Blood In, Blood Out / ブラッド・イン ブラッド・アウト (1993) 1014本目
黒人が主役でもないし、黒人の監督でもないけれど、ここで描かれた黒人の姿もまた面白いかなと思い、紹介します。主役はLAの東側イーストLAに住むラティーノ系の若者3人。古くはワッツ、今ならコンプトンやイングルウッド、逆に黒人のビバリーヒルズといわれているボールドウィンと言えば、日本人でも知っている黒人コミュニティ。イーストLAと言えば、ラティーノの有名なコミュニティ。今では住民の人口の99%がラティーノ系だというから、その密度は凄まじいものがある。
そこで育った3人の若者。パコはリーダー的存在。地元のギャングヴァトスでもリーダー。その腹違いの兄弟がクルス。絵の才能があり、奨学金も貰った。そこに帰ってきたのが、従兄弟のミロ。彼の母親がラティーノで、父親が白人。見た目はブルーアイの全くの白人。しかし、父が暴力的な虐待者だったので、白人としてのアイデンティティよりも、ラティーノのアイデンティティを大切にしている。ミロはもうすぐ18歳になろうとしていたが、犯罪を犯して保護観察でイーストLAに戻ってきた。ミロは自分のラティーノとしてのアイデンティティにより、パコのヴァトスに入りたくて仕方がなかった。そのヴァトスは同じ地元のプントスと対立中。クルスがプントスに襲われた事で、益々悪化。何よりも兄弟のクルスがやられた事で、パコは激怒。ミロはヴァトスに入る為に、自分の存在を証明しようとする。この闘争で3人の人生が全く変わってしまう。ミロは前科もあったので、悪名高いサン・クェンティン刑務所行き。パコは父親の言うとおり、海兵隊入り。クルスは大怪我を負うが、絵は続ける。しかし怪我のせいで薬に頼るようになっていく。
ミロはサン・クェンティンでも自分のラティーノのアイデンティティを証明しようとやっきになる。アメリカはどこだって人種で固まる。学校でも職場でも、もちろん刑務所でも。白人のアーリアン系、黒人のブラック・ファミリー系、そしてラティーノ系のラ・オランダ。ラ・オランダに入るには、血をもって証明しないといけない。それがタイトルの「Blood in, Blood Out」だった。
このミロというキャラクターを混血にした事で、このドラマに広がりを見せていると思った。元々何も証明する必要もないミロは、最初は父親から言われたからという事もあるが、ミロよりもよっぽど宿命なども感じずに、自分の人生をコントロールしている。しかしミロは宿命とか運命とかに縛られ続けた。ミロの人生はいつも何かを証明し続けていた。ラティーノのアイデンティティ、そして元犯罪者として… その間に居たのがクルス。絵の才能があったにも関わらず、間違いが彼を苦しめ続ける。その絵の才能が彼の運命を決めてしまっていた。でもそのクルスが家族をまとめようとしていたのが面白い。
で、黒人の姿ですね。黒人にとってもだけど、やっぱりラティーノにとっても「対白人」がメイン。だからこそミロというキャラクターには白人の血が流れていた。刑務所の中で黒人・白人・ラティーノという3つのパワーが存在する。しかし刑務所でも、一番のパワーを持っていたのが白人だった。年に一度の豚肉の日には、白人の料理人(囚人)が、白人には豚肉、黒人には脂身のみ、ラティーノには何も無し。そこで黒人とラティーノが組めば、白人に匹敵する力になると考えていたのが、ラ・オランダのリーダーのモンタナ。彼はハッキリと白人がシステムだと言う。実際にモンタナは黒人のリーダーと話し、組もうとする。しかしモンタナに「お前はその両者(白人とラティーノ)の間に挟まれてんだ」と言われたミロはそうは思わなかった。やっぱり証明しようとしていた。黒人は2つのパワーに使われていた。ラティーノにとっては、目の前の黒人を退けて駆け上がらないといけなかったという事。
と、まあ長くなりましたが、ひじょーに面白い映画でしたね。長いけど苦じゃなかった。珍しいよ、私2時間越えただけでも、うるさいからね。テイラー・ハックフォードがここまで上手いとは。最初のカーチェイスの所とか見せ方がさすが。それに、これまで1度もベンジャミン・プラットをカッコいいと思った事がなかったけれど、この映画ではかなりカッコいい。素敵。そして3人目のキャラとして、クルス役の人が超上手いし、彼のキャラは映画に効いてるね。
(5点満点:DVDにて鑑賞)