Shaft / 黒いジャガー (1971) 1692本目
なぜジョン・シャフトは70年代に誕生し愛されたのか?『黒いジャガー』
6/14からアメリカでは劇場公開、日本では配信開始予定の『Shaft / 日本未公開 (2019)』を前に、今なぜまたシャフトなのか?じっくり考えたいと思った。『Moonlight / ムーンライト (2016)』のような繊細な作品がオスカーを獲得し、そして『Black Panther / ブラックパンサー (2018)』という待望されたヒーローが登場し興行的に成功したばかりなのに、なぜ今ブラックスプロイテーションをリブートするのだろう?と、制作決定ニュースを聞いて思った。ホームページでもシャフト関係全然アップしていないし、『Shaft / シャフト (2000)』のジョン・シングルトン監督が他界して非常に悲しいし、リブートはなぜ今なのか分からなかったけれど、でも旧作を見直すならば、今だと思った。1作目となる『Shaft / 黒いジャガー (1971)』は、ライフ誌の写真家と知られており、『The Learning Tree / 知恵の木 (1969)』の監督・脚本・制作を担当したゴードン・パークス監督作品。70年代流行したブラックスプロイテーションの先駆けとも言われている作品。アイザック・ヘイズが音楽を担当し、なんとアカデミー歌曲賞を受賞している。
42番街を歩くジョン・シャフト(リチャード・ラウンドトゥリー)。盗品の時計を売っている男やデモに出くわしながらも、情報をもらうために靴磨きに行った。シャフトは私立探偵だったのだ。そして事務所に戻ると、見知らぬ男たちに襲われ格闘の末に男を窓から投げ捨てた。どうやらハーレムを仕切る大物ギャングのバンピー(モーゼス・ガン)が送り込んだ男たちで、バンピーに呼ばれているらしい。刑事(チャールズ・シオフィ)にこっぴどく絞られ、6ヶ月間銃を使わせないようにすると言われるが、48時間の猶予をもらった。バンピーの所に向かうと、娘が誘拐されたので探して欲しいという依頼を受けたのだった。ギャング同士のいざこざに巻き込まれ、ニューヨークの街で死闘の救出が始まる...
今なぜまたシャフトなのか?を考える前に、なぜこのオリジナルが70年代に誕生したのか?を紐解く方が答えに近づく気がした。先に書いたように、この作品はブラックスプロイテーションの先駆けとなり、この映画を機に増えていく。監督こそ黒人のゴードン・パークスだが、脚本は白人のアーネスト・タイディマン。そのタイディマンの同名の小説が原作である。黒人の私立探偵が、黒人のギャングのボスから助けを求められる。警察には相談出来ないからだ。そしてシャフトも若い黒人活動家グループの助けを借りることになる。黒人脚本家が書いたような筋書である。1968年、キング牧師が暗殺され、西海岸ではブラックパンサー党がコインテルプロで苦しみ闘争が激化していた頃。善も悪も黒人同士が結束して巨大なシステムに立ち向かい女性を救い、悪を出し抜きシャフトが高らかに笑う。まるで古くから伝わる黒人民話のようである。でもセリフの節々やセックスアピールで、やはり行き過ぎた黒人像を感じてしまう。今と当時の意識や価値観の差もあるのだろう。当時は、セックスアピールもしない言葉もしっかりした真面目な男は、誰にでも従うショーケースの中の男と呼ばれ、アンクル・トム(主人に従順)とまで呼ばれる始末なのだから。非暴力を訴えたキング牧師の命を銃弾が奪った後、「ブラックパワー」という言葉が持て囃されたことでも分かるように、黒人が欲したのがパワーだった。アカデミー賞を取った「黒いジャガーのテーマ」の歌詞に「シャフトは複雑な男で誰も理解しないけれど、奴の女だけは理解してくれている」にもあるように、人種関係なくモテモテで遊んでいるbad mother...なセックスシンボルという価値観だったのは仕方ないことかもしれない。そしてそれが当時の黒人男性にとっての自由でありパワーの象徴だったのかもしれない。そして、そんな男性像をたった29歳の新人俳優リチャード・ラウンドトゥリーが演じている。20代とは思えないほどの貫禄と余裕は強さを感じ、シャフトをよりセックスシンボルへとしている。そしてそのセックスアピールで感じるパワーこそ、若者たちを惹きつけた。だから劇中でも若者たちがシャフトの味方になり助ける。
危険を顧みず同胞の為に戦う男って誰だっけ?(シャフト!)だろ?
(5点満点:1692本目)
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