SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて


*10/15/2018に「ブラックムービー ガイド」本が発売になりました!よろしくお願いします。(10/15/18)

*『サンクスギビング』のパンフレットにコラムを寄稿。(12/29/23)
*『コカイン・ベア』のプレスシート&コメント&パンフレットに寄稿。 (09/27/23)
*ブルース&ソウル・レコーズ No.173 ティナ・ターナー特集にて、映画『TINA ティナ』について寄稿。 (08/25/23)
*『インスペクション ここで生きる』へのコメントを寄稿。(8/01/23)
*ミュージック・マガジン1月号にて、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のレビューを寄稿。(12/2/22)
*12月2日放送bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」にて『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』についてトーク。(12/2/22)
*10月7日より上映『バビロン』にコメントを寄稿。(10/6/22)
*奈緒さん&風間俊介さん出演の舞台『恭しき娼婦』のパンフレットに寄稿。(6/4/22)
*TOCANA配給『KKKをぶっ飛ばせ!』のパンフレットに寄稿。(4/22/22)
*スターチャンネルEX『スモール・アックス』オフィシャルサイトに解説を寄稿。(3/29/22)
*映画秘宝 5月号にて、連載(終)&最後のサイテー映画2022を寄稿。(3/21/22)
*「This is Charles Burnett チャールズ・バーネット セレクション vol.1」にコメントを寄稿。(3/19/22)
*キネマ旬報 3月上旬号の『ドリームプラン』特集にて、ウィル・スミスについてのコラムを寄稿。(2/19/22)
*映画秘宝 4月号にて、連載&オールタイムベストテン映画を寄稿。(2/21/22)
*映画秘宝 3月号にて、ベスト10に参加。(1/21/22)
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Canal Street / 日本未公開 (2019) 1716本目

他とは違うブラック・ライヴス・マターを描く『Canal Street』

ブラック・ライヴス・マター。この言葉が使われるようになったのは、2012年にフロリダ州で起きたトレイヴォン・マーティン殺害事件だ。丸腰で無罪の17歳の少年トレイヴォン・マーティンが、自警団を名乗るジョージ・ジマーマンによって殺害されたが、ジマーマンは自衛を主張して無罪になった事件である。その前から、黒人の間では鬱憤が溜まっていた。2009年に起きたオスカー・グラント殺害事件もその要因の一つで、後に『Black Panther / ブラックパンサー (2018)』のライアン・クーグラー監督が『Fruitvale Station / フルートベール駅で (2013)』にて鮮明に映画の中で描いているので記憶している方々も多いだろう。そして、最近では後が絶えずニュースで相変わらず同じような事件が伝えられている。この映画はそんな状況を伝えているけれど、ちょっと趣向が違う作品。シカゴが舞台。

コリ(ブリシェア・グレイ)は、父(マイケルティ・ウィリアムソン)の仕事の関係で、シカゴの割りと良い地域に引っ越し、それまでとは違った白人学生の多い学校に転校した。白人生徒ブライアン(ケヴィン・クイン)から言いがかりを付けられてイザコザとなるが、逆にそれで仲良くなった。ブライアンに誘われてパーティに出かけ、そしてその帰り道、コリが新車で送り届けたブライアンの家の前で何者かがブライアンを射殺した。コリはブライアン殺害事件の容疑者として逮捕される。コリの父は弁護士で、息子の容疑を晴らそうとするが...

ということで、若い黒人が殺人事件の容疑者として展開していく物語。なので、黒人が銃の犠牲となってしまう「ブラック・ライヴス・マター」とは違うのです。でも、その事件を取り囲む様子は「ブラック・ライヴス・マター」と同じ。ラジオDJたちが討論し、大きな教会(メガチャーチ)が関わっていて、そしてメディアとSNSで煽るという状況はそのもの。そして劇中、終盤まで誰が犯人か分からずサスペンス的な要素もある。犯人が分からないので、世間&社会は、コリとその周りの人物たちを人種という枠にはめた偏見だけで語っていく。そんな怖さも描いております。コリを演じたのが、『Empire / Empire 成功の代償 (2015-Present)』にてライオン家の3男ハキームを演じているブリシェア・グレイ。ハキームもそうだけど、見た目が偏見の目で見られそうだよねーと、上手いキャスティングです。監督は、シカゴ出身のライアン・ラマーという新進系の監督。

