ロジャー・グーンヴァー・スミス、グーンヴァーの主張が強い。ロジャー・スミスだったらグーグル先生の検索では埋もれてしまうありきたりな名前だ。そんな主張の強い名前を持つロジャー・グーンヴァー・スミスは、スパイク・リー作品でおなじみの顔だ。『American Gangster / アメリカン・ギャングスター (2007)』で、戦地でヘロイン調達する悪い軍人役が私は好きです。そんなロジャー・グーンヴァー・スミスがロドニー・キングを演じた独り舞台『Rodney King / ロドニー・キング (2017)』を制作し、その前にそういえばヒューイ・P・ニュートンの方を書いていなかったじゃん!と、その前に観た。旧知のスパイク・リーが監督。スミスが1人で戯曲を書いている。
ヒューイ・P・ニュートンとは、ブラック・パンサー党(黒豹党)の設立者の1人。ヒューイという名前はアニメ『ブーンドックス』に受け継がれた。そして彼もミドルネームの頭文字「P」の主張が強い。実はこのミドルネームのせいで、幼い事はいじめられたらしいが、お母さんがPを取る事は許さなかったそうだ。話を戻すと、ブラック・パンサー党とは、マルコムX亡き後、自衛武装をし革命を起こそうとしていた。そのブラック・パンサー党の歴史はヒューイ・P・ニュートンの歴史でもある。いや、あの時代を駆け抜けた男たちの歴史であろう。とはいえ、皆さんご存知だと思うが、私は熱烈なるキング牧師のフォロワーであり非暴力こそ最善の策だと思っている人間だ。しかし、ヒューイ・P・ニュートン(とフレッド・ハンプトン、そしてマルコムXは言わずもがなの3人)だけはなぜか惹かれる部分がある。彼が書いた自伝「白いアメリカよ、聞け」にはとても感化された。なので『ムーンライト』でオスカーと黒人について書かせてもらった時に、その日本語タイトルをオマージュさせて頂いた程だ。ヒューイ・P・ニュートンの何が好きかというと、とても柔軟な所。マルコムXにBMFのジョージ・ジャクソンなどにとても影響を受けていながら、それでも自分というしっかりとした芯を彼らからは感じる。他にも色々な物・人から影響を受けているのが伺える。自伝でも触れているが、映画『Black Orpheus / 黒いオルフェ (1959)』を高校生の頃に観て、多大なる影響を受けている。彼は高校生にしてこの映画を観て、死というものを見つめ、そして悩み深く考えている。この舞台でも、『黒いオルフェ』と死について語っている。
と、先にヒューイ・P・ニュートンについて語ってしまったが、この舞台は小さく低いお立ち台に椅子とマイクとロジャー・グーンヴァー・スミスのみ。その周りを囲むように柵があり、その向こう側に観客がいる。柵越しにロジャー・グーンヴァー・スミス演じるヒューイ・P・ニュートンを観る事になる。この舞台は演じるというか、ヒューイ・P・ニュートンの魂が移り込んだロジャー・グーンヴァー・スミスが語るという方が正解かもしれない。ヒューイ・P・ニュートンが柵越しの観客に語り掛けていく舞台。そしてスパイク・リーの『The Original Kings of Comedy / キング・オブ・コメディ (2000)』や『Passing Strange / 日本未公開 (2009)』がそうだったように、スパイク・リーはそのままの舞台を映像化するのではなく、映像に細工してチョイ足しする。実は私はそれがちょっと嫌いだったんだけど、今回ばかりはそれがいい方向へ向かった。今回は演じているロジャー・グーンヴァー・スミスのバックに実際の映像や、『黒いオルフェ』の映像をはめ込んでいた。観客の創造を容易にしていた。
そしてこの舞台の凄い所は、観客を巻き込んだ所だろう。時には語り掛け、時には一緒に歌まで歌う。観客との一体感が素晴らしかった。ロジャー・グーンヴァー・スミス、名前だけじゃなく存在感の主張も強い!最高だ。
A Huey P. Newton Story / A Huey P. Newton Story (2001) (TV)(4.75点:1600本目)