NFLを知らない人こそ見て欲しい黒人QBの歴史『Third and a Mile』
フットボールシーズン真っ盛り!とはいえ、私はNFLよりも大学派でして、アラバマ大学の大ファン。家族にはなんで縁も所縁もないアラバマ??と言われるけれど、超絶に強いアラバマのコツコツ1stダウンを取って積み重ねていく実に地味なランプレーが好きなんです。無類のランニングバック好きにはたまらないチームなのです。とはいえ、たまにルイヴィル大のラマー・ジャクソンとかの派手なプレーを見てもウキウキする。去年のハイズマン賞受賞者。この人、本当に素晴らしい!投げても良いクォーターバックなのに、時にランニングバック以上に素晴らしい走りも見せる選手。観ているのが本当に楽しい選手。ルイヴィル大にはサミュエルという選手もいて、ラマー・ジャクソンの背中にはL・ジャクソンと入っているので2人が並ぶとサミュエル・L・ジャクソンになるっていうのを、サミュエル・L・ジャクソンの叔父貴本人が嬉しそうにツイートしていたんですよ。
とはいえ、アメリカンフットボールって日本人には馴染みがなく分かりにくいスポーツらしい。簡単に書くと陣取りゲーム。4回のチャンスで10ヤード以上ボールを進めないといけない。ボールの進行が10ヤード以下だと相手チームに攻撃が移るので、最後の4回目(4thダウン)はチャンスが無さそうならば、遠くに蹴れる人が出てきて相手の攻撃を難しくさせる訳です。4thダウンがヘッドコーチとディフェンスの見せどころだったりもします。ポジションも色々あるけれど、クォーターバック(以下QB)はチームメイトにボールを投げたり渡したりとどのように攻撃するのかを決める司令塔。ランニングバック(以下RB)は、そのまま走って(QBが投げたボールを受ける事もあるが)ボールを進める人。ワイドレシーバー(以下WR)は、ボールを受ける人。ま、30秒で超ーーーーーーー簡単に説明するとこんな感じ。もちろん細かい事は多々ありますが、それだけ覚えるだけでも、フットボールが面白く見れる筈。
だからQBは、フットボールの中でも花形だった。ボールを的確にそして瞬時に状況を判断して投げるか渡すか決めるポジションなので、スポーツ能力だけでなく頭脳も必要だと言われているポジションである。それゆえ、アメリカではありがちな「黒人は頭脳で劣っているので、QBはあり得ない。無理」という通説があった。通説というか、そういう「建前」という方が正しいだろう。フットボールだけでなく、奴隷時代から「黒人には知性が足りないから無理」という事で、彼らの知性を否定し続けて、仕舞いにはそういう通説を作り上げてしまったのだ。しかし、現在はモバイルクォーターバックの時代と言われていて、つまり投げても良し・走っても良しの上で名前を挙げたラマー・ジャクソンのようなQBの時代なのだ(もうそれすら旬を過ぎたと言われているが)。そんなモバイルQBの象徴がマイケル・ヴィックやドノヴァン・マクナブという黒人QB。この作品はそんな黒人QBの歴史と活躍を追うドキュメンタリー。ESPNが出版した同タイトルの本の著者でスポーツジャーナリストのウィリアム・C・ローデンと共に追っていく。と、前置きが長くてごめんなさい。
これを観て真っ先に思ったのは、黒人初のQBであるフリッツ・ポラードととても素敵なウォーレン・ムーンと黒人初のスーパーボウル覇者でMVPのダグ・ウィリアムスについてそれぞれの伝記映画を作るべし!フリッツ・ポラードはとても面白い経歴の持ち主で、あの俳優・歌手・アスリートのポール・ロブソンとも色々あったらしい。しかも息子はあの有名なベルリン・オリンピックでメダルを獲得したりと、映画にするのに十分すぎる位のエピソードがある。ウォーレン・ムーンは黒人だからというだけでNFLにドラフトされずに、カナダまで渡って、実力でNFLにまで入ってきた人物。ド根性型感動系伝記映画にぴったりである。しかも男前で見栄えもいい。ダグ・ウィリアムスはNFLコーチとの関係が素晴らしく、黒人と白人でも素晴らしい関係が築けるというヒューマン&道徳系にぴったり。この3人は絶対に映画化すべきだ!
この作品自体が10年前の作品なので、ラッセル・ウィルソンとかコリン・キャパニックとかが取り上げられていないのが残念。そして60分にも満たないので、とても駆け足なのが残念だ。もうちょっと深く取り上げて欲しい部分が多かった。なので、是非今年・来年あたりでアップデートバージョンで同じ黒人QBのドキュメンタリーが見たい!そして、DVDではボーナス映像としてドノバン・マクナブが大学時代に見せたスーパープレーが見れる対バージニア工科大との試合が全部じゃないけれど30分弱にまとめてある。あと、同じようにマイケル・ヴィックとかヴィンス・ヤング(vsUSCのあの試合!)他4-5名の同じような映像がボーナスなのはお得感ある。ドノバン・マクナブ、凄いわー。ヴィンス・ヤングのはリアルタイムで見ていた!懐かしい!!
この映画でウォーレン・ムーンが語っていた「早く走っちゃうと他のポジションに変えられちゃうので、本気で走らないように気を付けた」というのがね、当時の大変さを語っていて泣けてきた。もし彼が本気で走る事が出来たならば、彼はモバイルQBの先駆者として、色々な賞も獲得していただろうし、スーパーボウルも制覇出来たかもしれない。でもウォーレン・ムーンはその事を恨み節で語らず、とても落ち着いた感じで淡々と話す。とにかくダンディで知的なイメージ。すっかりファンになってしまった程。逆にダグ・ウィリアムスは感情的というかありのままというか、話を聞くのが面白いタイプ。そんな彼がコーチついて語ると言葉詰まるのが良かった。
今年は、メンフィス大のWRアンソニー・ミラー推しです。競技違いではありますが、元々ペニー・ハーダウェイが好きなのでメンフィス大を応援していましたが、このアンソニー・ミラーの今年のプレーは楽しい!凄いスーパープレーを連発しているけれど、そんな彼も初めはウォークオン(つまり奨学金なしで自力チームに参加する選手)!メンフィス大がランク入りしているのが泣ける!でもQB違うじゃん!...っていう。あ、でもメンフィス大のQBも中々素晴らしいですよ!黒人じゃないですけど...
と長くなってしまいましたが、こういったパイオニアたちの活躍があっての今なんですよね。でも成功した人ばかりでもなく、それもちゃんと語られておりました。切なくなりました。去年からやっていた事だけど、今年に入ってからのコリン・キャパニックの抗議運動へのトランプからの的外れな攻撃、そしてNFLオーナーの「受刑者が刑務所を運営しているのではない」発言など、色々とあるNFLですが、選手の並みならぬ練習の汗によって生まれるスーパープレーなしにはNFLの成功は絶対に無かった!選手あってのNFL。これをどうか考えて欲しい!!!#ImWithKap
Third and a Mile: The Emergence of the Black Quarterback / 日本未公開 (2007)(3.5点/1597本目)