Quiet Storm: The Ron Artest Story / 日本未公開 (2019) (TV) 1704本目
戦いに勝って平和が訪れる『Quiet Storm: The Ron Artest Story』
今年2019年のNBAドラフトにて、八村塁が初の日本人選手が10位内でドラフトされた。それを機に、日本でもNBAやバスケットボールの話題が増えて、NBAファンの私にとって、とても嬉しいことである。そんな状況はマンガ『月の夜 星の朝』の遼太郎(私の初恋)だけで、私が生きている間に日本人で活躍出来るNBAプレイヤーなんて現れないものだと思っておりました。本当にありがとう、八村くん。そんな私は、夫との会話の70%はNBAであるけれど、最近話題になったのが「最近のNBA選手って真面目でおとなしくて良いよね」という話。最近は、みんな真面目にバスケットボールに取り組んでいる、そんな印象だ。昔は、気性が荒かった。その60%は、この映画の題材となったロン・アーテスト、又の名をメッタ・ワールド・ピース... だった気がする。でもそれには訳があった。
1979年ニューヨークのクイーンズに生まれたロン・アーテスト。両親の離婚によって怒りをコントロール出来なかった少年は、カウンセラーの勧めでバスケットボールを始めるようになる。ニューヨークの子供たちにとって、それが一番身近だったからだ。父との真剣勝負のトレーニングもあり、才能を発揮していくロン・アーテスト。バスケットのお陰もあり、不良たちとは関わらずに済み、そして高校に入る頃には注目選手となり、AAU(高校とは別のアマチュア運動連合のチーム)でも話題となっていた。地元ニューヨークのバスケの名門大学に進み、そして1999年NBAドラフトにて16位で選ばれ、シカゴ・ブルズでプロ生活を開始する。しかし、試合中の彼の怒りは抑えられず、試合中の乱闘騒ぎで度々話題になっていた。そして2004年11月19日、「パレスの騒乱」と呼ばれるNBA史上最悪の乱闘騒ぎを起こしてしまう...
この手のスポーツドキュメンタリーは、最近はESPNばかりが作っていたけれど、これは違う。有料チャンネルShowtimeが放送した。インタビューを受けた人たちが独特で、NBA選手だけでなく、同じクイーンズ出身のOnyxのフレドロ・スターとかLost Boyzのミスター・チークスとかCapone-N-Noreagaの2人とかヒップホップ色が強い。もともと音楽方面にも興味があり、彼らとも仲が良く事情を良く知っているからだ。でも知りたいのは、やっぱり彼のバスケのこと。コービー・ブライアントや、元チームで仲が良かったジャーメイン・オニールらが語っている。ジャーメイン・オニールとは、その後にトレードなどを巡って確執があるけれど、それでも出てきて話してくれるジャーメイン・オニールの器の大きさよ!その間に居たスティーヴン・ジャクソンとかの話も面白い。私も当時、ロン・アーテストは面倒を起こしてばかりのトラブルメイカーという認識しかなかった。関わりたくない選手のナンバーワン。「私は普通にNBAの試合が見たい」そう思っていた。でも不思議とこうやって通して彼の人生を知っていくと、そんな私の偏見も壊れていく。最後、ようやくバスケットに集中した結果、コービー・ブライアントと共にチャンピオンシップを獲得する。しかも、試合で大事なポイントまで決めている。その時の試合後のインタビューでの「コービーがボールをパスしてくれたんだ!」は、NBAファンならば思わず爆笑してしまう名言だ(コービーはパスしない事でも有名)。でも、一つだけ不満だったのが、メッタ・ワールド・ピースという名前に改名したのは、かなりの衝撃的なニュースだったのに、なぜかそれについてはこのドキュメンタリーで特に触れていないこと。それも知りたかった。そして、映画タイトルはメッタ・ワールド・ピースじゃなくて、ロン・アーテストなのかも知りたかった。
彼が改名したメッタ・ワールド・ピースのメッタは、パーリ語で、慈の意味があるそうだ。NBAチャンピオンになって引退した彼はとても充実しているように見えた。現在の彼の慈しみの心は世界を平和にするかは分からないけれど、少なくとも彼自身と彼の周りは平和にしていると感じた。
(4.25点:1704本目)
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