SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて


*10/15/2018に「ブラックムービー ガイド」本が発売になりました!よろしくお願いします。(10/15/18)

*『サンクスギビング』のパンフレットにコラムを寄稿。(12/29/23)
*『コカイン・ベア』のプレスシート&コメント&パンフレットに寄稿。 (09/27/23)
*ブルース&ソウル・レコーズ No.173 ティナ・ターナー特集にて、映画『TINA ティナ』について寄稿。 (08/25/23)
*『インスペクション ここで生きる』へのコメントを寄稿。(8/01/23)
*ミュージック・マガジン1月号にて、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のレビューを寄稿。(12/2/22)
*12月2日放送bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」にて『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』についてトーク。(12/2/22)
*10月7日より上映『バビロン』にコメントを寄稿。(10/6/22)
*奈緒さん&風間俊介さん出演の舞台『恭しき娼婦』のパンフレットに寄稿。(6/4/22)
*TOCANA配給『KKKをぶっ飛ばせ!』のパンフレットに寄稿。(4/22/22)
*スターチャンネルEX『スモール・アックス』オフィシャルサイトに解説を寄稿。(3/29/22)
*映画秘宝 5月号にて、連載(終)&最後のサイテー映画2022を寄稿。(3/21/22)
*「This is Charles Burnett チャールズ・バーネット セレクション vol.1」にコメントを寄稿。(3/19/22)
*キネマ旬報 3月上旬号の『ドリームプラン』特集にて、ウィル・スミスについてのコラムを寄稿。(2/19/22)
*映画秘宝 4月号にて、連載&オールタイムベストテン映画を寄稿。(2/21/22)
*映画秘宝 3月号にて、ベスト10に参加。(1/21/22)
過去記事

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Lonesome without my pig meat, wonder where he could be found #2

Gettin' late in the evening and the sun is sinking down
Oh ho, ho, the sun is sinking down
Lonesome without my pig meat, wonder where he could be found

"Pig Meat On The Line" - Memphis Minnie & Little Son Joe

逢魔が時、陽も落ちてきた。そう落日してきてしまった。豚肉なしでは寂し過ぎる。見つかるかしら)
「ピッグ・ミート・オン・ザ・ライン」メンフィス・ミニー&リトル・サン・ジョー

という訳で、「The South Got Something to Say」第1.5回目。前回の続き


ブログに書いてしまいたくなるほどに私達の心を鷲掴みした美味しいBBQトラックは、ビズ・マーキー似の大柄なおじさんがやっているのだが、現金支払いのみなのである。知らずに最初に頼んだ時、13ドル分買った。が、普段ほぼ100%でクレジット払いのため現金を持ち歩いていないので財布の中には10ドル札のみ。そこでおじさんは、「10ドルでいいよ、また次来てくれるならね!☻(満面の笑顔)」と、10ドルだけを受け取った「え?天使?」となった。そういえば私は財布やパス入れに5ドルを非常事態のために隠し持っていることに気づいて、「嗚呼、待ってください、5ドル見つけた」と差し出した。おじさん「いいのに...☻」。ここでもう心を掴まれた。そして次週には、「おー、マイ・フレンド~、来てくれたか☻(と再び満面の笑顔)」と、2度目にして友だちとなった。そしてこの現象は私だけに起きたものではなかった。おじさんが別のお客にも「(お代は)次でいいよ」と言っているのを何度か目撃している(だが友だち呼びは私だけし、誕生日パーティに誘ってくれたのも私達だけ!どや顔)。

あまりにもBBQスパゲティを気に入った私たちは、「タッパー持参で大量買いしていい?」と先に確認して買ったことがある。30ドル分くらい。30ドルを出したら、「いいよ、いいよ、持っていきなー」と言う始末。さすがに30ドル分なので置いてきたら、じゃあとターキー・レッグを包んでくれた。15ドル相当ですよ。美味しさだけでなく、『メンフィス・ビート ~南部警察 人情派~』という邦題のTVドラマがありましたが、映画やドラマで描かれている南部らしい暖かさと人情味にも溢れたBBQなのである。南部ではなく都会が舞台だが『I'm Gonna Git You Sucka / ゴールデン・ヒーロー/最後の聖戦 (1988)』に出てくるジム・ブラウンとアイザック・ヘイズが営むBBQ店でも、クリス・ロックが演じる超~~~ウザい客の要求を、ブラウンとヘイズという屈強なおじさんたちが辛抱強く聞いてくれていた。ジム・ブラウンなら、クリス・ロックを一撃出来るのに。多分ジム・ブラウンとアイザック・ヘイズが演じた役は南部出身で、都会で店を構えている(勝手な解釈だけどヘイズはBBQの都テネシー州出身)。
私が日本人だと伝えているので、「今度日本に帰る時に私と妻をスーツケースに入れて連れて行ってくれよ!ガハハ...」と言っていたが、本当に日本に連れていきたい。おじさんのBBQだけじゃなく、あの人柄を日本にも届けたい(求むスポンサー)。

