SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて


*10/15/2018に「ブラックムービー ガイド」本が発売になりました!よろしくお願いします。(10/15/18)

*『サンクスギビング』のパンフレットにコラムを寄稿。(12/29/23)
*『コカイン・ベア』のプレスシート&コメント&パンフレットに寄稿。 (09/27/23)
*ブルース&ソウル・レコーズ No.173 ティナ・ターナー特集にて、映画『TINA ティナ』について寄稿。 (08/25/23)
*『インスペクション ここで生きる』へのコメントを寄稿。(8/01/23)
*ミュージック・マガジン1月号にて、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のレビューを寄稿。(12/2/22)
*12月2日放送bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」にて『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』についてトーク。(12/2/22)
*10月7日より上映『バビロン』にコメントを寄稿。(10/6/22)
*奈緒さん&風間俊介さん出演の舞台『恭しき娼婦』のパンフレットに寄稿。(6/4/22)
*TOCANA配給『KKKをぶっ飛ばせ!』のパンフレットに寄稿。(4/22/22)
*スターチャンネルEX『スモール・アックス』オフィシャルサイトに解説を寄稿。(3/29/22)
*映画秘宝 5月号にて、連載(終)&最後のサイテー映画2022を寄稿。(3/21/22)
*「This is Charles Burnett チャールズ・バーネット セレクション vol.1」にコメントを寄稿。(3/19/22)
*キネマ旬報 3月上旬号の『ドリームプラン』特集にて、ウィル・スミスについてのコラムを寄稿。(2/19/22)
*映画秘宝 4月号にて、連載&オールタイムベストテン映画を寄稿。(2/21/22)
*映画秘宝 3月号にて、ベスト10に参加。(1/21/22)
過去記事

メール

John Henry / 日本未公開 (2020) 1746本目

ハンマーと巨人伝説が現代のコンプトンに甦る『John Henry』

ジョン・ヘンリー。黒人民話の主人公。前にダニー・グローヴァー主演で『John Henry : Tall Tales & Legends / 日本未公開 (1986)』というTV映画化された作品を観ているので、タイトルだけでピーンときました。大柄で力が人一倍強かったジョン・ヘンリーは、列車を通すトンネル堀りの際に車両系機械にハンマーだけで挑んで勝ったという伝説が元になっている。アメリカで列車が普及したのは、線路づくりをしていた黒人と中国人の労働力だった。その中で出来たジョン・ヘンリー伝説。その伝説は民話となって受け継がれていったのです。ジョン・ヘンリーが本当に存在していたのか否か... 色々と研究は進んでいるようです。今回は、そのジョン・ヘンリー伝説を現代のロサンゼルスのコンプトンに甦らせた!という作品です。現代版巨人は、筋肉ムキムキ面白マッチョマン『エクスペンダブルズ』のテリー・クルーズ!!

1993年、父B.J.(ケン・フォリー)は息子ジョン・ヘンリーに名前の由来を話していた。生まれた時に指を握り返してきて、その力が強かったので伝説の人と同じジョンと名付けた。そして1994年、ティーンのジョン・ヘンリーはギャングに居た。そして現代。家のガレージで作業していたジョン・ヘンリー(テリー・クルーズ)は、ただならぬ音を聞いて外に出ると犬が車に牽かれていた。激怒したジョン・ヘンリー。運転手はとっさに銃を出す。ジョン・ヘンリーはその銃に怯みもせずにそっと犬を抱きかかえ去った。そしてその近所では英語も話せない女の子たちがギャングの男たちに捕らわれていた。救出に向かった人たちが女の子を逃がし、その中の一人ベルタ(ジャミラ・ベラスケス)がジョン・ヘンリーの家のポーチの下に逃げ込んで...

中々良い感じでギャングとジョン・ヘンリーとヒスパニックの女性がストーリーで絡んでいきます。ロサンゼルスぽい。そしてとある人のお兄さんもストーリーに絡んでくる。そして、ジョン・ヘンリーの同級生もストーリーに入ってきて...と、色んな人が絡んでいきます。まあでも一番良いのは、ジョン・ヘンリーの父B.J.ですね!ジョージ・A・ロメロ監督のホラー映画でお馴染みのベテラン俳優ケン・フォリーが演じている。今回はゾンビよりも手ごわい敵であるギャングと対決!車いす生活しているけれど... 最後、ちょっと面白いです。そして、そのラスボスとなるのが、ラッパーのリュダクリス。ポスターとかでも結構大きく写真出ているし、名前も主演のテリー・クルーズの次にクレジットされている。けど、出てくるのは最後の25分だけ!色々と前々から主演のテリー・クルーズには絡んでいるんだけど、なんだか急に出てきたねって感じでした。今回の監督はウィル・フォーブスという人。誰?知らない?と思ったら、今回が初監督&脚本。凄いチープな感じはしたけれど、でも物語は割りと面白かった。点数は低めですが、嫌いじゃないです!特に最後が良いですね。名前の由来に掛けている。これから監督のことを気にしたいと思う。

