2010年に発売されベストセラーとなった「The Immortal Life of Henrietta Lacks(不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生)」を映画化。というか、その本にするまでを映画化。この話が映画化される時に読んだ映画のプロットを読んでも正直言ってピンとこなかった。は?意味不明と。映画観てやっと「なるほど」と。
原作本や映画のタイトルにもなっているヘンリエッタ・ラックスは、ラックスの家族によるウェブサイトによれば、1920年バージニア州の南部の集落に生まれた。結婚し、5人の母となったが、1951年に子宮頸癌で他界。その時に採取された彼女の細胞が、医学界で革命的な物となる。彼女の名前の頭文字を取ってHeLa細胞と呼ばれる細胞は、今も死なず(Immortal)増え続け、ポリオワクチンを生み、文系の私には到底理解出来ない程の様々な実験・検証で今も貢献しているという。
が、しかし... そんな事になっているとは、ラックスの夫や子供たちは知らなかった。何しろ、彼女の体の一部が採取された事すら聞かされていなかったのだ。彼女が行った病院ジョンズ・ホプキンス病院は、医学界のハーバード大学みたいな所。アメリカ医学の権威中の権威だ。家族はその事実を知らされていない事を、黒人だから蔑ろにされたと思っている。恐らく99%そうであろう。ラックスの家族は何となくその事実を知るが、なんの手立てもない。しかもそんな凄いスーパー細胞であるヘンリエッタの遺族はその恩恵を全く受けていない。なぜか見知らぬ人たちだけがその恩恵を受けて財を増やしていく。そして遺族は理由も聞かされず、採血される。そんな時に現れたのが科学雑誌や本などのフリーランスライターのレベッカ・スクルート。黒人大学の名門モアハウス大の協力を受け、ラックスの子孫を突き止め接触。遺族はスクルートの事をホプキンス大の回し者だと思い、拒絶する。何しろ、細胞については嫌な思い出しかないのだから。で、そのスクルートと遺族の間の葛藤などを描き、本「不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生」が完成するまでが描かれている。
スクルートを演じたのが『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』等で知られるローズ・バーン。バーンの独特の軽さ・軽快さが、この映画を辛気臭くしなくて好演。そして泣く子も黙る黒人芸能界のご意見番オプラ・ウィンフリーがヘンリエッタ・ラックスの娘の1人デボラを演じている。面白いのが彼女が首から下げているキーチェーンには「WWJD」の文字。WWJD=What Would Jesus Do(神ならどうするか)という事。如何にも南部のおばちゃんがしていそうなキーチェーンだ。でもそれだけで、彼女が敬虔なクリスチャンである事も分かる。みんな良かったが、シーンスティーラーはヘンリエッタの遺族の1人ザカリヤを演じたレグ・E・キャシーだ。新しい方の『ファンタスティック・フォー』でストーム博士を演じた人。この人は『Pootie Tang / プーティ・タン (2001)』以来、私の心を鷲掴みにしている。今回もラックス家の放蕩息子を怪演。
しかし案の定、ヘンリエッタの遺族の1人で長男のローレンスは映画には否定的。プロデューサー枠を用意したけれど、それも拒否し、映画も見ていない。ローレンスは「ホプキンス病院に搾取され、そしてオプラにも家族の物語を搾取されるとは」と怒りを露わにしている。
ヘンリエッタの細胞が多くの人々の命を救ったように、いつかヘンリエッタの遺族も報われる時が来る事を願わずにはいられない。
The Immortal Life of Henrietta Lacks / 不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生 (2017)(4.5点:1546本目)