タイトルは、A$APロッキーの曲に同じタイトルがありますが、それとは意味が異なっている。映画冒頭で説明されているのが、「偏見なく平等に機会に通じる、全ての社会に存在するストリートのこと」という名詞が「Canal Street」。他とは違った感じでブラック・ライヴス・マターを描いているのが面白い。

(3.25点:1716本目)
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Don't Let Go / 日本未公開 (2019) 1715本目

時空を超える限界『Don't Let Go』

デヴィッド・オイェロウォとストーム・リードが出演のホラー/スリラー映画。なのだけど、何だか違和感がある。オイェロウォとリードの作品なのに、あの人の名前が見当たらない。そう、『When They See Us / ボクらを見る目 (2019)』のエヴァ・デュヴァネイ監督ですね。2人は、デュヴァネイ監督のミューズ。オイェロウォは、『Middle of Nowhere / 日本未公開 (2012)』に出演し、『Selma / グローリー/明日への行進 (2014)』では主役のキング牧師を演じた。ストーム・リードは子役として活動していたが、『A Wrinkle in Time / リンクル・イン・タイム (2018)』にてデュヴァネイ監督に主役に抜擢されている。『ボクらを見る目』でもコリーの彼女役で出演してますね。そんな2人が、今回はデュヴァネイ監督を離れ、ジェイコブ・エステス監督作に挑んだ作品。エステスはハリウッド版『ザ・リング/リバース』の脚本家の1人。最近ではホラー映画といえば...となったブラムハウス制作。

映画を観たあと、迎えにくる筈だった両親が来れず、近所に住む伯父で刑事のジャック(デヴィッド・オイェロウォ)に電話するアシュリー(ストーム・リード)。2人は仲良く、ダイナーで食事をした。後日、再びアシュリーから電話を受けたが、様子が変で途中で切れてしまった。嫌な予感がしたジャックは、アシュリーたちの家に向かう。そこで悲劇が待っていた。自暴自棄になるジャックだったが、刑事として事件を追及していこうとする。すると、アシュリーから電話が掛かってくる。掛かってくるはずなどないのに。混乱するジャックだが、それから度々アシュリーから電話が掛かってきて、事件の真相に少しずつ近づいていくが...

ツイッターで先に書いてしまいましたが、アメリカでは映画『オーロラの彼方へ』の緩いリメイクだとか言われております。でも私は、去年辺りにフジテレビで放送されていた『シグナル 長期未解決事件捜査班』に近いと思った。いや、そのフジがリメイクした韓国の『シグナル』に近いのかもしれないけれど、私はそれは見ていないので何とも言えない。つまり、過去と送信する系のファンタジー/スリラー作品ですね。『オーロラの彼方へ』の方はよりファンタジーでロマンチックだった印象がある。今回のこの作品は、そんなファンタジーぽい所を残しているけれど、どちらかというと『シグナル』の事件を解決していくスリラーぽさが強い。でも結末は、この作品が一番ファンタジー。だから、最後が「あれ?」となった感じもする。でも、俳優たちの熱演が見どころ。というか、見てしまう。

時空を超える難しさと限界を感じた。

(4.25点:1715本目)
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Jacob's Ladder / 日本未公開 (2019) 1714本目

眼福コンビが長所を封印し、ガッツリ見せるサスペンス『Jacob's Ladder』

ウィル・パッカー制作、マイケル・イーリー主演。と言ったら、『Takers / テイカーズ (2010)』とか『Think Like A Man / 魔法の恋愛書 (2012)』でお馴染みですね。ウィル・パッカーは最近コメディで当ててますが、元々はサスペンス/スリラー系の映画が得意な人。以前、女性が主役のサスペンス系も書きましたが、女性主役だけじゃなく、なぜかこのサスペンス系映画ってブラックムービーに多いんですよね。マイケル・イーリーとモリス・チェスナットがその主役の座を争っている感じです。マイケル・イーリーに関しては、今年はすでに『The Intruder / 日本未公開 (2019)』にも出演しております。まーああ多い。なのですが、これは意外と...

