。そしてドイツ語にも「Nワード」があったなんて...ドイツ語2年間習ったけど知らなかった。切ない。
(5点満点:DVDにていっひりーべえす言いながら鑑賞)