SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて


*10/15/2018に「ブラックムービー ガイド」本が発売になりました!よろしくお願いします。(10/15/18)

*『サンクスギビング』のパンフレットにコラムを寄稿。(12/29/23)
*『コカイン・ベア』のプレスシート&コメント&パンフレットに寄稿。 (09/27/23)
*ブルース&ソウル・レコーズ No.173 ティナ・ターナー特集にて、映画『TINA ティナ』について寄稿。 (08/25/23)
*『インスペクション ここで生きる』へのコメントを寄稿。(8/01/23)
*ミュージック・マガジン1月号にて、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のレビューを寄稿。(12/2/22)
*12月2日放送bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」にて『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』についてトーク。(12/2/22)
*10月7日より上映『バビロン』にコメントを寄稿。(10/6/22)
*奈緒さん&風間俊介さん出演の舞台『恭しき娼婦』のパンフレットに寄稿。(6/4/22)
*TOCANA配給『KKKをぶっ飛ばせ!』のパンフレットに寄稿。(4/22/22)
*スターチャンネルEX『スモール・アックス』オフィシャルサイトに解説を寄稿。(3/29/22)
*映画秘宝 5月号にて、連載(終)&最後のサイテー映画2022を寄稿。(3/21/22)
*「This is Charles Burnett チャールズ・バーネット セレクション vol.1」にコメントを寄稿。(3/19/22)
*キネマ旬報 3月上旬号の『ドリームプラン』特集にて、ウィル・スミスについてのコラムを寄稿。(2/19/22)
*映画秘宝 4月号にて、連載&オールタイムベストテン映画を寄稿。(2/21/22)
*映画秘宝 3月号にて、ベスト10に参加。(1/21/22)
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Rafiki / ラフィキ:ふたりの夢 (2018) 1713本目

映画で世界発信して戦う監督ワヌリ・カヒウ『ラフィキ:ふたりの夢』

ケニア生まれのワヌリ・カヒウ。アフリカ映画の父ウスマン・センベーヌ監督の魂ががケニアに再び参上?それともスパイク・リーのアフリカ版なのか... 何が書きたいのかというと、ワヌリ・カヒウは映画を駆使した反逆者であり戦う人ということだ。ケニアの首都ナイロビにてワヌリ・カヒウは産まれた。母が医者で父がビジネスマン、おばは有名な女優でおじは彫刻家という、比較的に恵まれた環境だったのではないか?と想像する。イギリスの名門大学で経営科学科の学位を取った後に、カリフォルニア大ロサンジェルス校で芸術の修士を取得。その後に、F・ゲイリー・グレイ監督の『The Italian Job / ミニミニ大作戦 (2003)』や南アフリカが舞台のハリウッド映画『Catch a Fire / 輝く夜明けに向かって (2006)』などに携わったという(ここまでウィキ頼り)。Owen Alik Shahadah監督&MK・アサンテ脚本の奴隷の歴史を追うドキュメンタリー映画500 Years Later / 日本未公開 (2005)』では、カメラや協力プロデューサーを担当している。彼女の作品『From a Whisper / さよならを言いたくて (2009)』と『Pumzi / プンジ (2009)』は、日本でも2010年のシネマ・アフリカで上映している。ところで、なぜ私はワヌリ・カヒウを戦う映画監督と書いたかというと、この映画は本国ケニアで上映禁止となった。正式出展するだけで難しいカンヌ映画祭に出展し、他の映画祭では数々の賞を受賞している作品なので、映画制作数の少ないケニアにとって、この作品がアカデミー賞外国部門に出展するのが相応しいが、それも、もちろん拒まれた。なぜか?ケニアでは禁止されている同性愛を描いた作品だったからだ。

ナイロビの街を颯爽とスケートボードで駆け巡るケナ(サマンサ・ムガシア)。親友のブラックスタ(ネヴィル・ミサティ)は近所の女とやっていたので、わざと外からブラックスタの名前を呼んでみた。ブラックスタの連れと3人で近所の飲食店の前でトランプ賭けをしているが、さっきブラックスタとやっていた女の態度が明らかに悪い。その近くでキャピキャピと遊んでいる女の子3人組が居た。その中の1人、ジキ(シェイラ・ムニヴァ)に目が行くケナ。ケナは母と住んでいるが、父のコンビニを手伝いながら、医療系の学校の合否を待っていた。父は近くある選挙に立候補しており、牧師で知名度があるジキの父がライバルだった。ふとしたきっかけでケナとジキは会話をするようになり、そして2人は恋に落ちていく...

