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The Central Park Five / 日本未公開 (2012) 1121本目

これは凄かった。観る前からケン・バーンズが監督と聞いて、凄いだろうなーとは思っていたが、実際に凄かったパターン。まず、タイトルのセントラル・パーク・ファイブとは何なのか?1989年4月にニューヨークのセントラル・パーク内で起きた女性への性的暴行事件で逮捕され起訴された5人の少年の事。本当にまだ少年という言葉がぴったりな14-16歳の男の子達が逮捕された。彼らは実際に確かにその日のその時間にセントラル・パーク内に居て、逮捕された5人のうち2人はその日にセントラルパーク内で逮捕されている。別件で。事の始まりは、その1989年当時のニューヨークで”Wilding(ワイルディング)”というのが黒人の少年の間で流行っていた。トーン・ロックの大ヒット曲「Wlid Thing」から流行ったもので、「何かワイルドな事をする」。つまり暴力を振るう事だった。少年達は、弱そうな人たちをターゲットに暴力を振るっていたのだ。その事件が起こった日も、ハーレムからやってきた少年達は110th通りの角で偶然出会い、総勢25人ほどの少年達がセントラル・パークで「Wilding」を繰り返していた。最初はホームレスをターゲットにし、その後に中年のサラリーマンが狙われた。そのサラリーマンが狙われた時に、警察がやってきて逃げた彼らを追った。その時に捕まったのがレイモンド・サンタナとケビン・リチャードソンの2人。警察が尋問中に、ランニングをしていた男性2人が、セントラルパーク内で全裸で血だらけで横たわる女性を発見し通報。サンタナとリチャードソンは親と共に家に帰る直前だったが、女性暴行のニュースを聞いたそのまま警察が引き止める事になった。警察は、彼らが犯人だと信じて、長く激しい尋問を繰り返す。「白状したら家に帰す」と言われた2人はデタラメの自白をする。どうせ後で真実が明らかになって無実が晴れると思っていたからだ。空腹で疲れきった14-16歳の少年の短絡的な考えだった。

元々25人の少年達は面識がそれほど無かった。もちろん友人同士という関係の者も居たが、顔見知り程度。サンタナとリチャードソンのデタラメの自白と、警察のずさんな捜査で、他の3人が新たに逮捕される。面識のない5人は適当にお互いに罪をなすりつける。しかしその5人はその後に数奇な運命で人生を共にしていく。刑務所という狭い中で。

ニューヨークの地方検事のエリザベス・レデラーとリンダ・フェアステインの2人は、5人の少年達のDNAが犯行現場や女性に残された犯人とされるDNAとは全く一致しないのにも関わらず、少年達の自白ビデオテープを元に立件していく。関わった警察の一人は、マティス・レイエスという連続レイプ犯の少年を捕まえる事にも関わっているが、警察も検察も5人の犯行と断定していく。

白人女性が黒人の乱暴な少年達によって暴行を受けた。そしてその白人女性は記憶喪失になった。と、当時のマスコミはセンセーショナルに書きたてる。ニューヨークの住民は少年達の「ワイルディング」に飽き飽きしていたのもある。映画でもちらっと見えたけれど、当時スパイク・リーが監督した「Do the Right Thing / ドゥ・ザ・ライト・シング (1989)」のタイトルそのままに「Do the Right Thing」と大きく書かれたプラカードを持っていた白人女性が印象的だ。彼女の中では、映画の中で描かれたように差別意識を持つ白人側ではなく、黒人こそ(いや黒人だけが)が行動を改めて「ドゥ・ザ・ライト・シング」すべきなのだ。さらにエスカレートしていき、億万長者であり有名人であるドナルド・トランプは自分の名声を使い「だからニューヨークに死刑を復活させるべきなのだ」と、5人の少年達を追い詰めていく。

と、インパクトのある話題だと思うのだが、ニューヨーク住民ではないうちの夫にこの事件を覚えているか聞いてみた。知らないらしい。そしてこの事件の顛末を私は熱く話したのだが、クールに「そんな話、黒人ならどこにでも転がってるよ」と返された。まるで自分もその運命を受け入れているかのような冷静さ。これを観て真っ先に思い浮かべたのが「The Trials of Darryl Hunt / 日本未公開 (2007)」だ。ダリル・ハントもノースカロライナ州で冤罪で20年も刑務所で生活した人。彼もDNAが一致しなかったので、地元の活動家のお陰もあって20年後に晴れて自由になった。その地元活動家の言葉が今でも残っている。「差別は真実よりも強い」。その彼の言葉はこの映画でも通じる言葉だと強く感じる。

実際の犯人であるマティス・レイエスが、レイカーズ・アイランドというニューヨークきっての厳しい刑務所で、5人の中で一人だけ16歳という年齢だった為に少年刑務所ではなく大人の刑務所に入ったコリー・ワイズに会う。コリーは元々ヒアリングに問題を抱えており、この映画の中で語る時でも少し舌足らずな発音で話す。レイエスは、コリーがその刑務所で大変な目にあっているのを目の辺りにして、ようやく自白した。その自白は、5人の少年とは全く違って、鮮明で詳細もはっきりと語っていた。そしてもちろんDNAも一致。しかし、その頃には別の事件で収監されていたサンタナを除いた4人は、すでに刑務所を出ていたのだった(刑務所で会ったコーリーも既に出所していた)。

そしていまだにニューヨークは正式に5人に謝罪していないし、リンダ・フェアステインとエリザベス・レデラーも謝罪していない。一番の被害者は、やはり女性の被害者だ。本当に罰せられるべき男が、彼女に対して犯した罪の責任を取っていないのだから。

ケン・バーンズの娘が書いた本を元に制作された作品。ケン・バーンズのような注目を集めている監督が扱うだけでも、価値がある。彼の作品は数々の賞で注目を集めるし、PBSで放送されるのだから、この事件が多くの人に認識される事になる。

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(5点満点:5/19/13:DVDにて鑑賞)