いつも陽気なテリー・クルーズがお笑いを一切封じて挑んだ作品。いつもの笑いの向こう側にあるテリー・クルーズの狂気がとても良かった。こういうテリー・クルーズ、実は見てみたかった。テリー・クルーズの現代のジョン・ヘンリー、伝説にはならないけれど、脳裏には焼き付いた。

(3.5点:1746本目)
www.blackmovie-jp.com

Always in Season / 日本未公開 (2019) 1745本目

「またか...」をいつか無くすために『Always in Season』

恐らくこれから書くことは多くの人々にはあまり歯牙にもかけないことかもしれず、それゆえにこの作品への興味もないかもしれない。「またか...」そう思う人が多数であろう。その「またか...」だから問題だと言うのに。自分には関係ないことで済まされるかもしれない。でも家族だったら、恐ろしいことだ。想像もしたくない。でも、現実に起こっている。「またか...」のレベルで。そんなアメリカの日常に埋もれてしまいそうな「またか...」を追ったのが、新進監督ジャクリーン・オリーヴ。新人とインディペンデントを支援するサンダンス映画祭にて上映されたドキュメンタリー。ナレーションには、『リーサル・ウェポン』シリーズでお馴染みのベテランのダニー・グローヴァー

2014年の夏、ノースカロライナ州ブレイデンボロという小さな街で、ブランコで首を吊られた状態で発見されたのが、17歳のレノン・レイシー。警察は自殺と断定したが、レノンを良く知る家族や友人たちは、リンチを受けた殺人だと信じている。その事件と、アメリカの歴史に影を落とす過去のリンチ事件である、1946年ジョージア州で起きたムーアのフォード橋リンチ事件、1939年フロリダで起きたクロード・ニール・リンチ事件を追っていく。

現在と過去のリンチ事件を扱っている。過去の事件はもう40年以上も前の出来事だけど、今も変わらないのが犯人は分かっているのに捕まらない。ノースカロライナで起きた現在の事件だって、このドキュメンタリーを観れば、誰が犯人かは一目瞭然だ。ドキュメンタリーの映像作家が真実に迫る事が出来るのに、なぜか警察はそれをやらない。過去と現在の両方を追ったからこそ分かる、現在にもそこにある恐怖。

そしてムーアのフォード橋リンチ事件は、地元の人たちが毎年その現場で再現しているのがビックリした。どんな悍ましい事件だったかを風化させない為に行っている。この事件では、2組の若いカップルと女性のお腹の中にいた赤ちゃんの5人が殺されている。加害者は、女性のお腹を割いて赤ちゃんを取り出して殺しているのだ。それをそのまま再現(演技)する。多くの観客が目をそむける。この再現も、最初は誰の支援も受け入れられなかった。再現する演者、特に白人の役者たちから嫌厭されてしまい、最初の時には仕方なく黒人がお面を被ってやっていた。今では、ちゃんと白人の役者が協力している。その中の1人は、親がクー・クラックス・クランのメンバーで、リンチも実際に観たことあるという人までいた。今はそういう事実があった事を伝えたいとして参加している。

時代が変わっても、変わらない悪いこともある。でも、時は確実に人々を変えていく。教育されて知ったり、世の中を見ることで日々、人は変わっていく。そうやって、いつかは「またか...」が無くなっていけばいい。でも、その前に知る事が肝心である。そういうドキュメンタリー映画だ。

