この映画の感想を書くことは誰でも出来るよね。でも日本で同じソロモン・ノーサップの物語「Solomon Northup's Odyssey / 日本未公開 (1984) (TV)」を観た人はそうそう居ないよね?って事で、そっち方面で書いてみようと思う。
ってその前に!この映画はもう言うまでもなく、オスカーの作品賞を受賞した。その時にフェイスブックにて「日本一喜んでるのはレラトさんで間違いないと思います」と仰ってくれた方が居るので、たぶんそうなのかもしれない。もちろんこの映画は見たくて見たくて仕方なかった。1日も早く見たかった。しかし、なぜここまで見れなかったかと言うと、私が住んでいる地域にある。この映画は全国上映ではなく、所謂限定公開。徐々に上映館を増やしてはいったけど、私が住んでいる地域までは来なかった。私が住んでいる地域は高級住宅街でも何でもないが比較的に白人の人々が多く住んでいる町。ここでも書いた通りで、そうなるとやっぱり白人の価値観が勝っている訳でして...この映画とイドリス・エルバのネルソン・マンデラの映画「Mandela: Long Walk to Freedom / マンデラ 自由への長い道 (2013)」はこの地域の映画館にはやってこなかった。同じく限定公開のメリル・ストリープとジュリア・ロバーツの映画はやってきたのに。と、郊外に越すというのは、そういう事になる。スタンダードは白人寄り。都会なら狭い範囲で白人地域も黒人地域も隣り合わせだったりするが、地方だとそうなってしまう。それを問題とは思っていなけれど、そういう現実。メリルとジュリアのがやってこなければ、ここまでやさぐれなかったけど!
という事で映画に話を戻しますか。
先に書いたようにソロモン・ノーサップの物語2作目。先の「Solomon Northup's Odyssey」はテレビ映画である。しかし、あの「Shaft / 黒いジャガー (1971)」のゴードン・パークスが監督だ!!主演のソロモンには「スター・トレック」等で知られるエイブリー・ブルックス。舞台ではポール・ロブソンを演じたりしている名優。TV映画なので、今回のこの映画のような派手なセットなども無い。そしてゴードン・パークスは元々写真家として有名だし、スティーブ・マックイーンもビジュアルアーティストとして出発しているので、2人共に映像作家という言葉がぴったりだ。そんな2人の描いた南部の情景は美しい。そんな2人がこの映画で象徴的に使用したのが、ワシントンDCのキャピタルだ。原作でもこの場面は非常に重要だったらしく、このお陰でワシントンDCの新たな歴史が明らかになったほど。ゴードン・パークスはその奴隷房の格子越しのキャピタルのショット(DVDではちょっと分かり難いが)。そしてマックイーンはソロモンの「助けてー!」という叫びと共に映るキャピタルのショット。そんな2人の違いが面白い。違うという点では、パークス版では他の黒人奴隷たちとソロモンの関係性も大事に描いている。パッツィ(パークス版ではジェニーと名前が変えられている)とソロモンの仲、そしてソロモンに色々と奴隷の事を教え込んでいく老人奴隷ノア(クロスロードでもラルフ・マッチオに教えていたジョー・セネカ!)との関係。マックイーンはひたすらソロモンの過酷な境遇な面が描かれている。パッツィとの仲も不透明。なのでマックイーン版のあの美しいイカダのシーンも、ソロモンが一人だ。パークス版では他の奴隷たちも参加していて、より「奴隷が勝ったぞ!」というドラマチックな演出がされている。そしてパークス版では、オープニングがソロモンがバイオンを弾いている映像である。それは後々も良く出てくるが、オープニングでも後の映像でも、ソロモンは白人の為にバイオリンを弾いている。でも冒頭では、物凄く嬉しそうに楽しそうに弾いているのだ!それはソロモンが自由であり、この仕事を選んだというのが分かる、後から利いてくるオープニングシーンだ!
そして先に書いたように、パークス版は他の奴隷との交流も大事に描いているので、なぜその後にソロモンが「Twelve Years a Slave」を書くことになったのかが、鮮明になってドラマチックになっている。この物語を後世に伝え続ける意義がハッキリとしてきて、原作に新たな命を与えるのだ!そして、このマックイーン版を見たアメリカの黒人が書いたとある書き込みを見かけた。「いいんだけど、やっぱり最後はブラピに助けられるのではなく、ソロモンが逃げ出して逃げ切ってくれた方が良かった」と。原作では、もちろんブラピが演じたバスがアシストするが、実際にはソロモンのお父さんの奴隷主だったヘンリーが助けているのだが、そこもちゃんとパークス版では描かれている。パークス版でも、原作とは違う点はあるけれど、観客が分かりやすいように、よりドラマチックになっている。パークス版では「ソロモンが逃げてくれれば良かった」という印象を持たずに済む。なぜならパークス版は映画として完璧なラストだからだ。ちなみにパークス版の脚本家はルー・ポッターとサム=アート・ウィリアムス!両者共に黒人脚本家。サム=アート・ウィリアムスはこちらの作品も担当している。他の奴隷とも交流しているので、最後は涙無しにはいられません!しかもジョー・セネカとアート・エバンスとレッタ・グリーンがいい仕事している!アート・エバンスは切ない演技やらせると最高なんだよね。ちなみに最後のパッツィ(ジェニー)とソロモンの描写もパークス版とマックイーンでは、結果は同じなんだけど、だいぶ違う印象。パークス版ではジェニーとソロモンの関係を丁寧に描いているので、ジェニーがソロモンにしてもらう前の台詞がたまらない。
という事で、ここまで書いて長くなったので、初の2回連続で書いてみますか。今回はほぼ「Solomon Northup's Odyssey」になってしまったので、2回目はこちらの「それでも夜は明ける」を中心に。そしてオスカー効果で「ソロモン・ノーサップのその後」が気になっている方が多いみたいでうちのサイトにもそれを探りに入って来る人が多いので、その辺も次回に。楽しみはいつだって後回し。
まあ今回の1回目で何が言いたいかと言うと、このソロモン・ノーサップの物語が、新旧映像作家によって語られたというのが面白いんですよ。ストーリーテラーな監督とはちょっと一味違う映像作家の2人。そんな映像を大事にする監督が撮っても面白いのがソロモン・ノーサップの物語。そして両者共に黒人の脚本家が書いている点も面白い。つーか、ゴードン・パークス版もアカデミー賞に値するって事です。テレビ映画だから、エミー賞位は...
「それでも夜は明ける」の感想やあらすじはこちら。
「Solomon Northup's Odyssey / 日本未公開 (1984) (TV)」についてはこちら。
(4.75点/5点満点中:3/4/14:DVDにて鑑賞)