A Season in France / 日本未公開 (2017) 1683本目
押せば生命の泉湧くマハマト=サレー・ハルーンという映画監督『A Season in France』
絶対に私のツボを外さない映画監督の一人、マハマト=サレー・ハルーン監督の最新作。2文目にいきなり結論を書いちゃうけど、今回の最新作も文句なしの5点満点!過去の『Abouna / 僕らの父さん (2002)』とか『Daratt / 日本未公開 (2006)』とか本当に最高なので観て欲しい。ベルリン映画祭とかカンヌ映画祭とか大きな映画祭で競う監督の一人でもあるのだけど、今回だけはなぜか招待されていない。なんでだろう?コンペ外で、『君の名前で僕を呼んで』や『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』などと共にトロント映画祭にて特別上映はされている。今回の舞台はフランスのパリ。アフリカからの移民のお話しです。ちなみにマハマト=サレー・ハルーン監督はチャド出身で、フランスで映画とジャーナリズムを学んで、2012年にはチャドの文化大臣となりチャドで映画学校設立にも従事した。今は、個人的な理由で大臣を辞職している。
アッバス(エリック・エブアニー)の故郷は中央アフリカ共和国。教師として生活していたが、内戦が勃発し、家族とともにフランスへ逃げてきた。しかしその途中で妻は亡くなり、一人で息子ヤシン(Ibrahim Burama Darboe)と娘アスマ(Aalayna Lys)を市場で力仕事をしながら育てている。その市場で一緒で恋仲のキャロル(サンドリーヌ・ボネール)も移民。フランス政府に亡命が認められるように申請を出しているが、アッバスたちは却下され、30日以内の国内退去を命じられてしまう。アッバスの兄弟で一緒にフランスに渡ってきたエチエンヌ(Bibi Tanga)も却下され、自暴自棄になり...
もうね、これでもかって位辛いことが続くんだけど、その中にふとした人の優しさが見えたりして、もうそれがたまらないんですよね。そしてアッバスもキャロルもみんないい人。お兄ちゃんもしっかりした良い子で、妹はとにかく可愛い。アッバスパパもメロメロ。エチエンヌは普段は冷静で本が好きなキャラ。でも内戦とかフランスでの待遇を経て、インポテンツになってしまう。そりゃそうだよなーと思う。メンタルも体もズタズタにされてしまう。そのエチエンヌが衝撃的だった。という感じで描き方が上手い。どうしたってアッバスやエチエンヌに自然に肩入れしてしまうのです。こういう時、国に帰れ!と言う冷たい人もいる。ごく一部のテロリストとかのせいで、関係ない被害者まで一緒くたにされてしまう。でも帰れないよ。国に帰っても家族はもう居ないし、内戦に巻き込まれて死んでしまう可能性の方が大。他の国で第2の人生考える方が普通の感覚。アッバスは妻を亡くしており、悪夢にうなされることも多い。起きていても悪夢、寝ても悪夢。もう辛い。そして、アッバスの息子のお兄ちゃんがこの映画のナレーション。それが非常に上手いと思った。そんなしっかりした口調じゃない少年が語るからこそ脆さが出て余計に辛く感じる。
と辛い現実を叩きつけられる訳ですが、マハマト=サレー・ハルーン監督はそこだけに留まらない。国を喪い希望を失った人々がどうなるのか?愛国心とは?国がすべきこととは?国って何さ!という、メッセージを訴えかける。そしてそれでも失われない人間の美しさと強さ、そして希望を「美しく」見せてくれている。だから絶対に私のツボを外さない映画監督なのです、マハマト=サレー・ハルーンという映画監督は。
(5点満点:1683本目)