(4.5点:1745本目)
www.blackmovie-jp.com

Killer Inside: The Mind of Aaron Hernandez / 内なる殺人者: アーロン・ヘルナンデスの素顔 (2020) おまけ

スポーツとは?言葉にならない気持ちを残す『内なる殺人者: アーロン・ヘルナンデスの素顔』

女性は付き合った男性に影響されるとよく言う。元々趣味がハッキリしている私にはそんな通説は通用しない!と言い切りたいところですが、残念ながらアメリカン・フットボールだけは夫の影響で好きになりました。でもバスケットボールは違います!バスケは夫と付き合うウンと前から。我が家の場合、NFLシーズンだけでなく、大学、高校、カナダリーグ、TV放映していたらヨーロッパリーグ、消滅したけどアリーナ・フットボール、そして今年再開したXFL... 全て観る夫なので、もう出口なし。全否定するよりも、ファンになって一緒に観た方が楽なのです。そんな訳で、NFLは未だ好きなチームはありませんが、NCAAでは断然アラバマ大のファン!Tuaがクォーターバッグを務めたここ2年位は違うけれど、アラバマ大本来のランプレーとガッチガチなディフェンスが大好き。という訳で、NFLのスター選手だったアーロン・ヘルナンデスドキュメンタリー映画を。ヘルナンデスは、アラバマ大とは全く関係ありません(笑)。

2013年7月。ボストン郊外で27歳のオーディン・ロイドが殺された。容疑者として浮かび上がったのが、なんとその街で活躍するNFLニューイングランド・ペイトリオッツのスター選手アーロン・ヘルナンデスがその一人だった。被害者の恋人の姉妹と交際していたのがヘルナンデスという繋がりがあった。ヘルナンデスは、高校時代からスター選手で、フロリダ大学時代にも全国制覇を成し遂げ、そしてNFLではペイトリオッツの一員としてスーパーボウルに出場し、しかもタッチダウンとなるパスを受け、勝利に貢献した選手の一人だった。そのアーロン・ヘルナンデスが殺人事件の容疑者となるまでの転落の人生を追う。

こういうドキュメンタリーの場合、作り手が「有罪」か「無罪」か、どちらを信じて作っている場合が多い。完全な有罪を信じて、被害者側に寄り添い事実に迫っていくパターン。そして、冤罪を信じて、事実を積み上げていくパターン。このドキュメンタリーは、どちらにも攻め込んでいくパターンだった。とにかく、事実をどんどんと提供していくパターン。そして、3面記事並みにショッキングな内容も投げつけてくる。正直、ヘルナンデスの性的嗜好は、この事件に関係ない気がしてならない。父やNFLという世界の中で性的嗜好が抑圧されていたのかもしれないけれど、それは事件とは関係ない。本人は、公表していない訳だし。その部分だけは、炎上狙った告白って感じがして嫌悪感を感じた。本人は、公表していない訳だし、それにもう本人は反論も出来ないので。でも、ウィル・スミス主演の『Concussion / コンカッション (2015)』でも描かれた、試合中の脳震盪で起こり得るCTE(慢性外傷性脳症)については、彼の性的嗜好以上に話題になって欲しいことだ。ヘルナンデスが起こした事件に直接関係あるかは分からない。でも、この問題はもっと大きく取り上げて知ってもらいたいことだ。

ヘルナンデスが選んだ最後の道... 私はあまりこの事件のことを追っていなかったので、追いかけ回されて辛かったんだろうなと本作を見る前には思っていたけれど、そういうことだったのか...

そしてこのドキュメンタリーを観て確信してしまったことは、NFLは...というか、確実にニューイングランド・ペイトリオッツは、ヘルナンデスの麻薬使用について知っていたということだ。いや、ペイトリオッツだけをやり玉にあげようとは思わない。最近のニュースから察するに、NFLだけでなくNBA、そして他のプロスポーツでもそうだと察するが、チームは恐らく選手の麻薬使用について知っている。でも、チームの利益のために恐らく隠ぺい(隠ぺいは言い過ぎかもだけど)、もしくは黙秘している。

だからこそ胸が痛くなる。被害者のことを思うと非常に辛い。そしてそんなスポーツを観て、熱くなる自分に自問自答してしまう。選手たちが一生懸命やっている姿を観るのは、とても熱くなる。でも、チームは勝利や利益のために、選手たちのその努力を搾取し、そして選手の内面を蝕んでいる。スポーツファンの端くれとして、何とも言えない複雑な気持ちを残すドキュメンタリーだ。

(4点:おまけ)
www.netflix.com

The Slender Thread / いのちの紐 (1965) 1743本目

上手過ぎで...『いのちの紐

随分前にターナー・クラシック・ムービー(TCM)チャンネルで、シドニー・ポワチエ特集をしていた時に放送した映画(だったと思う)。中々観ずにそのままにしてしまった。という訳で、シドニー・ポワチエ主演作品です。監督は本作が長編監督デビュー作となるシドニー・ポラック。一般には『トッツィー』とか『追憶』などが有名ですね。私は、オシー・デイヴィスが出演している珍しい西部劇『The Scalphunters / インディアン狩り (1968)』が好きです。そんな感じでポワチエとポラックというWシドニーで挑んだ実話の映画化です。

