SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて

オスカーとアメリカ黒人

わしの一生はな 水晶の階段みてえなもんじゃなかっただ
そこには 鋲がつき出ていやがったし それに 木が割れていやがったし
だけど ずっと わしは のぼってきた
時には 光なんぞねえ 暗がりのなかを 通ったもんだった
だから おまえ ふり返っちゃいけねえ
苦しいからといって 踏み段に座り込んじゃいけねえ
いま 倒れちゃいけねえ
だって わしは おまえ いまだって動きつづけてる
いまだって のぼってる
それに わしの一生はな 水晶の階段みてえなもんじゃなかっただ

〜ラングストン・ヒューズ 母から息子に
中略している部分もありますが、私の大好きなラングストン・ヒューズの詩の一つです。オスカーシーズンになると、私の頭を駆け巡る詩でもあります。オスカーとアメリカ黒人の関係は明るいものではありません。近年になってノミネートや受賞も多くなりましたが、多くはありません。

しかし映画ファンの端くれとして、やっぱりオスカーが近くにやってくると、ドキドキワクワクしてしまうものです。特に勢いのあるブラックムービーが選ばれたときには...

黒人としてオスカーを最初に受賞したのは、1940年の「風と共に去りぬ」で助演女優賞を取ったハティ・マクダニエル。メイドの役で受賞。メイドというのは、黒人女性のステレオタイプでもあり、黒人のステレオタイプを助長するのではないか?と、ハティ・マクダニエルやその他もメイドを演じていた女優はNAACP等から抗議を受けたらしいが、本人は「私がやらなかったら、他の人たちがその役を演じて富を得るまで」と答えている。

また近年にしても「Street Smart / NYストリート・スマート (1987)」のモーガン・フリーマンと、「Hustle & Flow / ハッスル&フロウ (2005)」のテレンス・ハワードは共にピンプ役を演じてアカデミー賞にノミネートしているし、デンゼル・ワシントンが念願の主演男優賞を取った「Training Day / トレーニング デイ (2001)」では腐敗した刑事を演じていた。「The Green Mile / グリーンマイル (1999)」のマイケル・クラーク・ダンカンは以前に書いた「マジカル・ニグロ」だし、黒人女性として初の主演女優賞を獲得したハリ・ベリーが「Monster's Ball / チョコレート (2001)」が演じた女性も夫が死刑囚で息子が過食症、しかも自分は虐待しているという女性だった。カンヌも受賞しているフォレスト・ウィッテカーが初のオスカーに輝いたのも、ウガンダの大統領だが多くの人を殺した独裁者。

と、役柄だけを取ってみると、決して黒人のポジティブな面を演じていた訳じゃなかった。もちろん彼等はネガティブな面を演じ、それを観客にとっての教訓になって欲しいと願う作品であった事もあった。がやはり、同じ役者がどんなにいい役を上手く演じていても、ネガティブな役柄で受賞・ノミネートされる事がなぜか多かった。ハリ・ベリーが受賞した時に生前のオシー・デイビスはこう答えている。「ハリ・ベリーは素晴らしかった。でも彼女がもっと素晴らしい役で凄い演技を見せていたのを私は知ってるけれどもね。」と。

俳優でもこんだけ不幸なので、作品になるともっと不幸。今まで黒人監督が監督した作品が作品賞にノミネートすらされた事がない。「Sounder / サウンダー (1972)」や「A Soldier's Story / ソルジャー・ストーリー (1984)」という黒人が主役でブラックエクスペリエンスを描いた素晴らしい作品もノミネートされているが(しかも両作品ともに黒人が脚色を手がけている)、両方共に監督は白人だった。「The Color Purple / カラーパープル (1985)」も然り。

脚本・脚色部門といえば、まだ受賞者は出ていない。上に挙げた「Sounder / サウンダー (1972)」のロン・エルダー3世や「A Soldier's Story / ソルジャー・ストーリー (1984)」のチャールズ・フラー、ジャクソン5のプロデューサーとしても知られるスザンヌ・ド・パッシーが「Lady Sings the Blues / ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実 (1972)」にて脚色賞・脚本賞にノミネートされているが受賞には至っていない。ちなみにチャールズ・フラーは舞台演劇の方で、黒人として初のピューリッツア賞に輝いている。

ブラックムービーといえば、スパイク・リーと思う方も未だに多いと思う。彼の場合はまだ監督賞としてのノミネートはなく、「4 Little Girls / 日本未公開 (1997)」にてドキュメンタリー部門でノミネートされた事と「Do the Right Thing / ドゥ・ザ・ライト・シング (1989)」にてオリジナル脚本賞にノミネートされただけだ。

しかし暗い部分ばかりでもない。1991年の「Boyz N The Hood / ボーイズ’ン・ザ・フッド (1991)」でデビューしたジョン・シングルトンに対し、大きな勇気を持って監督賞とオリジナル脚本賞部門にノミネートという形で未来の映画人を応援している。しかもジョン・シングルトンは当時最年少で監督賞のノミネートを果たした。

そして今年2010年。「Precious: Based on the Novel Push by Sapphire / プレシャス (2009)」という作品で、そのジョン・シングルトン以来久々にリー・ダニエルズが監督賞にノミネート。元々製作者だったダニエルズは今回も製作者として作品賞にもノミネートされている。製作者としてノミネートされるのは1984年の「The Color Purple / カラーパープル (1985)」のクインシー・ジョーンズ以来。黒人が製作も監督も務めた作品でのノミネートは初となる。また黒人の作家が書いた原作を元に黒人の脚本家が手がけてノミネートというのも初の事。「The Color Purple / カラーパープル (1985)」は著名なアリス・ウォーカーが原作だが、脚本家は白人の人だった。しかし今回もまた「Precious: Based on the Novel Push by Sapphire / プレシャス (2009)」はネガティブな黒人のイメージと批評する人も居るが、明らかに今までの映画の歴史(特に黒人映画の歴史)とは違う事が分かってもらえると思う。リー・ダニエルズが自分の作りたい作品を作りたい人と作りたいように作って、オスカーまで繋げたのだ。しかも他の作品のように平坦な「水晶の階段」じゃなかった。サンダンスに出展してから劇場公開まで足掛け2年も掛かっている。
それでも巨漢の黒人女性が主役という事で中々お金が集まらず、完成まで9年掛かったらしいが、黒人映画の歴史にとっては大きな一歩で階段をのぼった事になるだろう。さて、受賞となるか...その一歩を見守りたい。