最高ですね。やっぱりアフリカ映画の中でも想像力豊かな芸術的な作品が多いのがセネガル。そこから出てきたのが、今回のジブリル・ジオップ・マンベティ監督。ロシアなどの海外で映画を学んだ同郷のウスマン・センベーヌとは違い、独学で映画を勉強。アフリカ映画にして初のアバンギャルドな作品。もう凄いです。オープニングは何となくネオリアリズムぽくもあり、主人公が牛の角をつけたバイクで反逆的に逃避するロングショットは何となくニューシネマ的でもあり... 主人公の白昼夢な映像はやっぱりアバンギャルド。これがアフリカなのか?!と思わせてくれます。でもこれもやっぱりアフリカなのですよ。アフリカの大地が生んだ映像革命。素晴らしいです。でも、この映画はアフリカ本土では余りに独創的過ぎて、あまり人気は無いらしい。その理由はやっぱりアフリカの人々には口承文学が根付いている為に、このような物語が自由自在に飛びまくる新しいスタイルは一般大衆には受け入れられなかったんでしょうね。しかし、ここ日本やヨーロッパやアメリカでの評価は高い。何となく、アメリカのブラックムービーを変えた「Sweet Sweetback's Baadasssss Song / スウィート・スウィートバック (1971)」にも似てる(って書くと、ブラックムービーファンは無性に観たくなる筈)。この作品、マーティン・スコセッシ監督も近年になって見つけたらしく、大好きな作品らしいです。アフリカ版のジャン=リュック・ゴダールとまで言う人も居る。
物語はセネガルの貧しい地区に住んでいる青年のモリとアンタという大学に通う女の子という2人のカップルが主役。モリは牛の角をつけたバイクでアンタを迎えに行ったりするが、その途中で不良のグループに虐められたりもする。アンタの方も「大学なんて!」とやたらとウルサイおばさんとかが居たりする。セネガルが嫌になってしまい、2人でパリに行こうと決意。そのパリ行きのお金を調達するのは簡単さと、モリは言う。人を騙せば良いだけのこと。短絡的な若者の姿がありますね。そのパリへの慕情は、そのパリに行って成功したアメリカ人のジョセフィン・ベーカーの「Paris, Paris」という曲が効果的に使われているんです。しかも「パリ、パリ、パリ、そこは地球上のパラダイスよ!」という歌詞の部分だけが繰り返し使われております。そこはやっぱりジョセフィン・ベーカーのイメージが上手く利用されていると思います。そしてパリがセネガルの若者にとっての憧れなのは、フランスが植民地にしていたという悲しい過去が切っても切れないですね。とは言え、ジブリル・ジオップ・マンベティ監督は、センベーヌとは違い果敢に強烈なメッセージを伝えようとする政治的な監督ではありません。この映画は日常のありふれた若者像を描き、その若者が描く夢を映像にしています。
でも、この時代にオカマな男性が出てきたりするのは、さすが前衛的。そしてずっと何かから逃れようとしている所が、世界共通の若者の姿なんでしょうね。だからアフリカ映画だから取っ付きにくいのでは?とか、絶対に無いです。これもアフリカ、いやこれがアフリカなのです。
マーティン・スコセッシが絡んでいるウェブサイト「The Auteurs」でも観れるみたいですよ。
しかしオープニングのシーンは強烈。今だったら動物愛護団体とかうるさいでしょうねー。シーシェパードもビックリですよ。でも牛はヨーロッパで食べる「文化」だから、文句言われないか... あれがくじらだったら...
(5点満点:DVDにて鑑賞)