SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて


*10/15/2018に「ブラックムービー ガイド」本が発売になりました!よろしくお願いします。(10/15/18)

*『サンクスギビング』のパンフレットにコラムを寄稿。(12/29/23)
*『コカイン・ベア』のプレスシート&コメント&パンフレットに寄稿。 (09/27/23)
*ブルース&ソウル・レコーズ No.173 ティナ・ターナー特集にて、映画『TINA ティナ』について寄稿。 (08/25/23)
*『インスペクション ここで生きる』へのコメントを寄稿。(8/01/23)
*ミュージック・マガジン1月号にて、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のレビューを寄稿。(12/2/22)
*12月2日放送bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」にて『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』についてトーク。(12/2/22)
*10月7日より上映『バビロン』にコメントを寄稿。(10/6/22)
*奈緒さん&風間俊介さん出演の舞台『恭しき娼婦』のパンフレットに寄稿。(6/4/22)
*TOCANA配給『KKKをぶっ飛ばせ!』のパンフレットに寄稿。(4/22/22)
*スターチャンネルEX『スモール・アックス』オフィシャルサイトに解説を寄稿。(3/29/22)
*映画秘宝 5月号にて、連載(終)&最後のサイテー映画2022を寄稿。(3/21/22)
*「This is Charles Burnett チャールズ・バーネット セレクション vol.1」にコメントを寄稿。(3/19/22)
*キネマ旬報 3月上旬号の『ドリームプラン』特集にて、ウィル・スミスについてのコラムを寄稿。(2/19/22)
*映画秘宝 4月号にて、連載&オールタイムベストテン映画を寄稿。(2/21/22)
*映画秘宝 3月号にて、ベスト10に参加。(1/21/22)
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Clemency / 日本未公開 (2019) 1749本目

心に残る静『Clemency』

タイトルの『Clemency』とは、恩赦の意味。大統領やら州知事やら権力のある人が、死刑執行を直前で止めたり、減刑したりすること。ただあまり期待は出来ない。私がこの映画を観て、すぐに思い出したのが、トロイ・デイヴィスのことだ。会った事もない知らない人だけど、今でもふと何気ない時に思い出したりする。詳細は「トロイ・デイヴィスのこと」のリンク先で読んで頂きたい。冤罪ながら死刑で殺された40歳の男性だ。彼も恩赦はされなかった。ジェイミー・フォックスが出演した『Redemption: The Stan Tookie Williams Story / クリップス (2004)』のスタン・トゥッキー・ウィリアムスも恩赦が受けられなかった。こちらもマスコミでかなり取り上げられたのに。そんな「恩赦」を、死刑執行する側である刑務所長を描いた作品。監督は、『alaskaLand / 日本未公開 (2012)』のチノニェ・チュク。ナイジェリア生まれのアラスカ育ち。ダナイ・グリラ制作・脚本、ルピタ・ニョンゴ主演という『Black Panther / ブラックパンサー (2018)』コンビのこれから始まるHBOシリーズ『Americanah』の監督もしている、今注目を集めている新人監督の作品です。

刑務所長であるバーナディン(アルフレ・ウッダード)は、控えている死刑執行の準備を整えていた。死刑が控えているヒメネス(アレックス・カスティーヨ)の妻を宥めたり、死刑台の最終確認をしていた。死刑は注射によるものだったが、中々針が上手く刺さらず、看護師が苦労した。途中、不手際があったが、刑務所長としてバーナディンは冷静に対処し、執り行われた。しかし、この事がバーナディンを蝕んでいく。そして、もう一人、この刑務所で死刑を待っていたのが、アンソニー・ウッズ(オルディス・ホッジ)だった。彼は最後まで無罪を主張し、目撃者と名乗っていた4人のうち3人が目撃情報を覆す発言をしており、証拠不十分なまま死刑を言い渡されていた。彼の弁護士マーティ(リチャード・シフ)は恩赦を求めて策を練るが...