アフガニスタンの砂漠地帯にあるアメリカ軍基地内で、ジェイコブ(マイケル・イーリー)はビールを飲みながら、妻サム(ニコール・ベハーリー)とスカイプで会話していると、サムから妊娠した知らせを受け、喜んだが、回線が悪く切れてしまった。そして、すぐに救急で基地内に運ばれてきた人物が居て、ジェイコブは仕事に戻った。血だらけで運ばれてきたのは、ジェイコブの兄弟アイザックジェシー・ウィリアムス)だったのだ。様々なフラッシュバックがジェイコブを襲う。そして何か月か経ち、ジェイコブスはアメリカのアトランタで退役軍人の病院で働いていた...

と、これ、ティム・ロビンス主演の同タイトル『ジェイコブス・ラダー』(90年)のリメイクなんです。ティム・ロビンスの方は、もう何十年も前の映画で、その頃に観た記憶はあるのですが、記憶はかなりぼんやりしております。でも、リメイクと明らかに違うのが、割りとその元になっている旧約聖書の創世記「ヤコブのはしご」に近く、兄弟の軋轢も描いているということ。ティム・ロビンスの方は兄弟出てきてましたっけ?出てなかった気がするんです。その兄弟をマイケル・イーリーとジェシー・ウィリアムスという、黒人俳優では珍しいブルーアイズ・コンビが演じていて、中々面白かった。眼福コンビですが、そのイケメンぷりに頼ったこの手のサスペンス系映画にありがちなセクシー系じゃなくて、ガッツリと物語を見せたのが良かったですね。彼らの長所を封印したら、意外と良い作品になった!という不思議な作品。最後の最後まで、どっちなのー!どっちなのーーー!とハラハラです。最後は意外とアッサリなんですが、でも切ない。とても切ない。最後の最後にあの人があの人を抱きしめる(ネタバレなので)のですが、私も抱きしめてあげたくなった。切ない人生だなーと。でも体も精神も色々と蝕まれた彼にとっての天国への門は、ああするしか見つからなかったのかもとも思う。

戦争なんて全く必要ない!と、切なくさせるサスペンス/スリラー作品です。そんな所が他にはない作品となった。

(3.75点:1714本目)
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Rafiki / ラフィキ:ふたりの夢 (2018) 1713本目

映画で世界発信して戦う監督ワヌリ・カヒウ『ラフィキ:ふたりの夢』

ケニア生まれのワヌリ・カヒウ。アフリカ映画の父ウスマン・センベーヌ監督の魂ががケニアに再び参上?それともスパイク・リーのアフリカ版なのか... 何が書きたいのかというと、ワヌリ・カヒウは映画を駆使した反逆者であり戦う人ということだ。ケニアの首都ナイロビにてワヌリ・カヒウは産まれた。母が医者で父がビジネスマン、おばは有名な女優でおじは彫刻家という、比較的に恵まれた環境だったのではないか?と想像する。イギリスの名門大学で経営科学科の学位を取った後に、カリフォルニア大ロサンジェルス校で芸術の修士を取得。その後に、F・ゲイリー・グレイ監督の『The Italian Job / ミニミニ大作戦 (2003)』や南アフリカが舞台のハリウッド映画『Catch a Fire / 輝く夜明けに向かって (2006)』などに携わったという(ここまでウィキ頼り)。Owen Alik Shahadah監督&MK・アサンテ脚本の奴隷の歴史を追うドキュメンタリー映画500 Years Later / 日本未公開 (2005)』では、カメラや協力プロデューサーを担当している。彼女の作品『From a Whisper / さよならを言いたくて (2009)』と『Pumzi / プンジ (2009)』は、日本でも2010年のシネマ・アフリカで上映している。ところで、なぜ私はワヌリ・カヒウを戦う映画監督と書いたかというと、この映画は本国ケニアで上映禁止となった。正式出展するだけで難しいカンヌ映画祭に出展し、他の映画祭では数々の賞を受賞している作品なので、映画制作数の少ないケニアにとって、この作品がアカデミー賞外国部門に出展するのが相応しいが、それも、もちろん拒まれた。なぜか?ケニアでは禁止されている同性愛を描いた作品だったからだ。

ナイロビの街を颯爽とスケートボードで駆け巡るケナ(サマンサ・ムガシア)。親友のブラックスタ(ネヴィル・ミサティ)は近所の女とやっていたので、わざと外からブラックスタの名前を呼んでみた。ブラックスタの連れと3人で近所の飲食店の前でトランプ賭けをしているが、さっきブラックスタとやっていた女の態度が明らかに悪い。その近くでキャピキャピと遊んでいる女の子3人組が居た。その中の1人、ジキ(シェイラ・ムニヴァ)に目が行くケナ。ケナは母と住んでいるが、父のコンビニを手伝いながら、医療系の学校の合否を待っていた。父は近くある選挙に立候補しており、牧師で知名度があるジキの父がライバルだった。ふとしたきっかけでケナとジキは会話をするようになり、そして2人は恋に落ちていく...

