ハードボイルドなブラックスプロイテーション佳作『Jive Turkey』
自分ルールでブラックスプロイテーションを観る時は週末の夜深い時間と決めている。しかもほろ酔い気分で見ると余計に最高だ。自分をさんざん盛り上げてからブラックスプロイテーションを観る。今回は『Baby Needs a New Pair of Shoes』を観た。別名『Jive Turkey』。何なんだ!この原題と別名の趣の差は!!原題の「ベイビーは新しい靴が必要」も意味不明だ(劇中の小さな役のオジサンの台詞から)。それ故に如何にもブラックスプロイテーションぽい当時のスラング「ジャイヴ・ターキー」をあてがわれた感はある。ま、ブラックスプロイテーションにはありがちな事だ。
「これは実話」との事。「けれど無実を守るために名前や場所や起こった事は変えてある」という注意書き。1956年のハーレム、その街を牛耳っているのが、パーシャ(ポール・ハリス)。ナンバー賭博で黒人相手に儲けてはいるが、黒人に被害を及ぼさないので信頼は厚い親分タイプ。ナンバー賭博などでハーレムに進出しようとしていたイタリアン・マフィアのボスがビック・トニー(フランク・デ・コヴァ)だった。両者はハーレムの縄張り争いで、一般住民を巻き込む大抗争を繰り広げていくが...
監督は多分白人なのですが、原案は恐らく黒人夫婦。この作品だけ手掛けている。恐らくというのは、この2人の原案と同じ姓名ランソムさんが、この映画では沢山エキストラ出演しているからだ。ランソム家で一番大きな役をあてがわれたのが、リトル・ビリー役のテリー・ランソム君。原案のハワード・ランソムは制作にも携わっている。となると、冒頭の「これは実話」っていうのが気になる。ハーレムで50年代にナンバー賭博で政治的にも牛耳っていた男となると、浮かぶのはただ1人...バンピー・ジョンソンだ。ただ1956年にはバンピーは刑務所に居る。恐らく時間も変えている気がする。まあ何より映画にしたくなる男といえば、バンピー・ジョンソンしか思い浮かばない。
これは佳作だ。けれど、ブラックプロイテーション的な佳作であって、佳作映画という事ではない。フィルムの保存状態が悪かったようで、音声も悪いし、途中ダメになった部分もあるのか突然緑色の画面になる時すらある。しかし、ブラックスプロイテーションに我々が求めるものが全てある=ブラックスプロイテーション的佳作である。アクション&カーアクション&ガンアクション&お色気たっぷり&真似したくなるスラングと台詞&突然の黒人の哀愁&アンダーグランドな世界&サブカル&悪い婆ちゃん...などなど、たまらないのだ。ナイトクラブ経営のお婆ちゃんが「あんたアヘンやりなよ。頭スッキリするよ!」とか言ってくる世界。このお婆ちゃん、とにかく主人公に悪い麻薬を勧めるw。でもね、このお婆ちゃんを演じた女優さんたら、あのブラックムービーのパイオニアであるオスカー・ミショーの映画『Lying Lips / 日本未公開 (1939)』にも出ている由緒正しい女優さんなのですよ!そしてバンピーがこの映画のモデル説という私の仮説を後押しするのが、このお婆ちゃんのモデルは恐らくステファニー・セントクレア。バンピーにナンバー賭博を教えた女ボス。あと私が死ぬほど好きな『Killer of Sheep / 日本未公開 (1977)』の主役や最近では『Selma / グローリー/明日への行進 (2014)』の名演技で泣かせてくれたヘンリー・G・サンダースがカッコイイ弁護士役で出ていたー。男前で惚れる。っていうのも含めて、この映画は楽しい。でも一番の見どころはやはりパーシャとビック・トニーの終盤のクライマックスでしょう!あの2人のやりとりはハードボイルドで死ぬほどカッコイイ!そしてラストのセレーナ役のしてやったり感ある爽快さ!これですよ、これ。ブラックスプロイテーションはこうあって欲しい!
Baby Needs a New Pair of Shoes / 日本未公開 (1974)(4.25点:1556本目)