かなり重たいドラマ。しかも、誰もが分かるような単純な作品ではない。所謂、とっつき難い映画だ。しかも淡々と描いているので、余計に見る者を選ぶだろう。キャスリン・ボスティックというブラックムービーでは知られた作曲家がこの映画の為に曲を書き下ろしているが、他の映画に比べたら、最近のヒット曲やアーティストを使っている訳じゃないので地味だ。そして派手なアクションもないし、派手な展開もない。唯一派手さがあるとしたら、ヒメネスのシーンがホラーなところだろう。それでも、私はこの映画のことを、トロイ・デイヴィスのことのように、ふと思い出すことがあるだろう。アルフレ・ウッダードの静かなる激怒を、オルディス・ホッジの真っすぐな感情を、チノニェ・チュクの淡々とした演出を思い出してしまうだろう。アルフレ・ウッダード演じた刑務所長は、死刑を執行しないとならない。その死刑に対してどう思い感じようと、やらなければならない。ロボットのように感情を殺す時だってある。それは他人には分からない/見えない。「殺さないで」という死刑囚家族の一つの感情。刑務所長だってそう思う時だってあるだろう。でもそれは全て感じないようにしている。被害者の家族からしたら「殺せ」という感情しかない。刑務所長もそう思ってしまう時だってある。真っすぐに一つある感情を双方からぶつけられる。そんなうちに刑務所長の感情は壊されてしまい、ロボットになった方が楽なのだ。っていうのを最後になってようやく気付かさせる。最後までは、正直、オルディス・ホッジ演じた死刑囚に肩入れして観てしまうのだ。しかし、それは刑務所長もそうだったと感じた。最後に全てが結びつく。

こんな静かな激怒は観たことない。派手で目立てば心に残るってもんじゃない。この静かさこそが心に残る。

(4.75点:1749本目)
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Uncorked / ワインは期待と現実の味 (2020) 1748本目

熟成と新鮮さが同居する『ワインは期待と現実の味』

配信後に私界隈では割りと話題になった作品。私界隈って何よ?って感じですよね。私がフォローしている有名人の間。この作品の監督・脚本・制作のプレンティス・ペニーが業界では友達が多いんでしょうね。彼は、TVシリーズInsecure / インセキュアー (2016-Present)』とか『ブルックリン・ナイン-ナイン』とかで脚本・制作しております。実際に面白かった!薦めたくなるのは分かる。主演は、『パティ・ケイク$』や『ゲット・ダウン』のママドゥ・アティエ。共演には、『American Crime Story / 日本未放送 (2016-Present)』のコートニー・ヴァンス。

ワイン店にてバイトしているイライジャ(ママドゥ・アティエ)。店にやってきた女性タンヤ(サーシャ・コンペレ)にラッパーを用いてワインを説明しナンパ成功。そんなイライジャの実家はBBQの激戦区メンフィスにて、歌手フランキー・ビバリー脳卒中を起こしたという逸話があるほどのBBQの老舗。父(コートニー・ヴァンス)は、自分のようにイライジャもBBQ店を継ぐものだと思っている。しかし、本当の所は、ワインを突き詰めソムリエになりたいと思っていた。しかし、家族は「ソムリエって何?美味しいの?」という感じで、理解は全くされない。ソムリエ学校に通い始めるイライジャだったが、学校内、そして家族内でも距離が出来てきて...

珍しいですよね、メンフィス舞台!そこがまず気に入った。現代の普通ーーーの物語がメンフィスで起きている。って当たり前なのだけど、中々描かれることがない。そして、メンフィスだから、メンフィス出身のYo Gottiの曲が多め。でもそれだけじゃなくて、古くからのメンフィスも感じられる音楽が多い。それを用いて世代を描いているのも凄く良かった。そして、メンフィスといえば、ワインじゃなくて、当然BBQ!全米でも1位か2位を争うほどの知名度。メンフィスは、ドライBBQなんですよね。ドライBBQとは、スパイスだけで味付けるタイプ。BBQソースは焼く時には使わない。食べる時につける後付けパターン。メンフィスのBBQは本当ーーーーーーーーーーに美味しいので、是非行く機会があれば食べて欲しい。有名店とか沢山ありますが、どこも美味しい筈。種類があってどれを選んでいいのやら困った場合は、大抵「サンプラー(Sampler)」っていうのがあって、通常のリブにプルドポークやらブリスケットやソーセージが食べられると思いますって、映画の話に戻しましょう...