とても良く出来たストーリーである。単純な同性愛者を描いた映画とは違う。ケナとジキの描き方が凄く丁寧であるが、ケナの父親とジキの父親の描き方の違いもとても丁寧で上手い。選挙で争うライバルという点で許されない恋…… ロミオとジュリエットのようで、それだけではないのだ。ケナとジキがトラブルになって、2人の親が警察に迎えに来るシーンがある。ジキの両親はすぐに駆け付けるが、ジキの話を聞こうとはしない。ケナの父は中々来ないが、ケナにそっと寄り添い抱きしめる。でも、そんなケナの父も優しいだけではない。彼にも罪深い部分があって、そんな父に翻弄され壊された母を見て育ったので、それがケナの性的嗜好に影響を及ぼしているように見える。でもケナの父は悪い人ではない。でもコンビニ経営者と牧師とでは、人気の違いもあったりで、そういう細かい所が本当にこの映画は上手かった。ケナのセリフであったけれど、「それでもまだお父さんに投票するよ」と。私も投票権があるなら、ケナ父に一票を入れる。あとブラックスタという異性の友達の存在も良い。でも恐らくヘテロのブラックスタには全部は理解出来ない。ブラックスタはケナに対して女性扱いはしていないが、恐らく異性として好きなところが見える。そんな時に近所でゲイだという理由だけでいじめられている男がそっと駆け寄ってくる。でも、ケナにとって一緒にいたいのは、そのゲイの子ではなくてジキである。同性というだけで、ケニアでは一緒には居られない。しかし、ゲイの子の存在は、少しだけケナを強くする。そんな雰囲気をこの映画は上手く描き出している。Njoki Karuのヴォーカルによる曲だったり、全体的におとぎ話のようなピンクがかった絵柄だったりや、綺麗な光だったり...が美しく、この映画のムードを高めていた。

この映画タイトル『ラフィキ』は、スワヒリ語で「友人」だという。ケナとジキの関係は友達ではなく、恋人だ。ではなぜ「友人」というタイトルを付けたのか?それはこの映画を見た人たちが、ケナやジキのような人たちの「友人」のように心に寄り添えるようになることを願って付けたように感じた。

(4.75点:1713本目)
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Dave Chappelle: Sticks & Stones / デイヴ・シャペルのどこ吹く風 (2019) 1712本目

スタンダップとは...『デイヴ・シャペルのどこ吹く風』

10年に一度の間隔で、スタンダップコメディ界には新星が現れる。とりわけ、黒人のスタンダップコメディは、それが顕著に現れる。60年代のレッド・フォックス&ディック・グレゴリー&マムス・マーブリー、70年代のビル・コズビー&リチャード・プライヤー、80年代のエディ・マーフィ、90年代のクリス・ロックマーティン・ローレンス、そしてゼロ世代のデイヴ・シャペル、10年代のケヴィン・ハート(私はアレだが一般的には)... そろそろ新星が出てきても良い頃だが、なぜか燻っているように思える。()で追記したように、私はケヴィン・ハートには正直納得していない。ケヴィン・ハートは人気はあるし、今を代表するコメディアンだよねーとは思う。でも正直、デイヴ・シャペル以降の黒人スタンダップコメディアンに、なぜかときめかない。心からすげーーーーーー面白い!と感じられない。いや、1人だけときめいたコメディアンが居たが、その後燻ってしまっていて現在細々と活動中で残念である。という訳で、私を笑い不感症にしてしまったデイヴ・シャペルの最新スタンダップコメディライブ映像を!監督は、いつもと同じ『Save the Children / 日本未公開 (1973)』のスタン・レイサン(ちなみに女優サナー・レイサンの父)。

スタンダップコメディライブ映像にしては珍しく、登場シーンからの映像ではない。主役のデイヴ・シャペルはステージ上でアトランタの観客を笑わせている。プリンスの「1999」をアカペラで歌う。そしてコメディアンながら苦手だという物真似を披露する。「誰だと思う?」というデイヴから観客への問に、多くが「トランプ?」と答える。私もトランプだと思った。にしても、本当に物真似が苦手なのか全然似ていない。そうすると、デイヴは「だからお前たちみたいな...(ネタバレ自粛)」と答えを教えてくれる。笑った。自然と手を叩いて笑っていた。今回の一番好きな部分は、自身が番組を持っていたコメディ・セントラルの検閲担当レネーとの会話で、デイヴがレネーにやり返した言葉。黒人にとっての忌まわしい言葉「Nワード」をスッキリ撃退するパワフルな返し。ぐうの音も出ない。

