この映画に出会えた感謝『I Am Not Your Negro』
ジェームス・ボールドウィン。黒人文学界の宝。ボールドウィンの半自伝的『Go Tell It on the Mountain / 日本未公開 (1985)』は大好きだ。「ソニーのブルース」や「ジョバンニの部屋」など数々の名作を遺したボールドウィンだが、脱稿出来なかった本がある。それが「Remember This House」。著名な公民権運動家であり、そしてボールドウィンとは個人的な親交もあった友人、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師とマルコムXとメドガー・エヴァースとの回想録だった。どうしても30ページを超す事が出来なかったという。『I Am Not Your Negro / 私はあなたのニグロではない (2016)』はその未完成な本に残された言葉と共に、その当時ボールドウィンがTVなどで語っていた映像を元にボールドウィンを追っていく。
友人3人は自分よりも年下で、順番からいうと自分が先なのに、揃って40歳を迎える前に暗殺されてしまった事を随分と悲しんでいた。この映画で物凄く好きなのが、ボールドウィンがキング牧師とマルコムを語る所。2人は全く違うバックグランドを持つけど、死が近づくにつれ次第に同じポジションに近づき、そして同じになった。という部分。これ、私、学生時代に比較文化論だったかな?文化人類学だったかな?(学生時代が昔過ぎて何を取ったのかすら覚えていない)の論文で同じような事を書いて物凄く褒められた。ジェームス・ボールドウィンは、そんなキング牧師とマルコムXの丁度真ん中位なんだとも思った。
映画好きの母やおばに連れ添って沢山の映画を見たと言うボールドウィンは、映画やスターの名前を出して具体的に黒人差別の問題点を語っている。映画ファンならとても分かりやすく、すんなりと入ってくる。Stepin' Fetchit(ステピン・フェチット)やWillie Best (ウィリー・ベスト)やMantan Moreland (マンタン・モアランド)を見て、彼らは嘘をついて品位を落としていると語る。『They Won't Forget』という映画で、黒人俳優クリントン・ローズモンドが演じた男が、無実にも関わらず罪をかぶせされている姿を見て、自分の父と少し同じだと思ったという。ゲイリー・クーパーが映画でネイティブを殺しているのを見て、なぜかクーパーを応援している自分に気づく。あのネイティブこそが、自分の姿なのに。白人は暴力を使ってもロマンチックにヒーローとして崇められた。しかしそれ以外が暴力を使うと野蛮人だと言われる。白人の西洋思考が進み、白人崇拝している日本人にこそこの映画を見て貰いたいと、切に思った。
60年代の映像で、キング牧師や白人の学校に通おうとする黒人学生の周りのピケットサインを見て今と変わらないと思った。「Race mix is Communist!」(人種混合は共産主義!)とか、トランプ支持者のサインと大して変わらない。「○○は、共産主義!」というなんでも共産主義にしてしまう考え方。
そして最後のボールドウィンの長いモノローグ。「俺はニガーじゃない。人だ。もし貴方が私がニガーだと思うならば、それは貴方が私をそうする必要があるからだ。貴方が考えるべき問題。この国の白人が考える問題。もし私がニガーだとするならば、それは貴方たちが作り出したのだ。貴方たち白人が作り出したのだ。なぜか考えて欲しい。そしてこの国の未来は、その問題を尋ねる事が出来るのかに掛かっている」。そして流れるケンドリック・ラマーの「The Blacker the Berry」。Institutionalized manipulation and lies, Reciprocation of freedom only live in your eyes...(制度化された操作と嘘、自由の返報はあなたの瞳にだけに生きる)
この映画に出会えた事に感謝する!
I Am Not Your Negro / 私はあなたのニグロではない (2016)(5点満点:1549本目)