シドニー・ポワチエとオシー・デイビスのデビュー作として知られている作品です。オシーはクレジット無しの小さな役だと聞いてましたが、結構目立ちます。シドニーが演じる若い医者の義理の兄弟です。オシーの妻を演じたのが、後にオシーの本当の妻となってオシーが2005年で亡くなるまで57年間連れ添ったルビー・ディです。ルビーはポワチエの姉妹。その2人が揃った自宅アパートのシーンでは、「A Raisin in the Sun / レーズン・イン・ザ・サン (1961)」かと思いました。家長と思われるお婆ちゃんも出てるし。
この映画、中々凄い。1950年という年代を考えるともっと凄い。でも、その当時をよく描写出来ていると思います。1950年は第2次世界大戦後であった。戦争に従事した若い黒人男性は、戦争後には第1級市民としての生活が確保されていると言われ、軍の中での差別にも耐えてきた。しかし、戦争後でも何も変わりの無い生活を強いられた。彼等の怒りは沸々と沸いていた。軍の訓練で鍛えた武器を手にする事になる... この映画でも白人のグループが先に暴動を考えるが、その噂を聞いた黒人が決起してやられる前にやる...と暴動を起こす。
また台詞もとっても時代の先をいっています。感想にも書いた部分と、後はシドニー・ポワチエの妻役がポワチエを宥めるシーンの台詞。「貴方は頑張ってきたじゃないの。テストだって全部A。疲れていて当たり前よ、私だって少し疲れているのだから。私達、もう少し幸せを感じても誰も文句は言わないわ」という台詞。ポワチエが演じた郡病院初の黒人医師というプロフェッショナルな仕事をしていた、初めて黒人という事で失敗出来ないというプレッシャーによる疲れを感じます。後は、感想に書いた部分の会話。あれは1950年というのを思い出して欲しい。キング牧師もまだ世間に登場してない頃だったんだから。しかも、この映画は白人の監督・脚本です。きっとこの監督の意見は、この映画のウォートン先生という役に集約されていると思いました。
そして最後、これがまた壮絶。あのラストはポワチエが演じた医者の面目を保ちながらの復讐だったと思う。邦題タイトルの復讐鬼というのは、差別主義者で強盗犯のレイ・ビドルという男。でも本当の復讐を果たしたのは、ポワチエ演じたルーサー・ブルックスという黒人の医師だと思います。その方法とか台詞とか、この映画は本当に洗練された作品である。
この映画はシドニー・ポワチエのバハマに住む両親が初めて映画という物を見に行った作品だそう。ポワチエは自伝でその時の事を、お母さんが興奮して最後のシーンでは「あんたも殴り返しなさい!!」と何度もスクリーンに向かって叫んでいたと書いている。
さすがに私は映画歴長いのでスクリーンに向かって叫ぶ事はありませんでしたが、中々手に汗握るシーンもあり、考えさせられる博識なシーンもあり... さすがにシドニー・ポワチエは最初から違うなって思わせてくれます。オシーはね、チャーミングでした。今は失業中で、郵便局員になる為に勉強中。ポワチエに「サウスダコタの州都は?」と聞いて、忙しくて面倒なポワチエは分からないと言うと「お前さんは、赤ちゃんを出産(delivery)させても、郵便は配達(delivery)出来ないな!」なんて言って大笑いしてます。そのシーンも、戦争後の失業率とポワチエ演じる男に厄介になっている男のプライドが見え隠れするんですよね。だから彼も後に武器を手に取ります。
ちなみにこの映画でもっとも嫌な男レイ・ビドルを演じたリチャード・ウィドマークは実際にはこの役柄とはかけ離れた人物だったそう。ポワチエとも仲が良かった。彼も素晴らしい演技です。エディを演じたリンダ・ダーネルはアンジェリーナ・ジョリーのような妖艶さと、ドリュー・バリモアのような魅力を持ったような人でした。シーンによって、その2人のどっちかにそっくりなんです。
シドニー・ポワチエとオシー・デイビスとルビー・ディは本当に違うなー。本物ですね。
(5点満点:DVDにて鑑賞)