アラン(シドニー・ポワチエ)は大学に通いながら、コーバン医師(テリー・サバラス)の診療所に開設している自殺防止のための電話相談室の夜番を勉強も兼ねてボランティアをしていた。大抵は、酔っ払いからの電話だったが、その日受けた女性(アン・バンクロフト)からの電話は何かが違っていて、自殺の可能性があるとアランはすぐに気づいた。アランは事務所に一人で慣れないながらも、女性からの電話を繋ぎとめ、彼女の名前がインガであることを突き止めた。後は、インガがどこから電話を掛けているのか突き止めなくてはならない。コーバン医師が中々到着出来ないなか、警察(エドワード・アズナー)等が捜索に急ぐが...

って、滅茶苦茶いい感じでプロット書けたと思う(呆れる自画自賛)。正直に書きます。ちょーーーーーーイライラした!映画の出来とか演出がとか演技がとかじゃないです。このインガという女性に心底ムカつきました。理由知ると、「そりゃーーーーー、そーーーーでしょーーーーよーーーーーーーーーーーーーーー!!!」となります。インガの旦那様、哀れ。インガは、私が一番嫌いなタイプです。自分のせいなのに、一番面倒なドラマクイーンタイプの女性。しかも凄い悲劇のヒロインぽい声で自分に酔ってるいるし、全然肝心なことは言わないし、イライラが止まりませんでした。アン・バンクロフトのそういう演技が上手過ぎで、余計にムカつきが止まらなかった。一番可哀想なのがインガの夫と息子です!何か深い事情があるにしろ、12年間も黙っているのは酷すぎる。逆に12年間が罪を重くする。あと、海での鳥のシーンもイラっとした。彼女の自己中な性格が出ている。結局は悲劇のヒロインになりたい人なんだろうなーと。良い事をするという自己満足すら満たされず、暴力で破戒する人。いるよね。そういう人でも助けなくてはならない。だけど、インガの性格が悪すぎで、最後はどうなるの?(ハラハラドキドキ)とは、素直に思えなかった部分がある。

先に書いたように、映画としての出来は悪くない。今日の写真のように、バックに「アメリカでは2分毎に誰かが自殺しようとしている」などの大切なメッセージが見ており、啓蒙になっている。そして寧ろ、この題材をよくこれまでの映画にしたものだと感心する。しかも音楽担当がクインシー・ジョーンズ。悪い訳がない。ただ、インガという人がどうしても好きになれなかっただけだ。

(3.75点:1743本目)
www.blackmovie-jp.com

Quest / 日本未公開 (2017) 1742本目

淡々と1家族を見つめ、そして何かを伝える『Quest』

2017年のサンダンス映画祭にて公開されたインディペンデントのドキュメンタリー映画。この年のサンダンス映画祭のドキュメンタリー部門は激戦だった。兄を殺害されたヤンス・フォードがその真相に迫る『Strong Island / ストロング・アイランド (2017)』、後にミシェル・オバマが支援の声明を出したボルチモアのステップチームを追った『Step / 日本未公開 (2017)』、マイク・ブラウン殺人事件を発端にしたミズーリ州ファーガソンの抗議運動などを追った『Whose Streets? / 日本未公開 (2017)』、ロシアのドーピング疑惑を追う『イカロス』などが争った年。『ストロング・アイランド』と『イカロス』がアカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネート、その2本と『Step』がサンダンス映画祭で審査員賞の特別賞を受賞。そのような作品に混ざっていたのが、今回の『Quest』です。

ペンシルバニア州フィラデルフィア。そのフィラデルフィア出身のラッパー、ミーク・ミルが育ったところでも知られているノース・フィラデルフィアに住むのが、レイニー家。父のクリストファー・”クエスト”・レイニーは新聞配達をしながら、自宅の地下にスタジオを作って音楽プロデューサーとしても活動している。そんなクエストを支えるのが、再婚したクリスティーナ。2人は前の結婚で出来た既に自立している子供たちと、2人の子供である娘のP.J.が居る。オバマ大統領の再選を掛けた大統領選が行われている中、P.J.は流れ弾で片目を失明してしまう...

