This Is the Life / 日本未公開 (2008) 755本目
誰ですか?西はギャングスタラップだけだと言っていたのは!!!90年代初めはN.W.Aの活躍もあったし、映画も「Boyz N The Hood / ボーイズ’ン・ザ・フッド (1991)」と「Menace II Society / メナース II ソサエティー/ポケットいっぱいの涙 (1993)」と続けて成功したので、無理もないかもしれない。スヌープ・ドッグだって、今はピンプキャラでコミカルだけど、最初の頃は殺人罪で裁判にかけられていた事で有名になったんだったから(無罪となっている)... でも西は「ギャングスタ」という枠にはめる事に何となく違和感を感じていたのです。そんな10年来のモヤモヤを一気に解消してくれたのが、この作品。
サウスセントラルの一角に、まだホールフーズやトレーダー・ジョーズなんていうオーガニック大型店が店舗数を増やし勢力を拡大する前の事、「ザ・グッドライフ・カフェ」というオーガニックのベジタリアン食を扱うカフェがあった。あのサウスセントラルにあるというだけでも驚き。しかも時は1992年。丁度、ロサンジェルスのギャングスタがメディアにて勢力を広げていた頃の話。そんな中、そのカフェの設立者の息子が「ヒップホップのオープンマイク(素人が自由に参加出来る)」を開催しようと提案し、始まった。しかしそのオープンマイクでは、カスワード禁止、ガム噛みながらも禁止、壁に貼ってある絵画に寄りかかるのも禁止...とルールが細かくて多いが、「俺にも、私にも、言いたい事があるのでやらせろ!」という人々が集まってきた。その場所で自己表現する若者達は、細かいルールがあったって夢中になった。そしてその「ザ・グッドライフ・カフェ」のオープンマイクで有名になったのがChillin Villian Empire。そして若者達が夢中になり熱中してくると、今度は黒人だけのものでは無くなった。聞きつけてやってきたのが、カット・ケミスト。カフェの中で唯一の白人。最初は色々と言われたみたいだが、その熱意が通じたのか仲間となってオープンマイクにも参加するようになった。また噂を聞きつけて、オープンマイクに参加したのが、ファット・ジョー。しかし彼は見事にブーイング(ここでのブーイングは「マイクを誰かに渡して!」というチャント)されている。それはしっかり映像にも残っていて、この作品でも確認できる。アイス・キューブやスヌープ・ドッグにコモンにレニー・クラビッツなんかもオープンマイクに出場していたとの噂。
1994年にはNasやスヌープと並んで数多くの「グットライフ」出身のアーティストが「注目の新しいアーティスト」という事で雑誌でも紹介された。そうすると一躍「グッドライフ」は注目を集めて、当時「ビバリーヒルズ高校生白書」で人気だったシャナン・ドハーティーも訪れたという。そしてここからはカット・ケミストも参加していたジュラシック5を輩出している。そして「Project Blowed」のコンピレーション・アルバムを成功させ、Freestyle Fellowshipも出来た。それぞれがレコード契約を獲得するが、なぜか爆発的に人気になる事はなかった。唯一は「I Wish」がヒットしたSkee-Loかな?でも一曲だけだし。中でも「グッドライフ」で一番尊敬されていたのがマイカ・ナイン。彼も爆発的な人気者になる筈が、そうではなかった。でも彼のスタイルは「ボーン・サグズン・ハーモニー」に引き継がれている。
確かに彼らが爆発的な商業主義的な成功を収める事は出来なかったかもしれないが、彼らがヨーロッパに出向くと尊敬の態度で歓迎されるし人気もある。ここ日本でもアンダーグランドなヒップホップを聞く人には彼らのファンは多い筈。
今だったらYoutubeとかでこの手の映像は見られるかもしれないけど、当時は家でネットが簡単に出来る訳じゃなかったですものね。当時はアメリカで300円位で売っている雑誌も900円や1000円で売られていたし... でもね、西はギャングスタラップだけじゃないんだよ。ギャングスタラップ以外にも沢山のスタイルを生み出したんだよ。って事だけは覚えて貰いたい。
今回のドキュメンタリーを監督したのが、先日書いた女性ラッパー達のドキュメンタリー「My Mic Sounds Nice: The Truth About Women in Hip Hop / 日本未公開 (2010)」と同じで、エヴァ・デュヴルネイ。彼女もここ「ザ・グッドライフ・カフェ」でFigure of speechというコンビでラップをしていた女性。今は女性監督として活躍し、次回作はヒップホップと関係ない普通のドラマ。「A Low Down Dirty Shame / ダーティ・シェイム (1994)」のサリ・リチャードソンが主役。でもラッパーから監督になるまでは、映画のプロモーションを担当する仕事をしていて、中々監督がしたくてもお金を出してくれる人が見つからず大変だったらしい。でもこのドキュメンタリーが認められて、次回作で長編ドラマ初挑戦。この作品の良さはやっぱり彼女の力が大きいと思う。あの場所で成長したからこその熱量。あの熱さがあるからこそ観客には伝わってくると思う。こればかりは第三者では描けなかった筈。そして苦悩も知っている。あれから10年経ったからこそ、どうして成功できなかったのか、彼らがよく分かってるのです。
いやー、こういう作品に出会えると清々しい気分になります。やっぱりヒップホップって良いよね。好きだなー。好きになって本当に良かったよ。このドキュメンタリーではユーチューブなんかじゃ味わえないフリースタイルが沢山見られます。アンダーグラウンドな物ばかりが良いとも思いませんが、これは良いのですよ。このグッドライフ・カフェに集まった若者達も全然タイプの違う人たちばかり。多彩です。右上の写真は小さいけれど、今の彼ら達です。
(5点満点:DVDにてフリースタイル鑑賞)