そしてメニューも値段も良心的。リブ・ティップスなるメニューがある。有名なBBQ店では中々見ないメニューの一つだ。BBQと言えば、リブ(骨付き肉)。BBQ店の主役の花形であるが、リブ・ティップスはその余分な部分で、骨のゴツゴツした部分が多い肉。所謂、捨ててしまう部分。だがおじさんのリブ・ティップスは、長時間のスロークックゆえに白い軟骨部分がプルプルで脂肪分のようになっていて超絶品だ。元々「ソウル・フード」と呼ばれる黒人たちの食事は、奴隷時代にマスター(主人)が食べない捨ててしまう部分を調理を工夫して食べられるようにして自分たちの栄養としたものだ。フライドチキンだって骨が多くて食べにくいので、マスターが食べない部分に味をつけて揚げたものがフライドチキン。他にもチットリンという臓物の煮込み(日本のもつ鍋的)など、例を挙げたらキリがない。なのでリブ・ティップスも他店では見かけないが、ここでは人気メニューの一つである。花形リブのほぼ半額の値段で同じ味が味わえるのがリブ・ティップス。調べたらメンフィスで一番の人気店で白人が経営しているランデブーには見当たらなかったが、黒人経営で先日書いたBBQスパゲティ生みの親バーベキュー・ショップにはあった。ただこのBBQトラックは、メニューにあるものが毎回あるとも限らないので、毎回「今日は何ある?」と聞かないといけないが、そこでおじさんと新たな会話が生まれるのでそれも楽しみの一つ。

そんなこのBBQトラックに集まる人々も個性的だ。30-40代の男性は病院勤めだそうで、突然「漂白剤要らない?」と、業務用の5リットルはあるだろう大きな漂白剤をなぜか配っていた。なんでも病院で余り過ぎているらしく、おじさんも貰っていたが、代わりにお代をオマケしていた。私達を含めたお客さんは、おじさんとの会話も楽しみにしているし、前回書いたチョップド・ポーク・サンドウィッチを頼むと、目の前で大きな包丁でトントンとまな板を鳴らしながら(川崎出身者には大師の咳止め飴屋をイメージすると分かりやすい)豚をぶつ切りにするのだが、おじさんの首もかなり揺れる。とても濃いキャラクターでさらに上の美味しさを演出してくれる。想像してください、ビズ・マーキー似のおじさんが軽快なトークとともに首を大きく揺らしながら、包丁でトントンしている姿を... 確実にまた行きたくなってしまう。

残念なことは一つのみ。フードトラックだけに神出鬼没。町のイベント時にはだいたい来ているが、毎回いる訳でもない。前回4週続けて通ったと書いたが、5週続かなかったのは、ただ単におじさんが来ていなかっただけのこと。もし居たら今日まで毎週通っていた。なので跡継ぎのいない『Uncorked / ワインは期待と現実の味 (2020)』のBBQ店をこのおじさんに譲って欲しい位だ。レストランなら毎日食べられるのに! 3週間ほど見つけられずに食べられなかった時には、冒頭に書いた☝メンフィス・ミニーの曲の女性のように、「豚肉食べれなくて寂しい。どこでみつけられるの?」となる。美味しいあの味はもちろんのこと、暖かい人柄が非常に恋しくなる。おじさんを見つけられなかった時の私の心情を歌いあげてくれているのがメンフィス・ミニーの曲だ。