とても良く出来たストーリーである。単純な同性愛者を描いた映画とは違う。ケナとジキの描き方が凄く丁寧であるが、ケナの父親とジキの父親の描き方の違いもとても丁寧で上手い。選挙で争うライバルという点で許されない恋…… ロミオとジュリエットのようで、それだけではないのだ。ケナとジキがトラブルになって、2人の親が警察に迎えに来るシーンがある。ジキの両親はすぐに駆け付けるが、ジキの話を聞こうとはしない。ケナの父は中々来ないが、ケナにそっと寄り添い抱きしめる。でも、そんなケナの父も優しいだけではない。彼にも罪深い部分があって、そんな父に翻弄され壊された母を見て育ったので、それがケナの性的嗜好に影響を及ぼしているように見える。でもケナの父は悪い人ではない。でもコンビニ経営者と牧師とでは、人気の違いもあったりで、そういう細かい所が本当にこの映画は上手かった。ケナのセリフであったけれど、「それでもまだお父さんに投票するよ」と。私も投票権があるなら、ケナ父に一票を入れる。あとブラックスタという異性の友達の存在も良い。でも恐らくヘテロのブラックスタには全部は理解出来ない。ブラックスタはケナに対して女性扱いはしていないが、恐らく異性として好きなところが見える。そんな時に近所でゲイだという理由だけでいじめられている男がそっと駆け寄ってくる。でも、ケナにとって一緒にいたいのは、そのゲイの子ではなくてジキである。同性というだけで、ケニアでは一緒には居られない。しかし、ゲイの子の存在は、少しだけケナを強くする。そんな雰囲気をこの映画は上手く描き出している。Njoki Karuのヴォーカルによる曲だったり、全体的におとぎ話のようなピンクがかった絵柄だったりや、綺麗な光だったり...が美しく、この映画のムードを高めていた。

この映画タイトル『ラフィキ』は、スワヒリ語で「友人」だという。ケナとジキの関係は友達ではなく、恋人だ。ではなぜ「友人」というタイトルを付けたのか?それはこの映画を見た人たちが、ケナやジキのような人たちの「友人」のように心に寄り添えるようになることを願って付けたように感じた。

(4.75点:1713本目)
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Dave Chappelle: Sticks & Stones / デイヴ・シャペルのどこ吹く風 (2019) 1712本目

スタンダップとは...『デイヴ・シャペルのどこ吹く風』

10年に一度の間隔で、スタンダップコメディ界には新星が現れる。とりわけ、黒人のスタンダップコメディは、それが顕著に現れる。60年代のレッド・フォックス&ディック・グレゴリー&マムス・マーブリー、70年代のビル・コズビー&リチャード・プライヤー、80年代のエディ・マーフィ、90年代のクリス・ロックマーティン・ローレンス、そしてゼロ世代のデイヴ・シャペル、10年代のケヴィン・ハート(私はアレだが一般的には)... そろそろ新星が出てきても良い頃だが、なぜか燻っているように思える。()で追記したように、私はケヴィン・ハートには正直納得していない。ケヴィン・ハートは人気はあるし、今を代表するコメディアンだよねーとは思う。でも正直、デイヴ・シャペル以降の黒人スタンダップコメディアンに、なぜかときめかない。心からすげーーーーーー面白い!と感じられない。いや、1人だけときめいたコメディアンが居たが、その後燻ってしまっていて現在細々と活動中で残念である。という訳で、私を笑い不感症にしてしまったデイヴ・シャペルの最新スタンダップコメディライブ映像を!監督は、いつもと同じ『Save the Children / 日本未公開 (1973)』のスタン・レイサン(ちなみに女優サナー・レイサンの父)。

