Selma / 日本未公開 (2014) 1319本目
行ってきましたよ、キング牧師おたくの私が、初日の初回に。他のキング牧師おたく?にまみれながら。いや実際には分かりませんけど、やっぱり初日の初回はみんなの気合が違いますよね。私と同じく「待てない!」人ばかり。まあ金曜日なので、既に引退された老夫婦が...と言うか、実際のセルマの血の日曜日をリアルタイムで知っている観客が多め。私のような知らない観客が少なめかな。私の斜め後ろも老夫婦。湿布臭い。まあ予想はしておりましたよ。映画館内が教会と化す事くらい!案の定、始まるとあちらこちらから「ザッツ・ライト!」やら相槌を打つ「あーは!」&「んーん!」の嵐。まあこのくらい賑やかな方が逆に楽しいんですよね。日本じゃ、お菓子開ける音でも「チェ」と言われてしまいますが、赤ちゃんが泣こうと会話を楽しもうと自由なアメリカの映画館の方が私は好きです。そこには一体感があって。『Red Tails / 日本未公開 (2012)』などの戦争映画を軍人と共に劇場と見る醍醐味、『スポンジ・ボブ』の映画版では子供達で満員の劇場で子供達が可愛くスポンジボブの主題歌を全員で合唱する場に居合わせた時とか、劇場で見る事の意味を改めて感じます。音がとか大画面で!とかだけじゃない映画館の存在価値。ならば、黒人映画は黒人観客と共に楽しむのがやはりベストなんですよね。って、観客にはもちろん白人の人たちも居ましたけどね。
ノーベル平和賞の式典の前、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師(デビット・オイェロウォ)は慣れないアスコットタイに戸惑っていたが、夫人のコレッタ(カーメン・イジョゴー)に整えてもらっていた。そして、アラバマ州バーミングハムにある黒人教会では、爆弾により幼い4人の少女が亡くなった。同じアラバマ州セルマでは、中年の女性アニー・リー・クーパー(オプラ・ウィンフリー)が投票の手続きをしていた。クーパーは憲法を暗記し、地方議員の数も正確に言えたが、さすがにその67人の地方議員の全員の名前までは言えず、投票権を却下された。キング牧師とSCLC(南部クリスチャン指導者会議)のメンバーは次の戦いの場をセルマに決めた。セルマにはSNCC(学生非暴力調整委員会)のメンバーが先に入って投票について地元民に指導していたが、中々難しい状況であった。キング牧師がセルマに到着しホテルに入った所で、「キング牧師だろ?」と話しかけてきた白人の男にいきなり顔を殴られた。前途多難な戦いがキング牧師等には待っていたのだった...
だいたい1963年9月から1965年3月のキング牧師と公民権運動を描いた作品である。映画の中では若干時系が前後したり、ちょっとした違いがあるけれど、大体合っている。けれど、ジョンソン大統領の専門歴史家は「違うー!」と怒っているし、アンドリュー・ヤングもジョンソン大統領の部分は「ちょっと違うね」と話している。それが原因でオスカー戦線から脱落したとも言われている。この映画を観て私はすぐにジョン・ルイスの自伝「Walking with the Wind」が読みたくなったので、すぐにセルマの項を読み返しました。この映画は多分ジョン・ルイスのこの回想録を元に映画化したんじゃないかな?でもジョン・ルイスとキング牧師が車で2人で会話というのはありませんけどね。歴史や過去というのは一つの答えだけな筈なのに、国が違ったり宗教が違ったり人種が違ったりすると、そこに認識の差が生まれて一つじゃなくなっちゃう時もある。それは世界の歴史の教科書が全て同じじゃないのが証明している。じゃあ、こういう歴史映画で何が大事なのか?という事だ。この映画ではキング牧師は何を目指し、どのように戦ったのか?そこにはどんな困難があったのか?という事。確かにジョンソン大統領は「待て」とは言っていないかもしれない。言っても言わなくてもキング牧師が戦ったあの戦いの厳しさには変わりないのである。若干35歳前後だったキング牧師が人として牧師として男として何を考え、悩み、そして人々をどう導いたのか、それを監督のエヴァ・デュヴルネイは観客に見事に伝えていたのだった。
