人は比べてしまう生き物だから『Native Son(ネイティブ・サン)』2本
グッドフライデーだったかイースターだったか...その辺りで夫がテレビで『ベン・ハー』を観ていた。大スぺクタルという名の相応しい圧巻な映像に、未だに美しいその色彩。でも私は中学生の頃に見たので夫には「当時、全く意味分からなくてつまらなかったんだよねー」と思い出話をしていた。と同時に、これって制作何年だっけ?とリモコンで夫に確認してもらったら、1959年だと聞いて驚いた。私がついさっき見た映画は1951年で、『ベン・ハー』の映像とは全く違うものだったから。で、夫に「リチャード・ライトが原作の映画観たら、同じ50年代でも全然映像の質とかも違う!白黒だし、保存状態悪いのか酷い映像だったよ」と得意げに語ったら、夫がぽかーんとしている。夫は事もあろうかリチャード・ライトを知らなかった。隣で話を聞いていたうちの子も同じ状態。私は驚きのあまり「え?ブラック・ボーイとかネイティブ・サンとか、ジェームス・ボールドウィンに並ぶアメリカ文学の超有名な文豪だよ?」って言ったら、2人ともぽかーんである。黒人歴史に興味ある私は高校の頃から知っていて、その頃に「ブラック・ボーイ」を読んでいる。アメリカの教育大丈夫か!!!!!という訳で前置きが長くなりましたが、アメリカを代表する文豪の1人リチャード・ライト原作「ネイティブ・サン(アメリカの息子)」が映画化された2作をまとめてどーん。
ビガー・トーマス(リチャード・ライト<51年版>/ヴィクター・ラヴ<86年版>)はシカゴの黒人移住地区のボロアパートに母と弟と妹と共に住んでいた。まだ小さい弟や妹を養うべくビガーは働き口を探していたが、いい仕事がある訳ではなかった。やっと見つかった仕事が白人一家ダルトン家の運転手だった。早速、娘メアリーを大学に送る事になったが、メアリーは大学ではなく共産党に傾いている男性イアンと落ち合い、黒人クラブへと出かける。酔ったメアリーを寝室まで運ばないといけない程だったが、黒人男性が白人女性の寝室に居る事がばれたら、また大変な事になる。何とかメアリーを寝室まで運んだが、全盲のダルトン夫人が部屋に入ってきてしまい...
という訳で、1951年版はリチャード・ライト本人がビガー・トーマスを演じている!2作とも原作とは変えている部分がある。割と原作に近いのは51年版。86年版は、ビガーの彼女ベシーが空気。なので86年版はあくまでも黒人と白人の対比が主。なので主題が軽くなってしまった印象を受ける。やっぱり観るならば、映像は悪いが51年版を薦める。しかし、ビガーは20歳そこそこの男だったが、演じたリチャード・ライトは当時43歳。黒人は老けないと言われても、流石に無理はある。それでも51年版を私は薦める。なぜなら、脚本もリチャード・ライトが書いているので、とてもいい台詞が満載だからだ。原作「アメリカの息子」はジェームス・ボールドウィンをはじめ、批判された本でもある。「ビガー・トーマスは黒人のステレオタイプに満ちたキャラクターで、本来のアメリカ黒人の姿はない」と。確かに理想的なアメリカ黒人の姿では決してない。しかし黒人というだけでなく、取り巻く環境がヤバい状況に陥れられ、さらに愚かな選択をしてしまう人もいる、とも思う。
51年版で運転手として裕福な白人宅を目の当たりにして自分の生活と比べて嫌気を感じたビガーが「俺たちの生活と奴らの生活が...」と愚痴ると、お母さんが「待った人こそ、神からのご加護が受けられる」という台詞がある。彼らは一体いつまで待てばいいのか...
Native Son / 日本未公開 (1951)(4.75点:1631本目)
Native Son / ネイティブ・サン (1986)(3.25点:1632本目)