今回のスタンダップは、前回の『Dave Chappelle: The Bird Revelation / デイヴ・シャペルの冷静沈着 (2018)』に割りと似ている。ルイス・CKの件については、デイヴ・シャペルの意見が崩れることは無さそうだと感じた。そこが少し私には歯がゆく感じた。そして、マイケル・ジャクソンR・ケリーなどの話にも果敢に自分の意見を言ってくる。この映像の中でデイヴが言っていたこと全てが好きな訳でもないし、笑った訳でもない。少々、居心地の悪い瞬間もあった。そして、その後、インスタグラムをチェックしていた。私は絵を描く人たちが好きで何人かフォローしているが、その1人がこのスタンダップを観て書いた絵を観て、ハッとした。

スダンダップコメディのスタンダップはマイク一本で立って漫談するという意味もあるが、立ち上がることでもある。スタンダップの後に「For」をつければ、何かの為に立ち上がり、守ること。そしてスタンダップの後に「and be counted」をつければ、(問題になったとしても)堂々と意見を述べることである。デイヴのスタンダップコメディとは、何かの為に立ち上がり守りながらも、(恐れずに)堂々と意見を述べながらも、笑わせる。そういうものだ。

(4.75点:1712本目)
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The Last Black Man in San Francisco / 日本未公開 (2019) 1711本目

サンフランシスコに吹く新しい風『The Last Black Man in San Francisco』

港町サンフランシスコにはいつも風が吹いている。そして、いつも新しい風を映画界にも吹き込んでくる。例えば、『Moonlight / ムーンライト (2016)』がアカデミー賞作品賞に輝いたバリー・ジェンキンス監督は、サンフランシスコ出身ではないが、中々映画が撮れず傷心で渡ったのがサンフランシスコだった。そこで根性で撮った『Medicine for Melancholy / 日本未公開 (2008)』というインディペンデント映画が認められ、『ムーンライト』にまでたどり着いた。近代ブラックムービーの父メルヴィン・ヴァン・ピーブルズは、フランスに渡った後にサンフランシスコに戻り映画を撮り始める。コメディ界の神リチャード・プライヤーは、心身ともに疲れた時に休暇を含めて安らぎの地としてたどり着いた所はサンフランシスコだった。とは言え、黒人が主役となると、最近ではサンフランシスコよりもその東隣オークランドが舞台になることが多い。『Fruitvale Station / フルートベール駅で (2013)』や『Black Panther / ブラックパンサー (2018)』のライアン・クーグラーがその代表。最近のサンフランシスコは何せ高い。大都市で起っているジェントリフィケーション(土地の高級化)が、物凄く進んだからだ。今回は、そんなサンフランシスコを十分に感じられる作品。サンダンス映画祭にて上映され、審査員特別賞や審査員監督賞などを受賞。監督のジョー・タルボットと脚本と主演を務めたジミー・フェイルズは小さい頃かの親友で、本作はジミー・フェイルズの半自伝的作品だ。

サンフランシスコ湾が見える所で、男性が台に立って、色々なことを主張している。だれも聞いていないようだ。その男を横切り、ジミー(ジミー・フェイルズ)とモントゴメリー(ジョナサン・メジャーズ)はスケートボードを2人乗りして、街を駆け巡る。モントゴメリーはアジア系スーパーの魚屋で働きながら、戯曲を書いている。ジミーは、お爺ちゃんが建てたという立派なヴィクトリア調の家を修復していた。その家の家主はジミーに激怒している。そう、ジミーは家主の許しなしに、勝手に修理していたからだ。小さい頃に、その家に住んでいた記憶があるジミーは、そのお爺ちゃんが建てた立派な家を取り戻したいと考えていたが、ジェントリフィケ―ションで億単位となっていて、その夢は叶いそうもなく...