だが摩訶不思議なことにネットではおじさんのBBQトラックの全然情報が出てこない。Yelpには当然ないし、GoogleTwitterでも検索したが出てこない。おじさん自体がFacebookなどで宣伝している訳でもないので、余計に情報が出てこない。本当に美味しいものは、ガイドブックやGoogleでは教えてくれないものなのだ... と、良~~~~く分かった。あ、でも、テネシー州メンフィスの有名チェーン店のセントラルBBQは、Yelpで星4つでガイドブックにも載っているが、かなり美味しかったです。あとYelpで星の数が多いお店は、私達(黒人x日本人)には居心地の悪い店が割と多い(もちろん全てではない)というのも、南部あるあるかもしれない。じと~~~と店員・客から見つめられたり、逆に店員から空気にさせられたりする。つまりYelpは、『Green Book / グリーンブック (2018)』とは反対である。だからこそおじさんのBBQトラックは、星5つどころか、本物の星の数ほど天文学的数獲得。南部らしいというか、イメージ通りというか、いやイメージ以上の人情と美味しさに出逢える。これこそが南部の醍醐味であり、南部にいることを実感するのである。

All Up in the Biz / 日本未公開 (2023) 1862本目

I addicted to called Hip Hop, cause it's cool thing to do.


クール・ハークがブロンクスでDJを初めてから丁度50年目となる2023年8月11日、つまりヒップホップ生誕50年となる日にビズ・マーキーのドキュメンタリー作品が放送され鑑賞。その祝いの日にこれほど相応しい作品もないだろう。観れば観る程、知れば知るほど、ビズ・マーキーはヒップホップを具現化した人であった。監督は、『Fresh Dressed / 日本未公開 (2015)』をはじめとする作品で、ヒップホップの歴史を映像に残しているサシャ・ジェンキンス。これまたぴったりな人選。

ライブで「Just a Friend」を熱唱するビズ・マーキー。そして妻であるタラ・ホールがビズが生前集めていたコレクションを紹介していく。2020年6月27日、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、ビズは患っていた糖尿病の合併症で倒れて入院することになる。ビズの病院での病魔との闘い、そしてビズの生い立ちからヒップホップやジュース・クルーとの出会いを追っていく。

ハーレムで生まれるが、母が亡くなり、父も養育できなかったため、里親制度でロングアイランドに住むパーカー家で生活するようになったのがヒップホップ生誕年1973年の事だった。一緒に育ったパーカー家の息子たちと、その生まれたばかりのヒップホップが入ったテープをブロンクスから手に入れて「中毒」になっていく。その後のビズには母の死や父との別れなどあったが、里親には恵まれたせいか、それとも色々あったせいでそうなったのか、とても行動的で積極的で非常に明るい性格であった。高校も自分の高校ではないロングアイランドの別の学校を訪れてカフェテリアでラップしていたという。その高校にたまたまいたのがウィリアム・グリフィン、後にラキムと名乗るMCの天才だ。ビズは自らそういう伝説やドラマを行動力で引き寄せていく。そしてヒップホップはニューヨークを瞬く間に駆け巡っていった。ヒューマンビートボックスで有名になっていたダグ・E・フレッシュが登場する。ダグの噂を聞くとビズはすぐに彼の家に行って入り浸った。その時の逸話を嬉しそうに語るダグ・E・フレッシュ。そうみんなが、あのクールなラキムですら、ビズの話を始めると笑顔になる。ビズの二つ名「クラウン・プリンス・オブ・ヒップホップ(Clown Prince of Hip Hop)」たる所以を目の当たりにする。ビズは、MCだけでなく、ビートボックスからDJまで実に多才であった。そしてあのライムの達人ビック・ダディ・ケインをゴーストライターにしてしまう人徳者でもある。DJのパイオニアの1人グランドマスター・フラッシュは自著の中でヒップホップは楽しいものだと力説していた。だとすれば、ビズ・マーキーそのものだと、本作で知る。ビズは永遠!

(4.75点/5点満点中)
All Up in the Biz / 日本未公開 (2023)

The United States vs. Billie Holiday / ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ (2021) 1797本目

He wants me to stop singing what's in my soul.


