Booker's Place: A Mississippi Story / 日本未公開 (2012) 1423本目
『ブッカ―’ズ・プレイス:ミシシッピの物語』というタイトルである。タイトルのブッカ―とはブッカ―・ライトというミシシッピの小さな町グリーンウッドで生まれ育った黒人男性の事。ブッカ―は、小さい頃に母親に捨てられた。ラッセルという白人一家の元で働いていたが、そのラッセル一家が別の州に移動する時に母はブッカ―を置いて、ラッセル一家と共に移動してしまった。成人したブッカ―は町で有名なレストラン「ルスコ’ス」でウェイターとして働き始めた。ルスコ’スにはメニュー表という物が存在していなかった。ブッカ―はリズムよく歌うようにメニューをお客に披露していた。ルスコ’スで貰える給料は、当時グリーンウッドで黒人が貰える一番高い給料は綿摘みであったが、その給料と同じだけ貰っていた。貯めたお金でブッカ―は黒人街に「ブッカ―’ズ・プレイス」という自分のお店を構えたのだ。
ニューヨーク出身のフランク・デ・フェリッタはNBCで働いていた。フランクは、ミシシッピで3人の公民権運動家が殺された事を聞く。フランクはすぐにミシシッピに飛んで撮影し始める。3人が殺されたフィラデルフィアの近くグリーンウッドに立ち寄った。そこで白人男性に話を聞いていた。彼らは口々に「黒人の事は好きだよ。我々はみんな黒人マザーから育てられたんでね」と言った。1人の白人のおじさんは、彼らを紹介してやるよと、黒人の家を訪れ、フランク達に撮影させた。そして、ブッカ―に出会う。ウェイターの時の恰好で、ルスコ’スのあの独特なメニュー読みをカメラの前でやらせてみた。すると...
ブッカ―は突然黒人ウェイターとしての白人レストランで働く辛さをカメラの前で堂々と話し始めた。
「何人かは私をブッカ―と呼び、何人かはジムと呼びます。そして何人かはニガーと私を呼びます。とても辛いですが、笑顔を絶やしてはいけません。そうすると”問題があるっていうのか?なんで笑顔じゃないんだ?こっちに来い”とか始まります。もちろん良い人たちも居ます。”そんな風にブッカ―に話すなとか、彼の名前はブッカ―だ”とか言ってくれます。(中略)いつも笑顔を絶やさない事を学びました。意地悪な人にこそ、もっと笑顔を!です。他に何が出来よう?と心の中では泣いていてもです。時々は”あのニガーにチップなんかやるか!”と言われてもです。イエス、サー、ありがとうございます。他に何が言えますか?”またお越しくださいませ”というしかない。”あれはいいニガーだ!俺のニガーだ!””そうです、ボス、私は貴方のニガーです”。それも全て生活の為です。
なぜ?そうしてまで?私には3人の子供が居るのです。彼らに学を付けさせたいのです。
私には学を付けるほど恵まれてはおりませんでしたが、彼らにはそうさせたいのです。そして彼らは学校でとても頑張ってます。私のような経験を子供たちには経験させたくないのです。彼らには資格があると思う職について欲しいのです。”おい、あのニガーにコーヒー早く持って来いと言え”と言われるような経験を自分の子供たちには経験させたくないのです。けど覚えておいてください、我々は笑顔を絶やしてはならないのです」
このブッカ―の今で言うスタンダップコメディのようなモノローグは、NBCにて『ミシシッピ:セルフポートレート』として放送された。黒人が自分の思いを語るという事は、ミシシッピでは許される事ではなかった。ミシシッピの恥部を暴露されたと感じたグリーンウッドの白人たちが、ブッカ―に嫌がらせを始めた。そしてそれは普通の白人住民ではなく、警官が銃を持ってやってくる事も当たり前の事だったのだ。ブッカ―はしばらくして、ブッカ―’ズ・プレイスでショットガンを持った黒人に殺された。その犯人は今も服役中だが、白人警官たちとは顔なじみだったと言われている。
という顛末を、フランクの息子で映画監督であるレイモンド・デ・フェリッタが今回このドキュメンタリーとしてまとめている。それは一本の電話から始まっている。ブッカ―の孫のイヴェット・ジョンソンが、そのNBCで放送された映像を捜していたのだ。「ブッカ―’ズ・プレイス」でのミシシッピ物語は、50年を経て、彼らの子孫によって語られたのである。笑顔で守ったブッカ―の遺産という名のドキュメンタリー映画。
(4.75点/5点満点中:DVDにて鑑賞)