1家族をここまでよく追ったなという感じのドキュメンタリー映画。途中で、P.J.が失明してしまうけれど、それもドキュメンタリーなので当然ながら偶然のこと。逆にその偶然があるからこそ、ノース・フィラデルフィアという土地柄を知る。ミーク・ミルが語っている通り、確かに過酷な場所なのかもしれない。普通に生活している女の子が流れ弾に遭ってしまうくらいなのだから。そういう状況を、このドキュメンタリーのカメラは終始淡々と追っている。しかも、10年という結構長いスパンで追っている。その長さこそが割りと重要。カメラの前で、レイニー家の人々は割りと率直に話す。選挙の所とか、彼らがボソっと話すのは本心に近いと思う。多分最初は、クエストの音楽活動の方をメインに撮ろうと思っていたと感じた。地元を音楽で盛り上げようとしているクエストと、それを支える妻... 的な。そちらの方は割りと何も起きず... 途中からは、P.J.がメインになっている。そして、やっぱりミーク・ミルの地元での人気を感じずにはいられなかった。

2017年サンダンス映画祭のドキュメンタリー部門は確実に熱かった。他と比べると、確かに題材も地味だし、目玉はない。しかし、淡々としながらも、観客の心に入り込んで、何かを残していく、静かなる巨人タイプの作品。

(4.25点:1742本目)
www.blackmovie-jp.com

Miles Davis: Birth of the Cool / 日本未公開 (2019) 1744本目

史上最強のクールの誕生『Miles Davis : Birth of the Cool』

私は映画のことを書いていて行き詰った時、つい手に取ってしまうのが中山康樹氏の『マイルス・デイヴィス』という講談社新書だ。私のマイルス・デイヴィスの知識は殆どこの本から頂いた。そして、『ビッチェズ・ブリュー』評が大好きなのだ。とにかく熱い。熱狂と愛情しか感じないその評を読めば、確実に『ビッチェズ・ブリュー』を購入してしまうからだ。そして今回のこのドキュメンタリーを観た後、やっぱりこの本が読みたくなって、またチラチラと読んでいる。このドキュメンタリーは、この中山氏の『マイルス・デイヴィス』とほぼ同じだ。違うのは、本は中山氏の愛によって語られ、ドキュメンタリーはマイルスと出会い接した人々の愛によって語られている。

1926年、イリノイ州オルトンでマイルス・デイヴィスは産まれた。すぐにミズーリ州セントルイスに移住。父は歯医者で恵まれた環境で育ったが、両親は喧嘩が絶えなかった。マイルスの13歳の誕生日に、父がトランペットをプレゼントしたが、母はそれを嫌がった。そういう環境でトランペットに出会ったマイルスの人生を追っていく。監督は、『Freedom Riders / 日本未公開 (2010)』にてエミー賞を受賞しているドキュメンタリー映画の鬼才スタンリー・ネルソン。

中山氏の『マイルス・デイヴィス』の帯には「もっともコンパクトなマイルス入門!」と記してある。それをさらにコンパクトにしたドキュメンタリー映画。本と違うのは、実際にマイルスの曲が流れたり、映像が流れたりする点だろう。ドキュメンタリー映画界で一目置かれた存在のスタンリー・ネルソンは、マイルスの遺族からの信頼も厚く、全ての音楽や映像や写真を使うことを許された。なので、未公開映像や写真もたっぷりという贅沢な作品なのである。そしてインタビューを受けた人々も、バンドに居たハービー・ハンコックロン・カーターウェイン・ショーターなど多数。それだけでなく、恋人・妻だったフランス女優ジュリエット・グレコや、ダンサーのフランシス・テイラーなども語っている。そして、そのフランシス・テイラーと離婚の原因になったのが... クインシー・ジョーンズだったとは(浮気とか不倫って訳じゃないのです)!!ただ、一番辛い時に側にいた女優シシリー・タイソンが、あんまり語られていないのが残念。何なら結婚していたことも飛ばされている位。

このドキュメンタリーの副題は、マイルスのアルバムのタイトルでもある『クールの誕生』。「クール」は冷たいとか冷酷という意味だが、「カッコいい」という意味のスラングでもある。恐らく最も知られたスラングだ。このドキュメンタリーを観ていると、マイルスは非常に気難しく、そして親しくない人には非常に冷酷だ。そして、恋をすると割りとその人色に染まる。変化を恐れない。寧ろ変化を楽しんでいる。そうやって変化して、音楽の新しい時代を作っていった。人の生き様として、最もカッコいいと感じてしまった。「クールの誕生」とは、そういうことかもしれない。