この映画では印象に残るシーンが沢山ある。やはりあの血の日曜日を再現したシーンも圧巻で再現された事でどれだけ大変だったか分かるし、バーミングハムの4人の少女のシーンはかなり衝撃的でびっくりした。ゴスペルの女王であるマヘリア・ジャクソンに電話して歌ってもらうシーンは名シーンの一つ。キング牧師と彼の右腕ラルフ・アバーナシーが刑務所内で会話するのも見所。そのシーンでは撮影技師のブラッドフォード・ヤングは、人工的な光を使わずに自然と刑務所に差し込む光だけで撮影しているようだった。それが余計に彼等の置かれた状況を過酷に見せていた。FBIから嫌がらせで盗聴テープを聞かされているコレッタ夫人の台詞も素晴らしい。なんとも言えない表情ながら毅然とキング牧師に「あなたの声くらい分かるわ」と、どちらとも取れる台詞を言うのだった。そしてやはりジミー・リー・ジャクソン家族の存在が大きい。活動家でもない一般市民がキング牧師に感動して、活動に家族で参加。しかしそこにもやはり困難や悲劇が付きまとう。お爺ちゃんが「82歳です」とキング牧師に話すシーンは涙なしにはいられない。
ただ音楽だけは1点減らさせてもらった。コモンとジョン・レジェンドの主題歌「Glory」が、ゴールデン・グローブ賞にてベスト・オリジナル・ソング賞を受賞。別にこの曲に対して1点減らした訳ではなく、公民権運動と言えば、そのマーチでみんなで合唱する歌も重要な役割を果たしたわけで、中でも「ウィ・シャル・オーバーカム」が一番有名(だからこそのジョンソン大統領のスピーチの最後の1文よね)。そしてこのセルマでは「エイント・ノーバディ・ゴナ・ターン・ミー・‘ラウンド」であった。これが出てこない事に私はすごく違和感があったので。キング牧師も参加した2回目のマーチ「ターンアラウンド火曜日」があっての3回目の成功ですからね。3回目で「エイント・ノーバディ...」が無いのがすごく残念でした!
デビット・オイェロウォというイギリス出身の俳優が演じた南部出身のキング牧師。この映画では本当に全員がいい演技をしていた。これまたイギリス出身のトム・ウィルキンソンが演じる南部出身のジョンソン大統領に、やはりイギリス出身のティム・ロスが演じる「差別を今!差別を昨日も!差別を今日も!」で知られるとことん悪い南部男ジョージ・ウォレス。そのジョージ・ウォレスとジョンソン大統領の会談のシーンで、私の斜め後ろのオジサンは「このジョージ・ウォレスって奴は...最低だな!がははああー!」と悪すぎで笑ってました。ジミー・リー・ジャクソンを演じたキース・スタンフィールドは本当に母性本能をくすぐられ泣いちゃう演技だし、アンドリュー・ヤングを演じたアンドレ・ホランドの青年を説得するシーンはヤングらしい聡明さがあって滅茶苦茶かっこよかったし、ジョン・ルイスを演じたステファン・ジェームスも小さな事からこつこつと...タイプを見事にこつこつと演じていた。若い俳優も素晴らしかった。でもやっぱりモノホンの南部出身者であるウェンデル・ピアースが一番南部の人ぽさが出てました。ハリー・ベラフォンテの名前が出た時に「バナナ・ボート」を歌い始めるの最高!
終わった後にさっきの斜め後ろのオジサンが言ってました「ラブ・イット....ベリー・グッド!ラブ・ディス・アロット(良い、最高だ!この映画大好きだ)」と。私も同じだよ、オジサン!となりました。そして今年初の映画でスタンディングオベーションでしたよ!もちろん出演者の舞台挨拶とか無いですけど!!
という訳でキング牧師の映画はまだまだ沢山ありますので、こちらにまとめてありますのでどーぞ!
(4.75点/5点満点中:1/9/15:映画館にて鑑賞)