スタンダップコメディライブ映像にしては珍しく、登場シーンからの映像ではない。主役のデイヴ・シャペルはステージ上でアトランタの観客を笑わせている。プリンスの「1999」をアカペラで歌う。そしてコメディアンながら苦手だという物真似を披露する。「誰だと思う?」というデイヴから観客への問に、多くが「トランプ?」と答える。私もトランプだと思った。にしても、本当に物真似が苦手なのか全然似ていない。そうすると、デイヴは「だからお前たちみたいな...(ネタバレ自粛)」と答えを教えてくれる。笑った。自然と手を叩いて笑っていた。今回の一番好きな部分は、自身が番組を持っていたコメディ・セントラルの検閲担当レネーとの会話で、デイヴがレネーにやり返した言葉。黒人にとっての忌まわしい言葉「Nワード」をスッキリ撃退するパワフルな返し。ぐうの音も出ない。

今回のスタンダップは、前回の『Dave Chappelle: The Bird Revelation / デイヴ・シャペルの冷静沈着 (2018)』に割りと似ている。ルイス・CKの件については、デイヴ・シャペルの意見が崩れることは無さそうだと感じた。そこが少し私には歯がゆく感じた。そして、マイケル・ジャクソンR・ケリーなどの話にも果敢に自分の意見を言ってくる。この映像の中でデイヴが言っていたこと全てが好きな訳でもないし、笑った訳でもない。少々、居心地の悪い瞬間もあった。そして、その後、インスタグラムをチェックしていた。私は絵を描く人たちが好きで何人かフォローしているが、その1人がこのスタンダップを観て書いた絵を観て、ハッとした。

スダンダップコメディのスタンダップはマイク一本で立って漫談するという意味もあるが、立ち上がることでもある。スタンダップの後に「For」をつければ、何かの為に立ち上がり、守ること。そしてスタンダップの後に「and be counted」をつければ、(問題になったとしても)堂々と意見を述べることである。デイヴのスタンダップコメディとは、何かの為に立ち上がり守りながらも、(恐れずに)堂々と意見を述べながらも、笑わせる。そういうものだ。

(4.75点:1712本目)
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The Last Black Man in San Francisco / 日本未公開 (2019) 1711本目

サンフランシスコに吹く新しい風『The Last Black Man in San Francisco』

港町サンフランシスコにはいつも風が吹いている。そして、いつも新しい風を映画界にも吹き込んでくる。例えば、『Moonlight / ムーンライト (2016)』がアカデミー賞作品賞に輝いたバリー・ジェンキンス監督は、サンフランシスコ出身ではないが、中々映画が撮れず傷心で渡ったのがサンフランシスコだった。そこで根性で撮った『Medicine for Melancholy / 日本未公開 (2008)』というインディペンデント映画が認められ、『ムーンライト』にまでたどり着いた。近代ブラックムービーの父メルヴィン・ヴァン・ピーブルズは、フランスに渡った後にサンフランシスコに戻り映画を撮り始める。コメディ界の神リチャード・プライヤーは、心身ともに疲れた時に休暇を含めて安らぎの地としてたどり着いた所はサンフランシスコだった。とは言え、黒人が主役となると、最近ではサンフランシスコよりもその東隣オークランドが舞台になることが多い。『Fruitvale Station / フルートベール駅で (2013)』や『Black Panther / ブラックパンサー (2018)』のライアン・クーグラーがその代表。最近のサンフランシスコは何せ高い。大都市で起っているジェントリフィケーション(土地の高級化)が、物凄く進んだからだ。今回は、そんなサンフランシスコを十分に感じられる作品。サンダンス映画祭にて上映され、審査員特別賞や審査員監督賞などを受賞。監督のジョー・タルボットと脚本と主演を務めたジミー・フェイルズは小さい頃かの親友で、本作はジミー・フェイルズの半自伝的作品だ。

サンフランシスコ湾が見える所で、男性が台に立って、色々なことを主張している。だれも聞いていないようだ。その男を横切り、ジミー(ジミー・フェイルズ)とモントゴメリー(ジョナサン・メジャーズ)はスケートボードを2人乗りして、街を駆け巡る。モントゴメリーはアジア系スーパーの魚屋で働きながら、戯曲を書いている。ジミーは、お爺ちゃんが建てたという立派なヴィクトリア調の家を修復していた。その家の家主はジミーに激怒している。そう、ジミーは家主の許しなしに、勝手に修理していたからだ。小さい頃に、その家に住んでいた記憶があるジミーは、そのお爺ちゃんが建てた立派な家を取り戻したいと考えていたが、ジェントリフィケ―ションで億単位となっていて、その夢は叶いそうもなく...