セリフがとにかく楽しい!もう本当に黒人の人たちの生の会話という感じ。「ソムリエ」って聞いた時の家族の反応は、我が家でもそのまま当てはまるほどに想像が容易い。NBAの地元チームであるメンフィス・グリズリーズについての会話も笑ってしまう。まだマイク・コンリーが居たころの会話。最近のワカンダは、ああいう使われ方するよね。

物語は父と息子の話。ありきたりかもしれないけれど、最後が凄くスマートで良いですよね。そこはありきたりじゃない。父と息子で息子に合わせて一緒にワインを飲むけれど、昔からのドミノ(昔から黒人はドミノをやると言わている)を2人でやるのも良い演出でした。熟成された古き良さと新しい新鮮な良さが、心地よく同居する作品。

(4.5点:1748本目)
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The Banker / ザ・バンカー (2019) 1747本目

只者ではない人たちが銀行を作ったサクセスストーリー『ザ・バンカー』

ブラックムービーには伝記モノが多い。そしてサクセスストーリーが非常に多い。随分前に、「黒人映画はサクセスストーリーの伝記映画ばかり」と、少し意地悪な書き方をした文に出会ったことがある。その人は「なぜ黒人映画にはサクセストーリーが多いのか?」と、根本的なことを考えたりしなかったのだろう? と、逆に私は思ったりした。差別うんぬん...という多くの人たちが煙たがる「常套句」をこの際置いておいても、絶対的に黒人は厳しい状況に置かれていることが多い。もちろん、最初から恵まれている黒人もいる。でも誰が見たって確実に厳しい状況なのは、いつも黒人やマイノリティの人々だ。その人たちが見て楽しい&勇気づけられるのは、いつだってサクセスストーリーである。あの厳しい状況でも屈せずに運命やら状況を変えていった主人公を見れば、「自分だって」と思ってしまう。とは言え、「いつも辛い状況で我慢して苦労しなくちゃいけない姿を見るのは嫌!」という人も居る。人それぞれなので仕方ない。この作品は、ゼロではないけれど、割りとそういう苦労は描かれていない。どちらかというと、「痛快に」成功を収めていくタイプの物語。主演のバーナード・ギャレッドにはアンソニー・マッキー、共演にはサミュエル・L・ジャクソン。アップルが最近始めたApple TV+のオリジナル作品。

1939年、テキサス州の小さな街の経済が集まる建物の近くで靴磨きをしていたバーナード少年。大人たちの会話を盗み聞きして、富を得るためにメモを一生懸命取っていた。1954年、バーナード・ギャレッド(アンソニー・マッキー)は、妻(ニア・ロング)のおじに仕事を紹介すると言われるが、不動産を始めると断る。黒人が不動産業なんてとビックリされるが、本気だった。とあるアパートを買おうとするが、資金が足りず、妻が働くクラブのオーナーであるジョー・モリス(サミュエル・L・ジャクソン)に話を持っていくが嫌われる。銀行でも門前払い。アパートの持ち主のバーカーは、バーナードの話を聞いて取引をする。順調に事が進んでいたが、バーナードに不幸があり、また振り戻しに戻る。バーナードは、ジョーに再び会いに行き、びっくりする提案をする。白人の知り合い(ニコラス・ホルト)を代理人にして、白人が所有するLAの大きなビルを2人が買収しようというものだった...