元々は、ジョー・タルボットとジミー・フェイルズが小さい頃から共に映画を撮りたいと、この映画の予告編を先に用意し、クラウドファンディングキックスターターにて資金集めをした。サンフランシスコ出身のダニー・グローヴァーが賛同し、お金が集まるようになり、ブラッド・ピットの「プランB」が制作に参加した。という、制作段階から今らしさを感じる作品だ。

内容も、先に書いたような今のサンフランシスコを感じる。けれど、それだけでなく、人間臭さも感じるし、黒人だから経験してしまうものも感じる。でもその前に「黒人らしさ」とは何か?も、考えさせられる。人一倍感受性豊かなモントゴメリーが、黒人らしい話方を練習しているのが微笑ましくも痛々しい。この映画で重要となる「虚栄」も、それの一つだ。微笑ましくも痛々しい。ジミーは何か一つ胸を張り、自分のプライドにしたかった。だからすがった。ジミーの父も同じことだ。お爺ちゃんは、サンフランシスコで黒人で初めて...という輝くものがあった。サンフランシスコは彼らにとって自慢になるものをくれた街だった。でも... だからジミーはサンフランシスコで黒人で最後の男となるしかなかった。とても切なさを感じる。しかし、ジミーはいつか黒人として初めての男となるだろう。別の場所で。

(4.25点:DVDにて鑑賞)
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Sextuplets / セクスタプレッツ ~オレって六つ子だったの?~ (2019) 1710本目

マーロン・ウェイアンズの良い子、悪い子、普通の子『セクスタプレッツ』

Scary Movie / 最終絶叫計画 (2000)』などで知られる芸能一家ウェイアンズ家第一世代の末っ子マーロン・ウェイアンズ主演・制作・脚本のコメディ作品。Netflixにて制作・配信で、『Naked / ネイキッド (2017)』に続き2作目。今回は、マーロンが1人7役!という挑戦に挑む。

アラン(マーロン・ウェイアンズ)は妻マリー(ブレシャ・ウェブ)の出産が近づき、生き別れとなった自分の母を探していた。マリーの父(グリン・ターマン)は連邦判事で、彼の力添えで母の居場所を突き止めた。その住所に行ってみると、太ったラッセル(マーロン・ウェイアンズ)が居た。どうやらアランとラッセルは同じ日に生まれた兄弟である。そして、アランとラッセルにはもう4人、同じ誕生日を共有する兄弟が居た。そう、彼らは6つ子だったのだ!アランとラッセルは他の4人を探しに出かけるが...

手っ取り早く言ってしまえば、マーロン・ウェイアンズ版『The Nutty Professor / ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合 (1996)』とか『Norbit / マッド・ファット・ワイフ (2007)』ですね。特殊メイクで何役も演じる系のコメディです。芸能一家ウェイアンズ家の中でも演技派として知られているマーロンなので、彼らの中からこの手の映画をやるとしたら、やっぱりマーロンがやるに相応しいと思う。最近では、この手の映画では、マディアおばさんシリーズ『Madea Goes to Jail / 日本未公開 (2009)』などのタイラー・ペリーも人気。だけど、あのエディ・マーフィだって『マッド・ファット・ワイフ』を滅茶苦茶外した。タイラー・ペリーもごくごく一部で絶大な人気であって、しかもマディア引退してしまった。最近では、特殊メイクわざと太らせて容姿を卑下することや、男性が女性を演じたりすることに不快を感じる人が多い。正直、この映画でマーロンが演じた女性キャラは好きじゃない。でも、男性キャラの方は、ステレオタイプを逆に皮肉る『White Chicks / 最凶女装計画 (2004)』に似ていて上手かった。

そして、『The Jeffersons / 日本未放送 (1975-1985)』や『ロックフォードの事件メモ』などのテレビシリーズからのネタが多く、日本で生まれ育った私たちには伝わりにくい部分も多い。

さすが10人兄弟の末っ子として育ったマーロンらしい、兄弟それぞれに魅力があることを感じることができる作品。

(3.5点:1710本目)
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Free Meek / フリー・ミーク (2019) 1709本目

俺はバークス通りの奴らと一緒『フリー・ミーク』

ミーク・ミル... と書いてみて、フィラデルフィア、ニッキー・ミナージュ、ドレイクとの確執、法トラブル... が私の頭に瞬時にパッと浮かぶ。本作では、それら全てが詰まっているが、おもに法トラブルを主軸にして、ラッパーであるミーク・ミルの全貌が明らかになっていく。ジェイ・Zのロックネイションが制作、アマゾンプライムにて配信されている、ドキュメンタリーシリーズ。

