"30 for 30" Guru of Go / 日本未公開 (2010) (TV) 1247本目
これもっと早くに観れば良かったー!!!っていうか、後悔。何度も書いているようにスポーツ専門チャンネルESPNが制作の「30 for 30」シリーズの9作目。このシリーズで好きな作品は沢山ありますが、これは1・2を争うかも?『"30 for 30" Without Bias / 日本未公開 (2010)』に『"30 for 30" Benji / 日本未公開 (2012)』と続いた、バスケットボール選手の不幸なストーリーシリーズ。『Without Bias』の時にも『Benji』の時にも夫は観る度にこの映画の題材ともなったハンク・ギャザーズの話をしてきた。「ハンクの方が不幸だ!」と、そして「俺の年代にはそっちの方がインパクト強かった」とも。で、なぜか見逃していたこれをやっと手に入れました。
タイトルの「Guru of Go(ゴーの教祖)」とは、ロヨラ・メリーマウント大学(以下LMMU)のバスケットボールのヘッドコーチであるポール・ウエストヘッドの愛称。彼は「ラン&ガン」というとにかくコートを走りまくるシステムでコーチした人物。NBAのロサンジェルス・レイカーズでも1980年にチャンピオンシップに導いたが、スター選手のマジック・ジョンソンと衝突して解雇された(映画の中でカリーム・アブドゥル=ジャバーが証言している)。その後はまだマイケル・ジョーダンが入る直前のシカゴ・ブルスのヘッドコーチに就任するも結果を残せず解雇。そしてLMMUのヘッドコーチに就任。時を同じくして、フィラデルフィアにはハンク・ギャザーズとボー・キンブルという幼馴染の黄金コンビが居た。高校を優勝に導いた2人は一緒にロサンジェルスの名門USCに入る。しかしヘッドコーチのトラブルなどで思ったような大学生活ではなかった。そこで2人揃ってUSCからそんなに離れていないLMMUに転入する。2人はポール・ウエストヘッドの「ラン&ガン」を徹底的に叩き込まれる。同じチームメイトは「練習がきつ過ぎで、試合の方が楽だった」という程だった。チームも上り調子の中、ハンク・ギャザーズは試合で倒れる。その後に心臓に問題があり、心拍数が異常である事が発覚。しかしその後は全く普通に練習し試合にも出ていた。所が1990年3月4日、西海岸カンファレンスの対ポートランドの準決勝の試合中にギャザーズはポスターになりそうな美しいアリーウープからの強烈なスラムダンクを決めた後にまた突然倒れ、そのまま亡くなった。その試合はESPNで放送していたのだった。
という訳で、うちの夫もこの試合をテレビで観ていたのである。その映像はこの映画でも流される。正直ビックリで、トラウマになりそう。客席はシーンとして呆然としている中、お母さんや家族が泣き叫ぶ。ハンクは立ち上がるが、監督に横になっておきなさいと言われて、そのまま横になり、失神して動かなくなった。30秒前には強烈なダンクを決めた。ディフェンスに戻ろうとした陣地の3ポイントライン付近で、頭を抱えて倒れたのだった。享年23歳。肥大型心筋症。
残された方も不幸である。大学側選手たちもその後の試合はどうするかという判断に迫られた。彼等が決めた決断は「Go」。幼馴染のボー・キンブルは会見後に立てない程のショックを受けていた。そんなキンブルは、次の試合でファーストハーフで4つもパーソナルファウルを取られるという「らしくない」プレーを連発していた。しかしその後は正に「神がかった」試合を連発する。難しいフリースローを決めて、チームを勝利に導いた。NCAAトーナメントの2回戦では、前年度のチャンピオンのミシガン大と対戦、なんと不思議な力が働いて勝利。3回戦目はアラバマ大で、2点差の絶体絶命の中何とか勝利。そしてこの大学の初となるエリート8入りとなる4回戦目はラリー・ジョンソンやグレッグ・アンソニーにステイシー・オウグモンがいるUNLVと対戦。さすがにキンブルの快進撃は続かずに負けた。この年のチャンピオンはUNLVだった。キンブルの快進撃を見て思い出したのが『The Sixth Man / ゴースト・ブラザー/天国から来たヒーロー (1997)』だ。突然亡くなった大学バスケットボールのスター選手だった兄が、ゴーストとなって同じ大学の選手でもある弟を手伝って快進撃を続けるというコメディ。あの時のキンブルは何かに守られ助けられていたように感じる。
ハンクは努力家だったのがみんなの証言で良く分かる。本編には入っていないけど、チームメイトだったコーリー・ゲインズ(お婆ちゃんが日本人!)が語っていたけれど、ハンクは深夜にコーリーをジムに誘う。練習したかったのだ。その時にハンクは「練習するんだし、ストリートでトラブルに巻き込まれるんじゃないから、コーチも怒らないでしょ!」と返したらしい。そんなハンクは大学時代にシャックが居たLSUを相手に48点も取った事がある!NBAでも活躍出来ただろうね。
でもこの映画の面白いところは、ハンクとボーを主役にしていないところ。タイトルのように主役の題材はコーチ。このコーチは大学で英語(所謂国語)を専攻していたので、シェイクスピアに詳しい。なのでこの映画でもシェイクスピアの名文句が沢山出てくる。そしてコーチはNBAや大学(では優勝していないが)でもいい結果を残しているのにも関わらず、所謂名将としては知られていない。そんなコーチは、NBAや大学、そして日本!でもコーチした後に、WNBAに行ってまた優勝させたのである。NBAとWNBAで優勝したのは彼が最初。ちなみにコーリー・ゲインズはNWBA時代にコーチを助けるアシスタントコーチに就任し、その後にウエストヘッドから引き継いでヘッドコーチになって2度の優勝を果たした。
先日のNBAドラフトの時にもツイッターに書きましたが、今年のドラフトを表明していたベイラー大のアイゼイア・オースティンは、そのための健康診断で心臓の疾患が見つかり、NBAの道を諦めなくてはならなくなった。あと数日で、彼の小さい頃からの夢が叶う筈であった。誰もが切なくなるニュースだったが、新しいNBAオーナーのアダム・シルバーは、16番目のドラフトが行われる前に、サプライズとして、「皆さんのお時間ちょっと頂きます。しかし、ベイラー大のアイゼイア・オースティンをNBAはピックします!」と発表し、ドラフト名物のチームのキャップ(アイゼイアにはNBAのロゴのキャップ)を被ってオーナーと握手というのをやったのだった!!誰もが思わず嗚咽してしまう感動的なシーンだった。けど、やっぱりみんなの頭の中に浮かんだのは、このハンク・ギャザーズの悲劇であろう。アイゼイアがそれを回避出来たのも、ハンクの悲劇があったからだ。
とにかく悲しく切ないドキュメンタリー。人がハンクについて語れば語るほどに切なくて悲しい。
(4.75点/5点満点中:6/18/14:DVDにて鑑賞)