黒人であることを隠すというか、白人を代理人にしてしまうという大胆な方法で、成功していってしまうのです。もう「痛快」という言葉がぴったり。裏で手を引き富を手にするのは黒人であるバーナードとジョーだけど、表立っているのは白人の男性。見事なトリックですね。古い黒人民話のような面白さがある。「出し抜いている」感が痛快なのです。見た目だけを気にしていると、そうなるっていうことです。

Apple TV+の初陣を飾る作品として、この映画はオスカーを狙う予定だった。しかし、この映画の主人公であるバーナード・ギャレッドの息子がプロデュースに参加。しかし、彼が虐待していたと異母姉妹の告発により、全米公開が流れ、なんとか配信だけはされた作品である。オスカーを狙うだけあって、俳優たちの演技が素晴らしい。サミュエル・L・ジャクソンはいつもながら豪快であるが、主演を食わない程度に抑えていて、とても好感が持てる。何より、ちょっとやらしい(お金・女・欲といういろんな意味で)クラブのオーナー役だという説得力が凄い。ニコラス・ホルトのどこか頼りなさげで隙があるけど憎めない青年役も印象的。主役のアンソニー・マッキーも主演としての風格がある。真面目で努力家だけど、どこかずる賢い所が見え隠れする。そしてこの映画で使われているのは、たった2曲(多分)。レイ・チャールズスティービー・ワンダーの曲だけだ。その2曲が本作にピッタリで印象的である。

硬派で普通の伝記映画の顔して、実は小気味の良い胸がスッとする痛快サクセスストーリー。この映画自体が見事なトリックスター。只者ではない!

(4点:1747本目)
The Banker / ザ・バンカー (2019)

John Henry / 日本未公開 (2020) 1746本目

ハンマーと巨人伝説が現代のコンプトンに甦る『John Henry』

ジョン・ヘンリー。黒人民話の主人公。前にダニー・グローヴァー主演で『John Henry : Tall Tales & Legends / 日本未公開 (1986)』というTV映画化された作品を観ているので、タイトルだけでピーンときました。大柄で力が人一倍強かったジョン・ヘンリーは、列車を通すトンネル堀りの際に車両系機械にハンマーだけで挑んで勝ったという伝説が元になっている。アメリカで列車が普及したのは、線路づくりをしていた黒人と中国人の労働力だった。その中で出来たジョン・ヘンリー伝説。その伝説は民話となって受け継がれていったのです。ジョン・ヘンリーが本当に存在していたのか否か... 色々と研究は進んでいるようです。今回は、そのジョン・ヘンリー伝説を現代のロサンゼルスのコンプトンに甦らせた!という作品です。現代版巨人は、筋肉ムキムキ面白マッチョマン『エクスペンダブルズ』のテリー・クルーズ!!

1993年、父B.J.(ケン・フォリー)は息子ジョン・ヘンリーに名前の由来を話していた。生まれた時に指を握り返してきて、その力が強かったので伝説の人と同じジョンと名付けた。そして1994年、ティーンのジョン・ヘンリーはギャングに居た。そして現代。家のガレージで作業していたジョン・ヘンリー(テリー・クルーズ)は、ただならぬ音を聞いて外に出ると犬が車に牽かれていた。激怒したジョン・ヘンリー。運転手はとっさに銃を出す。ジョン・ヘンリーはその銃に怯みもせずにそっと犬を抱きかかえ去った。そしてその近所では英語も話せない女の子たちがギャングの男たちに捕らわれていた。救出に向かった人たちが女の子を逃がし、その中の一人ベルタ(ジャミラ・ベラスケス)がジョン・ヘンリーの家のポーチの下に逃げ込んで...