(4.5点:1744本目)
www.blackmovie-jp.com

The Photograph / 日本未公開 (2020) 1741本目

心地いいラブストーリー『The Photograph』

私は最近、少女漫画に激ハマっている。いい歳して気持ち悪いと思うし、いきなりどうでも良い話きたねって感じではありますが、関係あるので我慢して読んでください。前々から書いているけれど、少女漫画的な設定で絶大な才能を発揮する監督たちがいる。それが、運命の人は隣の幼馴染『Love & Basketball / ワン・オン・ワン ファイナル・ゲーム (2000)』のジーナ・プリンス=バイスウッド、運命の人は身分差『Belle / ベル 〜ある伯爵令嬢の恋〜 (2014)』のアマ・アサンテ、そして今回の作品と運命の人は不治の病『Everything, Everything / エブリシング (2017)』のステラ・メギーだ。プリンス=バイスウッド監督はアメリカ出身、アサンテ監督はイギリス出身、メギー監督はカナダ出身。恋する気持ちは全世界共通だ!という訳で、『Get Out / ゲット・アウト (2017)』のラキース・スタンフィールド、TVシリーズInsecure / インセキュアー (2016-Present)』のイッサ・レイが主演のラブロマンス映画です。

ニューヨークで活躍中のジャーナリストであるマイケル(ラキース・スタンフィールド)は、ルイジアナ州にいた。近く開催されるクリスティーナ・イームス(シャンテ・アダムス)の展覧会に向けての取材だ。訪れた先には、アイザック(ロブ・モーガン)がいた。アイザックは、マイケルに80年代の思い出を話す。そして、メイ(イッサ・レイ)は、貸金庫から母が遺した写真と手紙を発見する。メイの母は、写真家クリスティーナ・イームスだったのだ。ニューヨークに戻ったマイケルは、娘メイからも話を聞こうと接触する。2人は、過去を共に振り返りながら、惹かれ合うのを感じていた...

そういう訳で、80年代のルイジアナと今のニューヨークを行ったりきたりするラブロマンスです。80年代のラブロマンスと今のラブロマンスが見れるという1度で2度美味しいタイプ。これが、またどちらも美味しいタイプ!80年代の方では、シャンテ・アダムスとイ’ラン・ノエルがこれまたピッタリな雰囲気で最高なのです。シャンテ・アダムスの表情が、昔の少女漫画のヒロイン的で、グッと抑えているんだけど芯の強そうな感じがたまらなく良かった。好きなタイプのヒロインです。そして現代パートのラキース・スタンフィールド。正直、私は少女漫画的なヒーローだと思ったことはなかった。『ショートターム』とか『Selma / グローリー/明日への行進 (2014)』みたいな母性本能を擽る役か、全く逆のTVシリーズAtlanta / アトランタ (2016-Present)』みたいな掴み所のない飄々とした役が得意だと思っていたので。ところが、優しくてしっかりしている、ちゃんと少女漫画の正統派ヒーローだった!そして現代パートは共演者も良い。『ゲット・アウト』でも親友思いで面白かったリル・レル・ハウリーが、今回はマイケルの兄弟で登場。今回も兄弟思いで面白い。彼が出てくる度面白いです。所謂「scene stealer」。こういう役が得意なんだと、今回改めて感じた。他にも、『Waves / ウェイブス (2019)』のケルヴィン・ハリソン・Jr.、『Just Mercy / 黒い司法 0%からの奇跡 (2019)』のロブ・モーガンなど、今の旬俳優が出演している。というか、ケルヴィン・ハリソン・Jr.とロブ・モーガンの共演回数エグイ。

そして音楽も最高に心地いい。全体的にはジャズが流れる。そして女性ボーカルの曲が多い。80年代部分は、パティ・ラベルチャカ・カーンホイットニー・ヒューストン。現代部分はソランジュやH.E.R.にジャミーラ・ウッズ。全体的に流れるジャズが非常に合っていて心地いい。そしてこの作品には合っている。

中盤の80年代のシーンで、アイザックがクリスティーナに「Why...」と言ったあと、思い直して「Why don't you come to dinner」と言い直す。そこで、観客はクリスティーナの友人になってしまった感じで「What!」と感情を露わにする。そんな感じで、この作品は見ているだけで、我々を80年代部分のクリスティーナの友人にさせてしまう。だからこそ、現代部分の最後は、クリスティーナの友人としてつい喜んで、微笑んでしまう。

(4.25点:1741本目)
www.blackmovie-jp.com