30~50年代というアメリカ激動の時代で歌い続けたビリー・ホリデイの自伝映画。アレサ・フランクリンホイットニー・ヒューストンの自伝映画も何作も作られているが、ビリー・ホリデイもこれまた多い。何と言ってもダイアナ・ロスがビリーを演じた名作『Lady Sings the Blues / ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実 (1972)』がある。それでも再び作りたくなってしまうほどのドラマがあるビリー・ホリデイ。今回は、ヨハン・ハリ原作の『麻薬と人間 100年の物語』を、舞台戯曲家『The Topdog Diaries / 日本未公開 (2002)』のスーザン=ロリ・パークスが脚本担当、そして『Precious: Based on the Novel Push by Sapphire / プレシャス (2009)』のリー・ダニエルズ監督で映画化。ビリー・ホリデイ役に抜擢されたアンドラ・デイが、アカデミー主演女優賞ノミネート、ゴールデングローブ主演女優賞(ドラマ部門)受賞。

1957年5月3日、ビリー・ホリデイアンドラ・デイ)は、インタビューを受けていた。黒人女性であることはどういう感じなのか、そして曲「奇妙な果実」のせいでトラブル続きなのはなぜなのか? ビリーは政府が忘れがちな人権について話す。それから10年前に溯る。夫やマネージャーは、セットリストからトラブルを招くので「奇妙な果実」を外すように言うが、ビリーは歌うことを主張し、バンドメンバーのレスター・ヤング(タイラー・ジェームズ・ウィリアムズ)はビリーの主張をサポートする。FBIのハリー・J・アンスリンガーギャレット・ヘドランド)がビリー・ホリデイをターゲットにして執拗に追いつめていく...

1957年、時は既にキング牧師が登場し、モントゴメリーのバスボイコットを成功させ、SCLCを設立していた頃。歴史の大きなうねり(特にアメリカ黒人にとって)がやってきた時。ビリー・ホリデイは、それよりもうんと前の1939年にこの「奇妙な果実」を発表している。その時のインスピレーションとなったリンチを目撃する再現シーンが、とても印象的で何より感情的でリー・ダニエルズぽい。これでもかという位に生々しい描写である。そしてこの当時のFBIお得意のスパイや潜り捜査などが、とんでもない位にしつこい。誰にも弱いところはあるので、そこを徹底的に使い溺れさせていく。どんなに潰されそうになっても、ビリー・ホリデイビリー・ホリデイ。決して屈しない。もうラストが切なく悲しいけれど、とても爽快。確かにその通り。ビリー・ホリデイの肉体は滅びても、「奇妙な果実」は2023年の今でも名曲であり伝説であり、ビリー・ホリデイの精神がその曲とともにずっと強く生き残っていく。それを完全に全身で再現したアンドラ・デイが圧巻である。

(5点満点)
The United States vs. Billie Holiday / ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ (2021)

Lonesome without my pig meat, wonder where he could be found

Gettin' late in the evening and the sun is sinking down
Oh ho, ho, the sun is sinking down
Lonesome without my pig meat, wonder where he could be found

"Pig Meat On The Line" - Memphis Minnie & Little Son Joe

逢魔が時、陽も落ちてきた。そう落日してきてしまった。豚肉なしでは寂し過ぎる。見つかるかしら)
「ピッグ・ミート・オン・ザ・ライン」メンフィス・ミニー&リトル・サン・ジョー

という訳で、「The South Got Something to Say」第1回目。

南部といえば、BBQ(Barbecue/バーベキュー)。これが書きたくて、このカテゴリーを始めたと言っても過言ではない。BBQは説明不要だと思われるが、日本のBBQとはだいぶ違う。もちろん焼きそばはないし、串に刺すことも少ない。肉の味付けや処理方法にソースの味が全米各地で色々と分かれている。テネシー州メンフィスのドライ(ソースなしで焼いてソース後かけ)のBBQ、ミズーリ州カンザスシティのソースたっぷりなBBQ、スロークック(弱火で長時間調理)でビーフ・ブリスケット(牛の肩バラ塊)やソーセージなどのテキサス・スタイル、アラバマ州のホワイト・ソース... etc. 全米各地、それぞれ有名な味やスタイルやソースが確立されており、アメリカのご当地グルメの一つである。

そのBBQの始まりは諸説色々とあるが、私がフードチャンネルだかヒストリーチャンネルかで観たのは、南部の奴隷が始まり説だった。南部の夏は日本と同じように、いやそれ以上に湿気も気温も高い。とくに夕飯支度時となる4-5時の気温が一番高い。日本のように昼じゃないのが意外だった。なので夏はオーブンを使うと家の中が熱で蒸して死にそうになる。だが黒人奴隷たちは、マスター(主人)のために食事を用意しなくてはならない。暑くて暑くてたまらず、外で肉の調理をするようになった... というものだった。その名残で、BBQの要である釜の温度を管理し肉を焼く人はピット・マスターと呼ばれている。もう一つの説は、アメリカ先住民がやっていたというのもある。