中々良い感じでギャングとジョン・ヘンリーとヒスパニックの女性がストーリーで絡んでいきます。ロサンゼルスぽい。そしてとある人のお兄さんもストーリーに絡んでくる。そして、ジョン・ヘンリーの同級生もストーリーに入ってきて...と、色んな人が絡んでいきます。まあでも一番良いのは、ジョン・ヘンリーの父B.J.ですね!ジョージ・A・ロメロ監督のホラー映画でお馴染みのベテラン俳優ケン・フォリーが演じている。今回はゾンビよりも手ごわい敵であるギャングと対決!車いす生活しているけれど... 最後、ちょっと面白いです。そして、そのラスボスとなるのが、ラッパーのリュダクリス。ポスターとかでも結構大きく写真出ているし、名前も主演のテリー・クルーズの次にクレジットされている。けど、出てくるのは最後の25分だけ!色々と前々から主演のテリー・クルーズには絡んでいるんだけど、なんだか急に出てきたねって感じでした。今回の監督はウィル・フォーブスという人。誰?知らない?と思ったら、今回が初監督&脚本。凄いチープな感じはしたけれど、でも物語は割りと面白かった。点数は低めですが、嫌いじゃないです!特に最後が良いですね。名前の由来に掛けている。これから監督のことを気にしたいと思う。

いつも陽気なテリー・クルーズがお笑いを一切封じて挑んだ作品。いつもの笑いの向こう側にあるテリー・クルーズの狂気がとても良かった。こういうテリー・クルーズ、実は見てみたかった。テリー・クルーズの現代のジョン・ヘンリー、伝説にはならないけれど、脳裏には焼き付いた。

(3.5点:1746本目)
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Always in Season / 日本未公開 (2019) 1745本目

「またか...」をいつか無くすために『Always in Season』

恐らくこれから書くことは多くの人々にはあまり歯牙にもかけないことかもしれず、それゆえにこの作品への興味もないかもしれない。「またか...」そう思う人が多数であろう。その「またか...」だから問題だと言うのに。自分には関係ないことで済まされるかもしれない。でも家族だったら、恐ろしいことだ。想像もしたくない。でも、現実に起こっている。「またか...」のレベルで。そんなアメリカの日常に埋もれてしまいそうな「またか...」を追ったのが、新進監督ジャクリーン・オリーヴ。新人とインディペンデントを支援するサンダンス映画祭にて上映されたドキュメンタリー。ナレーションには、『リーサル・ウェポン』シリーズでお馴染みのベテランのダニー・グローヴァー

2014年の夏、ノースカロライナ州ブレイデンボロという小さな街で、ブランコで首を吊られた状態で発見されたのが、17歳のレノン・レイシー。警察は自殺と断定したが、レノンを良く知る家族や友人たちは、リンチを受けた殺人だと信じている。その事件と、アメリカの歴史に影を落とす過去のリンチ事件である、1946年ジョージア州で起きたムーアのフォード橋リンチ事件、1939年フロリダで起きたクロード・ニール・リンチ事件を追っていく。

現在と過去のリンチ事件を扱っている。過去の事件はもう40年以上も前の出来事だけど、今も変わらないのが犯人は分かっているのに捕まらない。ノースカロライナで起きた現在の事件だって、このドキュメンタリーを観れば、誰が犯人かは一目瞭然だ。ドキュメンタリーの映像作家が真実に迫る事が出来るのに、なぜか警察はそれをやらない。過去と現在の両方を追ったからこそ分かる、現在にもそこにある恐怖。

そしてムーアのフォード橋リンチ事件は、地元の人たちが毎年その現場で再現しているのがビックリした。どんな悍ましい事件だったかを風化させない為に行っている。この事件では、2組の若いカップルと女性のお腹の中にいた赤ちゃんの5人が殺されている。加害者は、女性のお腹を割いて赤ちゃんを取り出して殺しているのだ。それをそのまま再現(演技)する。多くの観客が目をそむける。この再現も、最初は誰の支援も受け入れられなかった。再現する演者、特に白人の役者たちから嫌厭されてしまい、最初の時には仕方なく黒人がお面を被ってやっていた。今では、ちゃんと白人の役者が協力している。その中の1人は、親がクー・クラックス・クランのメンバーで、リンチも実際に観たことあるという人までいた。今はそういう事実があった事を伝えたいとして参加している。

