Precious: Based on the Novel Push by Sapphire / 日本未公開 (2009)
久々に涙が止まらず持つ手が震えた本に出会った...「Push」である。後に「Precious」とタイトルが変更になった...あの映画の原作。映画も評判がいいし、そろそろ原作もまた売り出しているかなーと先週末に本屋をうろついていたら、嬉しい事に見事に読みが的中し、映画で主人公を演じたガボリー・”ガビー”・シディベの写真がカバーとなっているペーパーブックが平積みになっていたので、早速手に入れた。家に帰ってから早速読み始めて、ページをめくる手が止められなかった。映画とこの原作は登場人物を若干変えたようだけど、大きな変更はない。本でこんなに圧倒されたのだから、映画もかなり圧倒されるに違いない。なにせ、オスカー候補に早くも名乗りを上げているんだから。
私がこの映画の事について書いたのは、マライヤ・キャリーがこの映画に参加するという2008年の9月23日付けのニュースでだった。その後、同年に同じく「Push」という映画があった為にタイトルが変わったとか、サンダンス映画祭に近づいた時からはそれについて書いてみたり、そのサンダンス映画祭で大賞を取った事を書いてみたり、タイラー・ペリーとオプラ・ウィンフリーがこの映画の宣伝に加わった事とか、今年に入ってからはかなりのペースでこの映画のニュース等を書いてきたと思う。正直、最初に書いた時にはまたリー・ダニエルズが手がけた小作品だと思っていた。リー・ダニエルズが制作を担当して彼自身も有名になった「Monster's Ball / チョコレート (2001)」には衝撃を受けた。また彼がやはり制作を担当した「The Woodsman / 日本未公開 (2004)」も見ごたえがあって面白かった。でも彼が監督に回ってからは、あまりいい作品には出会えていなかったのだ。なので私の期待度もさほど膨らむ事は無かった。リー・ダニエルズ本人もそうだったようで、「ビデオスルーになると思っていた」とインタビューでも答えている。状況が大きく変わったのは、やはりサンダンス映画祭のグランプリと観客賞の大きな賞の2冠に輝いてからだ(両賞受賞は2006年のQuinceanera以来で2度目)。その噂を聞いたタイラー・ペリーとオプラ・ウィンフリーが無償で宣伝する事を約束。またタイラー・ペリーの映画を配給しているライオンズ・ゲイトが配給権利を獲得した。
そして満を持して、オスカー期待の作品を大手が公開する10月から11月の一番大事な時に公開開始。ディズニーの大作「クリスマス・キャロル」と同じ公開日で、クリスマス・キャロルが3683館という凄い数での公開の中、「Precious」はたった全米で18館の限定公開。しかしながら585,000ドル(約5850万円)という記録に残る興行成績を獲得。ライオンズ・ゲイトは感謝祭のウィークエンドからはもっと公開館数を増やし最終的には1200館にするプランがある事を明らかにした。クリスマス・キャロルの20分の1の制作費で出来ているこの作品こそが、今週の興行成績の勝者だと思っているプロも多い(ここにも)。また初日での売り上げは、限定公開作品の最高記録となった。
また(こちとら)自費(じゃ!)で見た有名人達が、週末後にTwitterにてこの映画の素晴らしさをつぶやくのも流行りとなった。マーロン・ウェイアンズにタイリース、キム・ウェイアンズが映画の素晴らしさをつぶやいた。そして、もちろん一般人もこの映画の素晴らしさについてつぶやいている。
日本でも東京国際映画祭で公開予定でしたが、残念ながらキャンセルになってしまいました。残念ではありますが、ここはオスカーを獲得して堂々と日本にやってきてもらいたいものです。
この映画が本当にオスカーを手にする事があったら... ブラックムービー初の快挙となる。黒人監督による黒人俳優が主役で、黒人作家の本が原作で、黒人監督が制作にも関わり映画の主要な部分をコントロールした正真正銘のブラックムービーだ。これ以上のブラックムービーも無いだろう。
「Sweet Sweetback's Baadasssss Song / スウィート・スウィートバック (1971)」に似たものを感じる。単館公開で成功させ、ブラックムービーの歴史を変えたあの作品。しかし、この映画は今それを越えようとしているのかもしれない。