私の中では、若いと思っていたミーク・ミルも32歳である。若い人たちが早くから活躍できるラップの世界では、割りと中堅に位置する年ごろだ。でも、私には最近の印象しかない。割と下積みが長かったんだと思わされた。このドキュメンタリーでは、デビュー前の映像も豊富だ。私世代のラッパーたちでデビュー前のバトルラップの映像を見た事あるのは、ビギー(ノートリアスBIG)位。なぜなら私たちの10代の頃には、携帯やスマホどころかハンディカメラも普及していなかったからだ。素人が簡単に映像など中々撮れなかった。そう考えると、やはりミーク・ミルは若い世代のラッパーなんだなーと思ったりした。そしてまだひょろっこいミーク・ミールが緊張しながらバトルラップしているのが、何か可愛らしくて、そこから感情移入させられてしまう。序盤はミークの生い立ちが語られており、ミークは決して責任を押し付けたり、告発している訳では決してないのだけど、親の無責任さを少し感じてしまう。それを感じるのは守られて育った私だけで、アメリカ人なら多分そこは感じないだろう。そしてミークが19歳の時に起きた、麻薬密売と武器保持で逮捕された時のことが語られていく。「フリー・ミーク(ミークを釈放せよ)」というタイトルからも分かるように、この部分がこのドキュメンタリーで大きく占める。ミークだけでなく、逮捕され起訴されることは、誰にとってもその人の人生を左右してしまう出来事なので、当たり前と言えば当たり前である。ミークが他の人と違うのは、類まれな才能で富と人気を手に入れた事だろう。この部分がこのドキュメンタリーの肝である。ミークの主張は曲にのせマイクを握れば多くの人に聞いてもらえる。でもそうじゃない人が多数、アメリカ社会には存在している。

このドキュメンタリーで良く分かるのが、ミークが地元フィラデルフィアを愛し、そしてフィラデルフィアもミークを愛しているということ。ミックステープを売っていた時代から、それは変わらないような気がする。NFLフィラデルフィア・イーグルスNFLとなってからスーパーボウルで初チャンピオンとなった時、ミークは刑務所の中だった。観客が「フリー・ミーク」を叫び、そしてミークの曲「Dreams and Nightmares」をチームの応援歌としてファンだけでなく選手も歌った。そして地元のNBAチームであるフィラデルフィア・セブンティシクサーズが2018-19シーズンでプレイオフに進むと、ミークはようやく刑務所から出られる事になり、そのまま試合に向かい、名物である鐘を鳴らす儀式で地元ファンを歓喜させた。どこまで地元に愛されているのだろう... しかし地元の検事には好かれていなかったようで、完全に私情を挟んだ感じで、ずぶずぶと法トラブルの悪循環が進んでいく。そして、ニッキー・ミナージュの事も語られているが、割りとあっさりと語られている。

ジェイ・Zのロックネイションが制作なので、ジェイ・Zもインタビューに答えている。そのジェイ・Zは、最近NFLと組むことが発表され、色々と批判を浴びている。NFLは、選手であるコリン・キャパニックがアメリカの現状に抗議の意味で国歌斉唱の際に跪いたことで、NFLからつま弾きにされている。そんなNFLと組むなんて...と、ファンやキャパニックと同じ抗議しているエリック・リードから批判されているのだが、私にはジェイ・ZがNFLと「仲良く」組むのではなく、自分がその組織に入ることで内部から改革していくのでは?と期待している。このドキュメンタリーや、その他のジェイ・Zの映画作品への取り組みを感じると、そう感じてしまうのだ。

とはいえ、シリーズではなく、もっとコンパクトに映画にしてまとめれば良かったかな?とは思う。無理に伸ばしてシリーズにした感はある。そしてやっぱり歯痛のためとはいえ、薬の中毒になるのは、同情は出来ない。他にも彼の責任がゼロだったとは思えない部分もある。

ミークがこのドキュメンタリーで伝えたいこと… ミークは有名人となって自分の運命を遠回りしているが変えられる事は出来た。それが出来ない人たちの声を伝える為に、彼はマイクを握り続けるだろう。

(3.5点:1709本目)
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Q Ball / 日本未公開 (2019) (TV) 1708本目

