Ma Rainey's Black Bottom / マ・レイニーのブラックボトム (2020) 1785本目
本作の何がここまで人々の心を捉えるのか『マ・レイニーのブラックボトム』
やっぱり触れずには書けない。もう8か月くらい(執筆は2021年4月)経ったけれど、悲しみは消えないし、癒えることもない。日に日に悲しみが募るばかりだ。チャドウィック・ボーズマンがこの世を去ってから、彼について何度も色々な媒体で書いてきた。私はその中で一貫して、失われた損失の大きさを綴ってきたつもりだ。主演俳優として、助演俳優として、彼の存在感の大きさは、彼が映画に出演する度に大きな偉大なものとなっていたのだ。そして本作で彼は切望していたであろうアカデミー主演男優賞にノミネートされている(2021/4/21現在)。やはり、悲しみと後悔だけが募る。本作は、舞台劇作家の伝説オーガスト・ウィルソンが原作の舞台の映画化。オーガスト・ウィルソンについては、こちらを読んで欲しい。同じくオーガスト・ウィルソン原作の舞台『Fences / フェンス (2016)』の主演・監督を務めたデンゼル・ワシントンが本作のプロデューサー。そして『フェンス』助演でアカデミー助演女優賞に輝いたヴァイオラ・デイヴィスが、タイトルになっている主役マ・レイニーを演じ、今回はアカデミー主演女優賞にノミネート。監督は、舞台演出家として名をはせたジョージ・ウルフ。
1927年、レコーディングするためにマ・レイニー(ヴァイオラ・デイヴィス)は、バンド(グリン・ターマン、コールマン・ドミンゴ、マイケル・ポッツ)と共にシカゴのスタジオにいた。バンドメンバーであるトランペット担当のレヴィ(チャドウィック・ボーズマン)が遅れてやってくる。レヴィはソロを目指し、躍起だった。準備している間、レヴィとバンドメンバー、そしてマ・レイニーとも険悪な雰囲気となってしまう。
私が本作で一番驚いたところは、レヴィが神について率直に話すシーンだ。アフリカ系アメリカ人キリスト教徒の口からあのような率直な意見を聞くのはごくごく稀である。だからかなり驚いた。どんな時でも彼らにとって神が絶対的な存在だと、今までの映画や音楽で見て聴いてきた。正直、個人レベルでは聞いたことがあるが、かなり信頼関係が出来上がっている関係性でないと聞くことはない。なので公の場で聞くことはまずないであろう。言いたくても言えない場合だってある。そのような言葉を吐露するシーンは、確実に胸に強く突き刺さる。本作が舞台で上演された時にも、レヴィ役のチャールズ・S・ダットンは、トニー賞にノミネートされ、他の賞では受賞を果たしている。そして、本作の見どころはそればかりではない。マ・レイニーの太々しさにもある。差別されて当たり前の時代に、生き残るための太々しさと、堂々とした風格。いつもとは全く違うヴァイオラ・デイヴィスが見れた。
オーガスト・ウィルソンの包み隠さないペンにより、演じる役者も自然と熱がこもるのを感じ、そしてあの時代の過酷さを知った。これほどまでに率直な映画を観たことがない。人はどこか心閉じたところがあるし、率直になるのは難しい。そうでなければならない場合が多い。だから人々はこの物語に心を奪われるのである。
(5点満点:12/18/20:1785本目)
Ma Rainey's Black Bottom / マ・レイニーのブラックボトム (2020)