時代が変わっても、変わらない悪いこともある。でも、時は確実に人々を変えていく。教育されて知ったり、世の中を見ることで日々、人は変わっていく。そうやって、いつかは「またか...」が無くなっていけばいい。でも、その前に知る事が肝心である。そういうドキュメンタリー映画だ。

(4.5点:1745本目)
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Killer Inside: The Mind of Aaron Hernandez / 内なる殺人者: アーロン・ヘルナンデスの素顔 (2020) おまけ

スポーツとは?言葉にならない気持ちを残す『内なる殺人者: アーロン・ヘルナンデスの素顔』

女性は付き合った男性に影響されるとよく言う。元々趣味がハッキリしている私にはそんな通説は通用しない!と言い切りたいところですが、残念ながらアメリカン・フットボールだけは夫の影響で好きになりました。でもバスケットボールは違います!バスケは夫と付き合うウンと前から。我が家の場合、NFLシーズンだけでなく、大学、高校、カナダリーグ、TV放映していたらヨーロッパリーグ、消滅したけどアリーナ・フットボール、そして今年再開したXFL... 全て観る夫なので、もう出口なし。全否定するよりも、ファンになって一緒に観た方が楽なのです。そんな訳で、NFLは未だ好きなチームはありませんが、NCAAでは断然アラバマ大のファン!Tuaがクォーターバッグを務めたここ2年位は違うけれど、アラバマ大本来のランプレーとガッチガチなディフェンスが大好き。という訳で、NFLのスター選手だったアーロン・ヘルナンデスドキュメンタリー映画を。ヘルナンデスは、アラバマ大とは全く関係ありません(笑)。

2013年7月。ボストン郊外で27歳のオーディン・ロイドが殺された。容疑者として浮かび上がったのが、なんとその街で活躍するNFLニューイングランド・ペイトリオッツのスター選手アーロン・ヘルナンデスがその一人だった。被害者の恋人の姉妹と交際していたのがヘルナンデスという繋がりがあった。ヘルナンデスは、高校時代からスター選手で、フロリダ大学時代にも全国制覇を成し遂げ、そしてNFLではペイトリオッツの一員としてスーパーボウルに出場し、しかもタッチダウンとなるパスを受け、勝利に貢献した選手の一人だった。そのアーロン・ヘルナンデスが殺人事件の容疑者となるまでの転落の人生を追う。

こういうドキュメンタリーの場合、作り手が「有罪」か「無罪」か、どちらを信じて作っている場合が多い。完全な有罪を信じて、被害者側に寄り添い事実に迫っていくパターン。そして、冤罪を信じて、事実を積み上げていくパターン。このドキュメンタリーは、どちらにも攻め込んでいくパターンだった。とにかく、事実をどんどんと提供していくパターン。そして、3面記事並みにショッキングな内容も投げつけてくる。正直、ヘルナンデスの性的嗜好は、この事件に関係ない気がしてならない。父やNFLという世界の中で性的嗜好が抑圧されていたのかもしれないけれど、それは事件とは関係ない。本人は、公表していない訳だし。その部分だけは、炎上狙った告白って感じがして嫌悪感を感じた。本人は、公表していない訳だし、それにもう本人は反論も出来ないので。でも、ウィル・スミス主演の『Concussion / コンカッション (2015)』でも描かれた、試合中の脳震盪で起こり得るCTE(慢性外傷性脳症)については、彼の性的嗜好以上に話題になって欲しいことだ。ヘルナンデスが起こした事件に直接関係あるかは分からない。でも、この問題はもっと大きく取り上げて知ってもらいたいことだ。

ヘルナンデスが選んだ最後の道... 私はあまりこの事件のことを追っていなかったので、追いかけ回されて辛かったんだろうなと本作を見る前には思っていたけれど、そういうことだったのか...