誰も辿り着きたくない場所でバスケをする男たち『Q Ball』

サン・クエンティン州立刑務所。『Redemption: The Stan Tookie Williams Story / クリップス (2004)』のLAのギャング、クリップス創設者の一人スタンリー・”トゥッキー”・ウィリアムスや『Black August / ブラック・オーガスト/獄中からの手紙 (2007)』のブラック・マフィア・ゲリラのジョージ・ジャクソンやチャールズ・マンソンの最後の地となった場所だ。俳優ダニー・トレホもそこで過ごした過去もある。古い歴史もあり、そして完全警備を誇る刑務所で、死刑や終身刑などの重い刑を言い渡された者たちが集う悪名高い刑務所である。私がアメリカ人男性で、もし間違って罪を犯し、サン・クエンティン刑務所に送られたら「私終わったー」と速攻思うであろう。西のサン・クエンティン、東のライカーズね。これ常識。ライカーズは、『When They See Us / ボクらを見る目 (2019)』のコリー・ワイズが入っていた刑務所。でも、サン・クエンティンは終身刑や死刑囚が多い割りには、更生プログラムがしっかりしている。そのお陰でダニー・トレホは人生やり直している。説明が長くなりましたが、サン・クエンティン刑務所の更生プログラムの一つ、バスケットボールを追ったドキュメンタリー映画。Foxスポーツチャンネルにて放送。NBA選手ケヴィン・デュラントが制作総指揮の1人。

サンフランシスコの海沿いにあるサン・クエンティン刑務所。刑務所の副官であるサム・ロビンソンは、小さい頃から色々と噂を聞かされていたので「絶対に来たくない場所」だと語る刑務所だ。しかし更生プログラムは充実しており、その中でもバスケットボールは成果を出していた。同地のNBAチームであるゴールデン・ステイト・ウォーリアーズ(以下GSW)が協力しており、サン・クエンティン刑務所のチームは「サン・クエンティン・ウォーリアーズ」として、GSWと同じジャージを着ているのだ。そんなチームを追う。

その「サン・クエンティン・ウォーリアーズ」のスタメンである5人+コーチを主に追っていて、彼らの犯した罪からチームでのそれぞれの活躍ぶりを追っていく。コーチが一番エグイ犯罪を犯していた。一番温厚そうな雰囲気なのに。でもあのサン・クエンティンなのだから、『Oz / OZ/オズ (1997-2003)」みたいなおどろおどろしい雰囲気なんでしょ!と思ったけれど、割りとみんな和気あいあいとしている。バスケをすることで、そういう穏やかな感じになるのか(とは本人たちも言っていたけど)、わざと和気あいあいとした感じを見せたのかは分からない。でも、彼らが試合をする時には遠征する訳にはいかないので、普通の一般のチームが塀の中まで遠征してやってくる。唯一、刑務所ぽいなーと思ったのが、観客の野次。観客は全員囚人。野次が怖い。そして、GSWもやってくる!と言っても、試合に来るのはGリーグよりも下のGリーグの控え選手たち。でもアシスタントコーチの人たちは本物なので、サン・クエンティンのメンバーたちは張り切る。その中でも、元々バスケットで大学の奨学金まで貰っていたハリー・”ATL”・スミスは、気合の入れ方が違う。彼はもうすぐ出所するので、その後はGリーグで...ゆくゆくはNBAで活躍したいと思っているのだ。と、ここで急にドラマチックになってきますよね。正直、私も心躍ってしまいました。ネタバレはしませんが、まあそうですよね。前々から書いているように、NBAで活躍出来る人なんて、ホンの一握りの選ばれし者たちだけ。冒頭でバスケをやっている最中に喧嘩かと思ったら、最後まで見るとそうではなかったというのがあって、それは演出的に行き過ぎだ。

スタメン5人のうちのテルヴィン・フォーネットも気になりました。彼は犯した罪が映画の中では語られていない。そして最後にギターが上手い他の囚人とコラボしてラップをやっている。上手かった。そしてそのギターの人が歌も物凄い上手かった!Waleみたいな感じ。そういえば、「Lifers Group」のメンバーってどうなったんだろう?囚人で構成したラップグループ。ふと思い出した。

この映画でハッとさせられたのが2か所ある。一つは、刑務所内の教会で説教師をしているハリー・”ATL”・スミスに「俺の十字架は重い」と食い下がる別の囚人とのシーンと、そのスミスが出所する前に別の囚人に「ここの事は忘れるんだ」と言われるシーン。残念ながらバスケットのシーンではなかった。忘れろ言われたスミスともう1人の会話がズシンと残る。私も彼らは忘れるべきではないと思う。別の囚人が食い掛かったように彼らの十字架は重い。その重い十字架を背負いながらも彼らが更生して、これからの人生をまともに生きてくれることを願う。

