ブラッドフォード・ヤング。絶対に名前を覚えておいて欲しい人物。インディ界隈で今最も期待されているシネマトグラフィー(撮影技師)。その証拠にインディペンデンス映画の最高峰「サンダンス映画祭」のシネマトグラフィー賞を2回受賞している。最初は「Pariah / 日本未公開 (2011)」で、そして2回目はこの作品と「Ain't Them Bodies Saints」という作品で。まあー、彼の映像はとても癖があるけれど癖になる、本当に息をのむほど美しい。今回の監督も「Restless City / 日本未公開 (2010)」で組んだナイジェリア出身のアンドリュー・ドスンム。スティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」ならぬ、ドスンムの「アフリカン・イン・ニューヨーク」。NY在住のアフリカ移民を描くのは、「Restless City」に続き2回目である。彼の作品のテーマはそれ。
今回は「ウォーキング・デッド」で刀を背負った超カッコいいミショーンを演じているダナイ・グリラが主演。彼女がタイトルの「マザー・オブ・ジョージ(ジョージの母)」を演じている。しかしまだ「ジョージ」は存在していない。物語はニューヨークでアフリカ料理のレストランを経営しコックでもあるアヨデレ(イザック・ド・バンコレ)に嫁いできたのが、「マザー・オブ・ジョージ」のアデニケ(ダナイ・グリラ)。結婚式の時から、早く子供を産めと言われるし、お告げでは男の子と女の子が生まれる事になっている。義理の母からも早く子供が産める腰につけるお守りを貰った。あれから18ヶ月、アデニケとアヨデレにはまだ赤ちゃんは授かっていなかった。義理の母からはネチネチと言われ、実の母とも電話で喧嘩。破れかぶれのアデニケは不妊治療をしたいと、アヨデレに言うけど、アヨデレは全然のる気無し。魔女的な所でお祈りをしてもダメ、良いといわれるアロエやお茶を飲んでもダメ。義理の母には「結婚無効にして、他の女の結婚させようかしら」と嫌味まで言われる。しかも義理の母は追い討ちをかけて「男は自分が父親なんて分からない、事実を知っているのは母親だけ」なんていうトンデモない事をアデニケに言い...
「Restless City」とは違って、起承転結のある物語。しかも重い。これね、30代の女性の多くが経験しているんじゃないかな?という私も経験している。私は25歳で子供を産んでいるので、そんな事ないでしょー!と思われるかもだけど、1人なので「2人目はまだ?」を30代の時に散々言われました!放っておけ!その2人目を育てるのは私で、君じゃないから!!余計なお世話様。っていうのを言った事ある皆々様、デリカシーに欠けているよと、心に留めておいてください。なんてことない事を言ったと思っているだろうけど、本当にプレッシャーになるし、ストレスになるし、何しろムカつきますので!この映画を見て反省して欲しい。と、私は心を鷲づかみにされました。
男の人はアヨデレ目線で見ると、見た後に非常に思う所があるんじゃないかな。俺ならどうするか?って。アヨデレの弟目線で見ても面白い。するか?しないか?両方ともに、正当論だけで簡単に出せる答えじゃないんだよね。また古い伝統を守るという事と、要らない伝統を変えていくというテーマもある。
所でヤギが畜殺されているシーンが長々とある。あれはジブリル・ジオップ・マンベティ監督の「Touki Bouki / トゥキ・ブゥキ / ハイエナの旅 (1973)」のオマージュだろうね。そっくりなシーン。この映画での「犠牲」のメタファー。
途中途中で流れる不気味な旋律も良かったし、何しろブラッドフォード・ヤングの今回は壁の色使いが、主人公の気持ちを色で表現しているようだった。「ウォーキング・デッド」であんなにカッコいいダナイ・グリラが、この映画ではとても献身的で脆いアフリカから来た移民を演じている。でも、生まれてくるかもしれない「ジョージ」が一番気の毒なんだよね。でも決意したアヨデレの顔を見ると、大丈夫かな?という希望も少しだけある。と、今回は前回とは全然違う重いテーマをこれまた見事にアンドリュー・ドスンムとブラッドフォード・ヤングがやってくれていた。やっぱり予想通り、脚本がよければこのコンビは最強!!
(4.5点/5点満点中:2/8/14:DVDにて鑑賞)