Judas and the Black Messiah / ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償 (2021) 1794本目
And you can murder a freedom fighter, but you can't murder freedom!
ブラックパンサー党シカゴ支部チェアマンであったフレッド・ハンプトン、そしてそのハンプトンを死に追いやったFBI。FBIのスパイとしてブラックパンサー党に近づいたウィリアム・オニールについての物語。製作者には、『Black Panther / ブラックパンサー (2018)』のライアン・クーグラーも参加。その年のアカデミー賞では多くの賞にノミネートされ、フレッド・ハンプトンを演じたダニエル・カルーヤが助演男優賞を受賞している。
前作が好評だった公民権運動についてのドキュメンタリー『Eyes on the Prize / 日本未放送 (1987-1990)』のインタビュー撮りが行われていた。カメラの前にいたのは、ブラックパンサー党に所属したスパイであるウィリアム・オニール(ラキース・スタンフィールド)だった。それから溯ること1968年のシカゴで連邦職員を装い車の盗難をしようとしていたが追いかけられて、オニールは捕まった。そこでの尋問で「キング牧師が殺されて怒ったか?」などと質問される。一方、ブラックパンサー党に所属するフレッド・ハンプトン(ダニエル・カルーヤ)は、大学などでスピーチをするなど、着々と勢力を伸ばし、人々から尊敬される存在となっていた。そんなハンプトンの勉強会に参加するオニールだったが...
分かりやすい原題。Judas(ジューダス)とMessiah(メシア)の説明は宗教が絡むのでそれぞれ色々な解釈があり中々難しいが、一般的にはジューダスは裏切り者で、メシアは救世主だと言われている。一般的に考えれば、だれがJudasで、だれがBlack Messiahか一目瞭然である。そして、Black Messiahであるフレッド・ハンプトンを演じたダニエル・カルーヤがオスカー受賞したが、ウィリアム・オニールを演じたラキース・スタンフィールドもノミネートされている。一点の曇りもない完璧な英雄フレッド・ハンプトンをキラキラと演じたダニエル・カルーヤも素晴らしいが、何と言っても印象的だったのが、誰もが演じたくないであろうJudasであるウィリアム・オニールを演じたラキース・スタンフィールド。影と迷いと自分自身の許せない人生、そんなものがキッチリと詰まっていた。だからと言って同情するような人間像は、そこにはない。完璧なJudasが、ラキース・スタンフィールドのオニールであった。FBIという当時は差別的な問題が蔓延っていた組織に搾取され続けたオニール。もしオニールがあの時に捕まらなかったら、他の人が搾取されていただろう。彼も使い捨ての駒に過ぎない。改心する瞬間もあったかもしれないが、いつも弱腰のオニールは結局搾取されるだけである。あのラストシーンの震えが、オニールの弱さの象徴を捉えており、とてもリアリティに満ち溢れ、こちらも緊張感で震えた。
そして全体的に古臭さや壊れそうな脆さを感じる映像に、70年代が生々しくよみがえっていた。フレッド・ハンプトンに関しては、当時作られた『The Murder of Fred Hampton / 日本未公開 (1971)』を観る機会があれば必ず観て欲しい。危険を顧みず製作されたガッツある作品である。本作にはそこまでの危険性はないが、同じようなガッツを感じることができた。何よりも本作の映像が、当時を感じさせることにも気づくことだろう。
本作の原題の元ネタであろう歌手ディアンジェロのアルバム「Black Messiah」に収録され、フレッド・ハンプトンのスピーチが使用されている「1000 Deaths」には、ずばり「弱虫は1000回死ぬが、兵士は1回だけ死ぬ」とある。ウィリアム・オニールは、何度も死んだことが本作でも痛い程に分かるのだ。
(5点満点:2/20/21:1794本目)
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