(4.25点:1708本目)
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The Lion King / ライオン・キング (2019) 1707本目

アイ・アム・ユア・ファーザー『ライオン・キング

一番好きなディズニーのオリジナル物語は、やっぱり『ライオン・キング』!でも、1994年版『ライオン・キング』は、私のサイトに入っておりません。そして拙書『ブラックムービー ガイド』では、その『ライオン・キング』の項もあったのですが、ページ数の問題で敢え無くカット!でも、そこに書いたことを元にすると、うちのサイトに入れていて良い筈の作品でして、なら何で入れていないんだ!と言われると、すっかり忘れていたというのが、正直なところです。そのうち入れます。1994年版の『ライオン・キング』は少年時代の歌声を担当したジェイソン・ウィーバーが最高だった!マイケル・ジャクソンの『The Jacksons: An American Dream / 日本未公開 (1992)』という映画で、マイケル・ジャクソンの6-14歳を演じているのがジェイソン・ウィーバー。後にレコードデビューもしている。そして、やはりジェームズ・アール・ジョーンズですよね!なんでこの方はこんなにアフリカ王が似合うのでしょうか...

動物たちが共存するプライド・ランドの王様ムファサ(ジェームズ・アール・ジョーンズ)と女王サラビ(アルフレ・ウッダード)の元に息子シンバ(JD・マックラリー)が誕生した。継承者の誕生に皆が喜ぶが、ムファサの弟スカー(キウェテル・イジョフォー)がそれを喜んでいなかった。成長していくシンバ。仲のよいナラ(シャハディ・ライト・ジョセフ)と遊んでいたところ、行ってはいけない場所まで行ってしまい、ハイエナのシェンジ(フローレンス・カサンバ)らに囲まれたところ、ムファサが助けてくれた。そしてスカーに仕組まれシンバはまた危機に。その末に父が... スカーの差し金もあり、シンバは1人でプライド・ランドを離れる。そして成長したシンバ(ドナルド・グローヴァー)は、助けてくれたプンバァ(セス・ローゲン)とティモン(ビリー・アイクナー)と「ハクナ・マタタ(心配いらないさ)」の精神でのんびりと暮らしていたが...

やっぱり泣いた。ムファサのセリフに号泣。そして終盤のラフィキ(ジョン・カニ)!あのシーンは何度観てもたまらないのです。これから起きることが分かっているのに涙出るんですよね。この2人のキャラクターへの息を吹き込む声の演技が凄い。ジェームズ・アール・ジョーンズに至っては、彼だけは1994年のアニメ版同様にムファサ王を担当。『ライオン・キング』は絶対にジェームズ・アール・ジョーンズ無しには考えられない!誇らしい強さと威厳に満ちていて、その中にはちゃんと愛も感じられる。『Coming to America / 星の王子ニューヨークへ行く (1988)』のザムンダ王のジョフィ・ジャファ王もそうでしたね。す、ス...『スター・ウォーズ』でも(多分...震え声)。ジャファ王は厳しめだけど、やっぱり愛は感じられた。ああいうお父さん良いなって思わせてくれた。ムファサは現在アラサーの黒人男性に人気ですよね。

悪役スカーの声を担当したキウェテル・イジョフォーも迫力が凄かった。1994年版ではジェレミー・アイアンズが担当していたけれど、やっぱりアメリカ人からするとイギリス訛りというのは気難しさを感じて悪役に聞こえるのでしょうか?イジョフォーの歌声があんなに凄いとは知らなかった。ポール・ロブソンばりの力強さで凄い迫力。スカー怖いよー!イジョフォーの底知れぬ才能を感じました。演技でも悪役やって欲しい。

とは言え、『シンデレラ』や『美女と野獣』が実写化されるのは分かる。実際の人が演じることで、物語が現実味みたいのを帯びるから。だからなんで『ライオン・キング』が実写化されるのかは分からなかった。結局また人が声優を務めるだけなので。でも、シンバの毛が...のシーンは、ナショナルジオグラフィックみたいだし、それにまたジェームズ・アール・ジョーンズの凄さを知れたし、楽しんてしまったので、まあいいかなーとも思っている。

(4.5点:1707本目)
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