元々は、ジョー・タルボットとジミー・フェイルズが小さい頃から共に映画を撮りたいと、この映画の予告編を先に用意し、クラウドファンディングキックスターターにて資金集めをした。サンフランシスコ出身のダニー・グローヴァーが賛同し、お金が集まるようになり、ブラッド・ピットの「プランB」が制作に参加した。という、制作段階から今らしさを感じる作品だ。

内容も、先に書いたような今のサンフランシスコを感じる。けれど、それだけでなく、人間臭さも感じるし、黒人だから経験してしまうものも感じる。でもその前に「黒人らしさ」とは何か?も、考えさせられる。人一倍感受性豊かなモントゴメリーが、黒人らしい話方を練習しているのが微笑ましくも痛々しい。この映画で重要となる「虚栄」も、それの一つだ。微笑ましくも痛々しい。ジミーは何か一つ胸を張り、自分のプライドにしたかった。だからすがった。ジミーの父も同じことだ。お爺ちゃんは、サンフランシスコで黒人で初めて...という輝くものがあった。サンフランシスコは彼らにとって自慢になるものをくれた街だった。でも... だからジミーはサンフランシスコで黒人で最後の男となるしかなかった。とても切なさを感じる。しかし、ジミーはいつか黒人として初めての男となるだろう。別の場所で。

(4.25点:DVDにて鑑賞)
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Sextuplets / セクスタプレッツ ~オレって六つ子だったの?~ (2019) 1710本目

マーロン・ウェイアンズの良い子、悪い子、普通の子『セクスタプレッツ』

Scary Movie / 最終絶叫計画 (2000)』などで知られる芸能一家ウェイアンズ家第一世代の末っ子マーロン・ウェイアンズ主演・制作・脚本のコメディ作品。Netflixにて制作・配信で、『Naked / ネイキッド (2017)』に続き2作目。今回は、マーロンが1人7役!という挑戦に挑む。

アラン(マーロン・ウェイアンズ)は妻マリー(ブレシャ・ウェブ)の出産が近づき、生き別れとなった自分の母を探していた。マリーの父(グリン・ターマン)は連邦判事で、彼の力添えで母の居場所を突き止めた。その住所に行ってみると、太ったラッセル(マーロン・ウェイアンズ)が居た。どうやらアランとラッセルは同じ日に生まれた兄弟である。そして、アランとラッセルにはもう4人、同じ誕生日を共有する兄弟が居た。そう、彼らは6つ子だったのだ!アランとラッセルは他の4人を探しに出かけるが...

手っ取り早く言ってしまえば、マーロン・ウェイアンズ版『The Nutty Professor / ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合 (1996)』とか『Norbit / マッド・ファット・ワイフ (2007)』ですね。特殊メイクで何役も演じる系のコメディです。芸能一家ウェイアンズ家の中でも演技派として知られているマーロンなので、彼らの中からこの手の映画をやるとしたら、やっぱりマーロンがやるに相応しいと思う。最近では、この手の映画では、マディアおばさんシリーズ『Madea Goes to Jail / 日本未公開 (2009)』などのタイラー・ペリーも人気。だけど、あのエディ・マーフィだって『マッド・ファット・ワイフ』を滅茶苦茶外した。タイラー・ペリーもごくごく一部で絶大な人気であって、しかもマディア引退してしまった。最近では、特殊メイクわざと太らせて容姿を卑下することや、男性が女性を演じたりすることに不快を感じる人が多い。正直、この映画でマーロンが演じた女性キャラは好きじゃない。でも、男性キャラの方は、ステレオタイプを逆に皮肉る『White Chicks / 最凶女装計画 (2004)』に似ていて上手かった。

そして、『The Jeffersons / 日本未放送 (1975-1985)』や『ロックフォードの事件メモ』などのテレビシリーズからのネタが多く、日本で生まれ育った私たちには伝わりにくい部分も多い。

さすが10人兄弟の末っ子として育ったマーロンらしい、兄弟それぞれに魅力があることを感じることができる作品。

(3.5点:1710本目)
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