そしてこのドキュメンタリーを観て確信してしまったことは、NFLは...というか、確実にニューイングランド・ペイトリオッツは、ヘルナンデスの麻薬使用について知っていたということだ。いや、ペイトリオッツだけをやり玉にあげようとは思わない。最近のニュースから察するに、NFLだけでなくNBA、そして他のプロスポーツでもそうだと察するが、チームは恐らく選手の麻薬使用について知っている。でも、チームの利益のために恐らく隠ぺい(隠ぺいは言い過ぎかもだけど)、もしくは黙秘している。

だからこそ胸が痛くなる。被害者のことを思うと非常に辛い。そしてそんなスポーツを観て、熱くなる自分に自問自答してしまう。選手たちが一生懸命やっている姿を観るのは、とても熱くなる。でも、チームは勝利や利益のために、選手たちのその努力を搾取し、そして選手の内面を蝕んでいる。スポーツファンの端くれとして、何とも言えない複雑な気持ちを残すドキュメンタリーだ。

(4点:おまけ)
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The Slender Thread / いのちの紐 (1965) 1743本目

上手過ぎで...『いのちの紐

随分前にターナー・クラシック・ムービー(TCM)チャンネルで、シドニー・ポワチエ特集をしていた時に放送した映画(だったと思う)。中々観ずにそのままにしてしまった。という訳で、シドニー・ポワチエ主演作品です。監督は本作が長編監督デビュー作となるシドニー・ポラック。一般には『トッツィー』とか『追憶』などが有名ですね。私は、オシー・デイヴィスが出演している珍しい西部劇『The Scalphunters / インディアン狩り (1968)』が好きです。そんな感じでポワチエとポラックというWシドニーで挑んだ実話の映画化です。

アラン(シドニー・ポワチエ)は大学に通いながら、コーバン医師(テリー・サバラス)の診療所に開設している自殺防止のための電話相談室の夜番を勉強も兼ねてボランティアをしていた。大抵は、酔っ払いからの電話だったが、その日受けた女性(アン・バンクロフト)からの電話は何かが違っていて、自殺の可能性があるとアランはすぐに気づいた。アランは事務所に一人で慣れないながらも、女性からの電話を繋ぎとめ、彼女の名前がインガであることを突き止めた。後は、インガがどこから電話を掛けているのか突き止めなくてはならない。コーバン医師が中々到着出来ないなか、警察(エドワード・アズナー)等が捜索に急ぐが...

って、滅茶苦茶いい感じでプロット書けたと思う(呆れる自画自賛)。正直に書きます。ちょーーーーーーイライラした!映画の出来とか演出がとか演技がとかじゃないです。このインガという女性に心底ムカつきました。理由知ると、「そりゃーーーーー、そーーーーでしょーーーーよーーーーーーーーーーーーーーー!!!」となります。インガの旦那様、哀れ。インガは、私が一番嫌いなタイプです。自分のせいなのに、一番面倒なドラマクイーンタイプの女性。しかも凄い悲劇のヒロインぽい声で自分に酔ってるいるし、全然肝心なことは言わないし、イライラが止まりませんでした。アン・バンクロフトのそういう演技が上手過ぎで、余計にムカつきが止まらなかった。一番可哀想なのがインガの夫と息子です!何か深い事情があるにしろ、12年間も黙っているのは酷すぎる。逆に12年間が罪を重くする。あと、海での鳥のシーンもイラっとした。彼女の自己中な性格が出ている。結局は悲劇のヒロインになりたい人なんだろうなーと。良い事をするという自己満足すら満たされず、暴力で破戒する人。いるよね。そういう人でも助けなくてはならない。だけど、インガの性格が悪すぎで、最後はどうなるの?(ハラハラドキドキ)とは、素直に思えなかった部分がある。

先に書いたように、映画としての出来は悪くない。今日の写真のように、バックに「アメリカでは2分毎に誰かが自殺しようとしている」などの大切なメッセージが見ており、啓蒙になっている。そして寧ろ、この題材をよくこれまでの映画にしたものだと感心する。しかも音楽担当がクインシー・ジョーンズ。悪い訳がない。ただ、インガという人がどうしても好きになれなかっただけだ。

(3.75点:1743本目)
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