話は戻って、一番上☝の引用は、メンフィス・ミニーというブルース歌手が歌う「ピッグ・ミート・オン・ザ・ライン」。ここで聴けます洗濯紐に干していた豚肉が消えてしまった悲劇を歌うブルース。豚肉を「He」とか「Daddy」とかに例えているので、恐らく恋人に喩えた歌なのでしょう。というか、洗濯紐に豚肉を干すとは今では中々理解できない状況ではあり、そんな泥臭さにブルースを感じる。なんとメンフィス・ミニーのこの曲も収録されたBBQに関するブルース曲を集めたコンピレーションがあり、如何にブルースとBBQが密接な関係か分かる。今でもブルースのイベントが行われると、BBQと一緒になっていることも多い。

ところで、新型コロナウイルス禍の中で急成長を遂げたのが、フードトラック。接触や口を開ける機会の多いレストランは規制などもあった。その中でフードトラックは、極力接触せずに食事を購入できるし、何より個人事業者がスタートアップしやすいのも魅力なのかもしれない。『Uncorked / ワインは期待と現実の味 (2020)』では、主人公の父親がメンフィスで有名なBBQレストランを経営していましたが、レストラン開店には元手がかなり必要である。発展を続けるフードトラックに目を付けた我が町は、毎週場所を提供してフードトラックを集めるイベントを開催している。最近それに気づいた私は行ってみることにした。目的は、フライドポテトにエビやチーズやその他諸々を乗せた揚げ物店。

が、見当たらなかった。諦めて何も買わずに帰ろうとした所に目に留まったのが、ボロボロ、いや炭で中が真っ黒なBBQトラック(今日の写真はイメージでこんな綺麗じゃないです)。メニューを見ると、「BBQスパゲティ」というのがあった。どんな物かまっーーたく予想も出来なかったが、無類のスパゲティ好きなので頼んでみることにした。家に帰って開けてみると、アメリカのお母さんたちが作りそうなアルデンテとか無視の煮詰まり過ぎた普通のミートソーススパゲティ。正直「失敗したな」と思いつつ口にしたところ... 「何これ、今まで食べたスパゲティで一番美味しい! イタリア人には怒られるかもだけど!」となった。BBQソースを加えており甘く、そしてBBQの醍醐味であるスモークの香りと味がたっぷりとついたもので、私にとっては未知との遭遇な美味しさ。もしかして私だけが美味しいと感じるのかと思って、家族にも食させてみたら、「これは美味しい!」と大絶賛だった。

ちなみにこのBBQスパゲティなるものは、『ワインは期待と現実の味』の舞台テネシー州メンフィス発祥だそうである。リンクのはプルド・ポーク(割いた豚)を使っているが、私が食べたのはミンチ肉で見た目は本当に普通のミートソーススパゲティ。

我が州には、全米BBQ大会で優勝したというYelpでも4.4と高得点な有名BBQレストランがある。せっかくなのでそのレストランでも食べたことがあるが、かなり期待外れで、BBQがパサパサだった。皆で口を合わせて「期待外れにも程がある」という感じで、「もう無いな」と2度を足を運ぶことはなかった。

そんな私たちが、このBBQトラックには4週続けて通い続けた。その他、チョップド・ポーク・サンドウィッチ(ぶつ切り豚のサンドウィッチ)やターキー・レッグ(七面鳥の足)も絶品。ターキーに関しては、今までどのターキーも美味しいと感じたことがなかったが、ここのターキーだけは毎日食べられる程。ターキー・レッグの余った分を骨ごとグリーン(カラードやカブの葉)に使ったら、私の料理の腕が上がったんじゃないかと勘違いするほど美味だった。あとデザート!! ピーチ・コブラーにアップル・パイ、そしてピーカン・パイ... アップル・パイは御存知だと思うが、ピーチ・コブラ-ピーカン・パイは、写真をリンクしておこう。ピーチ・コブラ-とアップル・パイは何とスモークされている。普通に焼いた後に、ピットにいれてスモークしているので、甘いだけじゃなく、スモークも楽しめるという普通の家じゃ出来ないBBQ店らしい醍醐味を味わえるデザート。これまた食べたことないような美味しさ。蕩ける。そして美味しいだけが南部ではない! 

