俳優アドウェール・アキノエ=アグバエはなぜスキンヘッドになったのか?『Farming』
俳優アドウェール・アキノエ=アグバエの監督デビュー作!トロント映画祭でワールドプレミアしてから気になっておりました。なんでも、アキノエ=アグバエの自伝的な作品とのことで、それがなんと白人至上主義なスキンヘッドのリーダーになってしまうという物語らしい。そんな人生をアキノエ=アグバエが歩んでいたとも知らず、とても興味を持ってしまったのです。第一、なぜアキノエ=アグバエがスキンヘッドのリーダーになってしまったのか?その過程がとても知りたいと思った。正直、盲目の黒人老人がクー・クラックス・クラン(白人史上主義)のメンバーになってしまうという、デイヴ・シャペルのコントが頭をよぎる。
1960-1980年代の間、多くのナイジェリアの子供たちが親元を離れ、イギリスに住む労働階級の家庭に里親として育てられる「ファーミング(Farming)」というシステムがあった。エニも妹と共に、カーペンター家に預けられていた。8歳になったエニは、養母(ケイト・ベッキンセイル)に「私のお気に入りになりたいでしょ?」と言われ、店でネックレスを万引きしようとして捕まってしまう。事なきこと得たが、エニは家でも学校でも居場所がなかった。そんな時、両親(アドウェール・アキノエ=アグバエ&ジェネヴィーヴ・ナジ)が迎えに来て、ナイジェリアに戻った。しかし、言葉や慣習にも慣れず、トラブルを起こして、エニだけカーペンター家に戻った。高校生になったエニ(ダムソン・イドリス)は、相変わらず居場所がなく、近くでたむろっていたスキンヘッドたちにもイジメられて、その場を止めようとしてくれた唯一親身になってくれる先生(ググ・ンバータ=ロー)に対しても「黒人クソ野郎」と呼んでしまう...
まず、タイトルとなった「ファーミング」について知れたのが良かった。あまりイギリスの歴史に明るくないので、知らないことを知れるのは楽しい。イギリスには移民が多いことは知っていたけれど、子供たちだけが里親制度で出されていたことは知らなかった。アキノエ=アグバエの場合は、両親ともにイギリスで勉強に勤しんでいたのもあって、そのシステムが使われた。環境も国も全然違うけれど、オバマ前大統領を思い出した。オバマの両親も勉強が忙しくて、祖父母に育てられていたよね。オバマの場合は血の繋がった家族だから良かったけれど、アキノエ=アグバエは違った。養父母は凄い悪い人たちではないけれど、凄い良い人たちって訳でもなく、実母なら愛情ある育て方したんだろうけど、結局はお金目的みたいなところもあって、愛情には欠けていた。それが、アキノエ=アグバエのアイデンティティ崩壊に繋がってしまった。母国ナイジェリアでの疎外感も辛かったのもある。それによってグレてしまった。アキノエ=アグバエがスキンヘッドに入ってしまったのは、日本で言うところの暴走族に入ってしまったというのに似ている。居場所が欲しかった。そこは絶対に居場所じゃない筈なのに。イギリスの小さな街では、黒人だけの不良グループっていうのは存在していないのかもしれない。彼らスキンヘッドの喧嘩相手は、隣町のスキンヘッドだったり、航海で立ち寄ったんだか、それとも基地が近くになるのか海軍の黒人水兵たちだった。
そこまでしていた男が、どのようにして世界的な俳優にまで上り詰めたのか?この映画では、それが駆け足で描かれているが、相当の努力をした筈である。こんな風に脚本を書き、監督まで担当している。そして、その脚本、感動的な言葉や名文句があるわけじゃない。驚くほどに殆どが罵り言葉だ。それでも人生って変えられる。人からの名言だけが人生を変える訳じゃない。自分次第。なるほど、実際そうかもね、と、思った。
(4.5点:1725本目)
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