Django Unchained / ジャンゴ 繋がれざる者 (2012) 1069本目
いよいよ来たかー。というか、今年のお正月は奴隷解放宣言が出されてからちょうど150年だったのですよ!
まあ結論から言ってしまえば、上映時間は2時間40分と長いけど、面白かったー。クェンティン・タランティーノの脚本が評価されていますが、それが良く理解出来るような上手い作り。まあ厳密に言えば、年代にミスはあるんだけど、黒人の歴史を知っていると、最初の10秒位で泣けます。舞台は南北戦争が始まる前の1858年アメリカ南部(映画では奴隷解放まであと2年になっているけど、実際は2年後じゃない)。あのジェイミー・フォックスが演じた主役のジャンゴの背中が映し出された瞬間にね、察するんですよ。黒人奴隷で背中が傷だらけという事は、その男は逃亡や反逆を繰り返してきたという証。ジャンゴはそういう男。しかもそのジャンゴの背中を見たクリフトフ・ヴァルツ演じるシュルツの表情。この男を引き受けた上で待ち受けている事を察するんですね。っていうのが、もう始まって5分で起きちゃうんですよ。たまらないでしょ。
テキサスからテネシーにミシシッピーというのが舞台。南部ですね。で、テネシーではクー・クラックス・クランを思わせる軍団が登場。これは正解なんだよね。KKKの発祥はテネシー州。でもKKKの発足は奴隷解放宣言が出た後なので、この映画で舞台になっている1858年にはまだ居ないけどね。でもタランティーノは、超面白おかしくKKKのルーツをバカにしている!!「The Birth of a Nation / 國民の創生 (1915)」を見た時に、「バッカじゃないの!」と私が激怒した部分を、タランティーノは見事にバカにしてくれた。私が見た時の劇場は白人の人が多かったけど、みんな笑ってた。おいおい、君ら!ってね。私が見たのは南部でKKKが多い所だからね、余計に。マンディンゴ・ビジネスとかね、もう笑っちゃうんですよ。サミュエル・L・ジャクソンが演じたスティーヴンは、完全にハウス・ニグロと呼ばれるアンクル・トム。「シャペル・ショー」で、デイブ・シャペルがやっていたクレイトン・ビグビー(Clayton Bigsby)まんま!黒人の盲目で黒人嫌いでKKKに入っている男。このSKJのスティーヴンは目も見えているのに、自分が白人だと思い込んでいるんだよね。でも、さすがに黒人なのは分かっている。だからこそ、ジャンゴへの情を見せたけれど、やっぱり…な結末が待っている。さすがにサミュエル・L・ジャクソンに対してもこの役を引き受けたことでバッシングされているけど、さすがだよね。ヘコタレテない!逆に白人のレポーターに「Nワード言ってみろ!」と挑発するSLJ、最高です!。だからタランティーノはオファーしたんだろうね。タランティーノもヴァルツとSLJについては、べた褒めしてた。
公開されてからすぐにスパイク・リーが「黒人の祖先を馬鹿にしているこんな映画、見るもんか!」と激怒しておりました。まあ、元々昔からスパイクとタランティーノは衝突しているよね。「Nワード」の使用を巡って。今回もその「Nワード」の使用で、色々と各方面から言われている。
タランティーノ側は、この時代に「Nワード」を使わなかったら、リアリティに欠けると反論している。「トレーニング・デイ」のアントワン・ファクア監督もタランティーノを擁護。
私が気に入った点は、ジェイミー・フォックスがわざと南部訛りとか黒人訛りを使わなかった点、そして主役のジャンゴが今まで描かれた西部劇等での黒人像とは全く違うという点。ジャンゴは、スティーブンみたいなハウス・ニグロではないし、マジカル・ニグロでもない。かと言って、セックスシンボル的なマッチョな黒人でもないし、もちろん白人を助けて死んでしまうようなアンクル・トムでもない。ヒーローでもなければ、アンチヒーローでもない。ジャンゴという一人の男が、愛する妻とまた一緒になる為だけに、銃を取り、そして知恵を使った。今まで、そういう西部劇って「Sergeant Rutledge / バファロー大隊 (1960)」などがあったが、残念ながらウッディ・ストロードは主役ではなかったし、また「Posse / 黒豹のバラード (1993)」もあり、それなりに当時は黒人の西部劇という事で話題になったが、今回みたいな大作ではなかった。こういう大作でやる意味は十分にあった。
NBA選手のユドニス・ハスレムが真剣に「これから俺の事をジャンゴと呼んでくれ」と言っているらしい。その気持ちが良く分かる。「ジャンゴ、Dはサイレントで」って言いたい。本当にカッコ良かったもの。私も映画の券を買う時に、劇団ひとり方式でちょっと低めの声で「ジャンゴ、ジャンゴ・アンチェインド」って言ってみた。本当は「Dはサイレントで」も付け加えたかったけど、それはさすがに小心なので出来なかった。でもやりたかったー!あのシーンも、オリジナルを尊重するタランティーノらしいシーン。好き。そのタランティーノのシーンも最高だったね!
5点満点つけましたが、奴隷時代を描いた映画の中で最高!とは思ってませんよ。やっぱりあの時代を描いた中では「Roots / ルーツ (1977) (TV)」に敵う作品はない。だからスパイクの言い分も良く理解出来る。この映画では史実としては間違っている部分も多い。奴隷について学ぶなら、本を手に取るのが一番。この黒人にとっては思い出すのも憎たらしい歴史をロマンチックに描かれるのも辛いという意見も分かる。確かにあのKKKのシーンで笑っていた人達が、そういうのを理解しているとは到底思えない。その証拠に賞でも評価されているのが、クリフトフ・ヴァルツとレオナルド・ディカプリオだけ。ヴァルツは分かる。途中までは彼が主役じゃないの?と思った位。この映画で本当に凄いのは、やっぱり主役のジェイミー・フォックスと、その間逆を演じたサミュエル・L・ジャクソンだ!スティーブンなんて、他にあんな風に演じられる人居る?あの役を演じる辛さとか分かってる人居る??
「Red Tails / 日本未公開 (2012)」の時にもあのジョージ・ルーカスが、「黒人が主役の戦争映画を作る事が、資金面でこんなに大変だとは思わなかった」と思わず漏らした。ルーカスは黒人が主役だとスタジオ側がお金を出さないので、私産を使って制作。タランティーノはそれを知っていたし、黒人の映画監督でもあり今回この映画の制作者となったレジー・ハドリンはそれを痛烈に感じていた。それが理由でタランティーノは今回監督もした。自分が監督ならお金が集められる事を知っているからだ。だからタランティーノはハドリンにこう語ったという。「この映画がヒットしてくれると嬉しい。そしたら他の映画監督が容易に黒人が主役の西部劇とか作れるようになるからね」と。この映画の存在価値というのは、そういう事なのだ。
まあ長くなった。本当はこの倍ほど書きたい。ネタも沢山ある。ケリー・ワシントンについても触れてないし!
(5点満点:12/30/12:劇場にて鑑賞)