長くなってしまったので、なんとまだまだ後半へ続くのである... 次回へ。

Night of the Kings / 日本未公開 (2020) 1796本目

Every man lies to himself until he’s faced with his own death.


コートジボワールがアカデミー国際長編賞にエントリーした作品。残念ながらノミネートは逃しましたが、ショート入りし、ナショナル・ボード・オブ・レビューやNAACPのイメージアワードなどでは受賞した作品。なんと、コートジボワールアカデミー賞にエントリーすること自体が少なく、今までで本作を含めて3作。そのうちの2作が本作の監督でもあるPhilippe Lacôte。気になるもう1作は、フランス人監督ジャン=ジャック・アノーの『ブラック・アンド・ホワイト・イン・カラー』。コートジボワールの映画史は割りと古い方だと思うのだけど、たった3作とは意外だ。ムバラ・ロジェ・ニョアン(Roger Gnoan M'Bala)とかいるのに。そしてこちらは、コートジボワールの刑務所が舞台。

深い森の中にポツンとある建物。悪名高いMACA刑務所である。そこは刑務所内の独自ルールによって成り立っており、ダンゴロと呼ばれる刑務所内での絶対的なキングによって全ての事が支配されていた。そして現在のダンゴロであるブラックビアード(Steve Tientcheu)は病気で弱っており、全ての力を失う前に自殺すべきだとライバルに言われていた。自分の死を先延ばしたいブラックビアードは、ローマンという新しいグリオ(語り部)を指名することを約束する。グリオは、来たるレッドムーンの間、みんなのために物語を語るよう指示された人物である。そこに新しい収容者(Bakary Koné)がやってくる。ブラックビアードは、彼をローマンに指名するが...

時に『City of God / シティ・オブ・ゴッド (2002)』のような強烈な映像があったり、時に『Touki Bouki / トゥキ・ブゥキ / ハイエナの旅 (1973)』のようなファンタジーさがあったりと、とても斬新な作品で面白かった。そしてグリオが出てくるだけに面白い語り口でもある。さらには「こんばんは 徳川家康です」でお馴染みの『青天を衝け』の黒子ショーみたいなのまである。こういった斬新で誰も想像できないアイデアたっぷりの映像と物語って、意外とハリウッドでは作れないので、新鮮だ。しかも物語が散らかっておらずまとまっていて、面白い。このような作品があるから、アフリカ大陸の作品を見るのが楽しいのだと、改めて気づいた。

(4.75点/5点満点中)
Night of the Kings / 日本未公開 (2020)

The South Got Something To Say!

The South Got Something To Say!
(南部も言いたいことはある)


1995年、ラップ・デュオ「アウトキャスト」のアンドレ3000がソースアワードにて宣言した言葉である。西だ東だと大揉めしている中で放った。この言葉が私の心にずっと強く残っている。Twitterのプロフィールにも乗せていた程(今は文字数の関係で削除してしまっている)。

1995年アンドレ3000の発言時、自分がそのアメリカ南部に10年以上も生活するとは思わなかった。あれから20年が経とうする今、「確かにアメリカ南部の声は全然届かないなー」と思うことは多い。日本語だと余計に... である。まず、多くの日本人が南部に興味がない。多分ダサいとか思われている。確かにダサいことは多いかもしれないが、とりわけ黒人に関してはダサくない。何しろ、南部の黒人文化は全米のどこよりも(この際言い切る)豊富である。何しろ、アメリカ黒人文化の多くのルーツな場所なのだから。アメリカ黒人にとって人生を変えた南北戦争が始まる直前1860年の人口調査だと、4.4百万人の黒人人口に対して自由黒人はたったの0.5%。『12 Years a Slave / それでも夜は明ける (2013)』のソロモン・ノーサップのように自由黒人が囚われ奴隷になった極わずかな稀なケースもあるが、殆どの黒人は南部にいたということだ。1910年から徐々に始まるグレートマイグレーションと言われる大移動で、北部や西部や中部に移動するまで、多くの黒人にとってのルーツは南部である。今やニューヨークの顔であるスパイク・リーも生まれはジョージア州アトランタで、幼少時には夏になれば母方のアトランタ、そして父方のアラバマ州の小さな町に行っていた。その思い出を描いたのが、『Crooklyn / クルックリン (1994)』である。そして大学では、アトランタに戻っている。LAコンプトン生まれ・育ちのアンソニー・アンダーソンも夏になると南部の親戚の家に毎年のように行っていたという。そういう人は割りと多いのだ。知り合いのカリフォルニア州在住黒人に、私が住んでいる州を伝えると、「親戚がいるので夏に行ったりしていたよ」と聞かされる。そして、14歳のエメット・ティルは、1955年の夏に親戚の家があるミシシッピ州に出かけ、白人女性に口笛を吹いただけで、残虐に殺された。

