良き教育者になるために『レ・ミゼラブル』
フランス人俳優ラジ・リの自伝的な作品であり、彼の初となる長編映画監督作品。しかも、初ながら2020年に行われたアカデミー国際長編映画賞のフランス代表作品であり、ノミネートも果たした作品です。オスカーは逃しましたが、カンヌ映画祭にて審査員賞を受賞!「ミュージックマガジン8月号」でも少し書きました。ブラック・ライブズ・マター運動が全米だけでなく、イギリスやフランスなど世界に飛び火した訳が、理解できる作品なのです。何より面白い!
2018年ワールドカップにて優勝したフランスはお祭りムードで、凱旋門やエッフェル塔の周りには人で溢れかえっていた。そんな中、警察署には新入りルイーズ(ダミアン・ボナール)がやってきて、クリス(アレクシ・マナンティ)とグワダ(ジブリル・ゾンガ)のベテランコンビに付き添ってパトロールに出かけた。クリスの少々行き過ぎなパトロールに戸惑いながらも、黙々とこなしていった。しかし、街のトラブルを捜査中に、催涙弾で視界を失ったグワダが撃ったフラッシュボールが、少年イッサ(イッサ・ペリカ)に命中してしまう。そして、その様子をドローンで偶然に撮影していた少年がいた。3人の警察官は、ドローンで撮影していた少年を探しだし、イッサの事故を隠滅しようとするが...
という感じなので、タイトルとなっている有名なヴィクトル・ユーゴーの小説を映画化した訳ではありませんが、関係ないこともないのです。同じモンフェルメイユが舞台で、ユーゴーの文が引用されております。
そして、2005年のパリ郊外で起きた暴動が題材となっている。警官に追われたことが原因で移民が感電死した事件から起きた大きな反乱。日本でも報道されている事件だ。
この映画の何が面白いかっていうと、単なる人種や宗教でキッチリと分けていない所。移民の少年を誤って撃ってしまったのは、同じ移民のグワダ。劇中グワダは仕事と割り切っているのか割りと中立の立場で、白人のルイーズが移民などに対して感情移入しており、白人のクリスはいかにもな悪役ぽさがある。そんな三者三様の人たちがいても、人々の怒りをどうすることも出来ない。それは、被害者となる少年を囲む人々も様々で、サラーのような出来た大人もいれば、ゾロのような最低な大人もいて、怒りを回避することは出来ない。ドローンで撮影していた子も最初は同級生の女の子の着替えを撮影していたりと、どことなくのび太くんを連想させる平和な雰囲気だった。偶然に撮影してしまったことで追われることになる。
暴力は結局暴力を生む。そして連鎖していく。ヴィクトル・ユーゴーの「我が友よ、これを覚えておいてくれ。雑草も悪人もいないのだ。悪しき教育者だけがいるのだ」。この言葉が、鑑賞後に何度も頭を駆け巡る。
(4.75点:1756本目)
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