この前自分で書いておいて、そういえば持ってるのに見てないじゃん...という事で、見てみました。アメリカ版のDVDの2枚組か、新しく出たブルーレイに収録されております。日本ではマルコムXが公開された頃にビデオかレザーディスクで出てます。もう廃盤ですが...
脳天ぶち抜かれるね。これは凄いよ。なんとオスカーのドキュメンタリー部門にノミネート。さすがに受賞はしてませんが。映像もスタイリッシュ。いきなりビリー・ホリディの「ストレンジ・フルーツ(奇妙な果実)」を真っ黒な画面で、結構長い事聞かせます。そして、マルコムの白黒映像であの「いかなる手段を取ろうとも」のスピーチ。さらにあのザ・ラスト・ポエッツの「Niggers Are Scared of Revolution」と共に、当時の黒人の姿を映し出す。そしてそれがマルコムのスピーチと交互に効果的に入れ替わる。この最初の10分位で、もうやられちゃいましたね。
1965年にアメリカで発売された「マルコムX自伝」をジェームス・アール・ジョーンズが読んでいく。そこにマルコムの映像とか、その読まれている当時の映像とかが入ってくる。あのジェームス・アール・ジョーンズの独特な声とかイントネーションが、これまた映像に深みを増すわけです。あの白人の教師に「弁護士にはなれない。現実的な夢をみなさい」と言われたという(最近も同じような事がアメリカで起きている)部分の再現映像は、スパイク・リーの「Malcolm X / マルコムX (1992)」と同じですね。スパイクがこの映画から影響されているのが分かります。というのも、このドキュメンタリーを監督したアーノルド・パールはスパイクの方の映画でも脚本で一緒にクレジットしてます。元々脚本家で、映画監督したのはこの作品のみ!というのも、この映画が出来てからすぐに亡くなっているのです。元々、マルコムXの映画はスパイクが監督する何十年も前から制作されていて、沢山の脚本が存在していた。1つは「A Soldier's Story / ソルジャー・ストーリー (1984)」のチャールズ・フラー、「Redbelt / レッドベルト 傷だらけのファイター (2008)」のデビット・マメット、そしてジェームス・ボールドウィンだった。スパイクは全部の脚本を読んだ。ジェームス・ボールドウィンの脚本は、当時ボールドウィンがお酒に溺れていたのもあったので、最初の原稿はスタジオが全く気に入らないものだったが、「One Day When I Was Lost」というタイトルで出版されている。で、ボールドウィンの脚本の手助けをしたのが、この映画の監督のアーノルド・パール。彼は、赤狩り中にブラックリスト入りしている。その脚本を元にスパイクはマルコムXを制作したので、パールの名前が残っているのです。なぜかボールドウィンの名前は残らず。
なのでこの映画とスパイクの「マルコムX」は複雑に絡み合っているのです。だからスパイクの「マルコムX」のDVDに収録されているんでしょうね。
この映画観て、しみじみ思いましたが、なんでデンゼル・ワシントンがオスカーが取れなかったのか、今でも意味分からない。デンゼルのマルコムXは完璧よ。一ミリも間違ってない。ドキュメンタリーなのに、デンゼルがマルコムを演じているのか分からなくなる位。デンゼルは相当マルコムを研究した筈。映画の時にもかなり台詞などの部分でスパイクを助けたそう。
最初に書いたように、とてもスタイリッシュ。でもここにはそれとは全く正反対の生々しさも同居している。だから印象に非常に残るドキュメンタリーなのです。ブラックヒストリー月間に相応しい一本。最近でもブラウン大学の学生が、マルコムの失われたスピーチのテープを発見したと話題になってましたね。マルコムはまだまだどこかに失われたままの部分があるのかもしれませんね。マルコムの命日が2月21日。今こそ、マルコム、いや毎日、マルコム。
(5点満点:2/2/12にDVDにて鑑賞)