その南部で長いこと生活してきて、あの映画のこの部分はこういうことなのかと気づかされることもしばしばある。そして、私自身が南部だけでなくカリフォルニア州ハワイ州と言ったところで生活したこともあるので、これは南部らしい! 南部でしかありえない! と思うこともあるし、こういう南部はあまり知られていないだろうなーと思うこともある。せっかくブログという場があるので、それらを共有できたら嬉しいかもと書いてみたくなった。そして皆さんの興味を焚きつけられるように、私らしく映画や音楽や書籍などを通じて分かりやすく書いていくつもりですので、よろしくお願いします。

何しろ、発言をしたアウトキャストをはじめ、南部ラップは発展を続けて一大勢力の一つとなった。そんな風に伝え続ければいつかは伝わるかもしれない。はてなには「アメリカ南部のフライドチキン」というタグすらある(まだ1エントリーだが)ので、伝わるかもしれない。

とりあえず、The South Got Something To Say! カテゴリーもこれでいくので、よろしくです。もちろん映画の100本映画をメインに続けます。たまーにゆるーくこのカテゴリーでも書いていきますので、何卒です。

The Haunted Mansion / ホーンテッドマンション (2003) 1867本目

Do you believe in ghost?


あのエディ・マーフィがディズニーと組んだ。リブート版鑑賞のタイミングで、そういえばこの作品を観ていないかもと手に取ってみた。公開当時、かなり批判されていた記憶がある。それもあったし、この時期、私は育児であまり観れていない作品が多かったりする。20年の時を経て観た結果...

ルイジアナ州にて妻と「エヴァース&エヴァース」という不動産会社を経営しているジム・エヴァース(エディ・マーフィ)は、結婚記念日でも仕事というと顧客からのリクエストを断れずにいた。案の定、家に帰ると怒っている妻のサラ(マーシャ・トマソン)。週末こそは家族で湖に出かけて楽しもうと提案するジム。そんな時に、サラの元に家を売りたいとの電話が入る。どうしてもサラに週末に来て欲しいと言われる。ジムは貰った住所で大喜び。大豪邸が並ぶ地域なので、湖に行く前に少しだけ行こうというジムだったが...

実にシンプル。最近は、複雑なプロット過ぎて穴がある物語があったりするが、これは物語もシンプルで分かりやすい。この幽霊たちが浮かばれずに住みつく”ホーンテッドマンション”に行きつく過程も分かりやすい。シンプル過ぎなので、1時間20分ほどしかない。それだけコンパクトにまとめているので、最後まで飽きない。コンパクトな分、登場人物も少な目でテンポも良い。しかもテンポが良いので、エディ・マーフィの早口が絶好調で合っている。善と悪が分かりやすいので、子供でも楽しめる。子供向けなのだが、特殊メイクアーティストのリック・ベイカーが手掛けたゾンビや幽霊は本格的なのも良い。だからこそ時を経てカルト化しているのだ。

ディズニーランドのホーンテッドマンションは、毎回行くほど好きというアトラクションではない気がする。でも必ず一回は経験するであろう、取りあえず一回は行くアトラクション。私は、乗り物に乗る前に通された部屋で経験する仕掛けが好きだ。だけど、一度も怖いと思ったことはない。怖いホラーは寝れなくなるタイプなので、私でも非日常が楽しめる、いい意味でディズニー色が強い。本作も怖い訳ではないけれど、エディの面白さと魅力を再発見できたし、テレンス・スタンプの良い演技が観れて満足である。凄く好き&良いという作品ではないかもだけど、もう一回くらい何かのタイミングで観たい作品である。エディも「これぞエディ」という感じだ。アトラクションと同じくあっという間に終わるテンポの良い1時間20分だし、最後も爽快感がある。そういう意味では、いい意味でディズニーのアトラクション感がある。

(4点/5点満点中)
The Haunted Mansion / ホーンテッドマンション (2003)