死ぬのは奴らだ『ストロング・アイランド』
11月に入り、賞レースも本格的にスタート。その中で、ドキュメンタリー部門で中々の活躍をしているのがこの作品。ベルリン映画祭にも出展(出展するだけでも難しい)、サンダンス映画祭では審査員特別賞を受賞したのがこの作品。とある事件の被害者の妹が制作した執念の作品。ちなみに俳優ダニー・グローバーがプロデュースで参加している。
1992年、ストロング・アイランドが愛称のニューヨークのロングアイランドに住む24歳のウィリアム・フォード・ジュニアが殺された。20年以上の時を経て、妹ヤンス・フォードは当時の検事に電話を掛けた。映画を作るのでインタビューさせてほしいと伝えると、ノーコメントで協力出来ないと一蹴されてしまう。母のバーバラがカメラの前でウィリアム・ジュニアや、夫となるウィリアム・シニアについて当時の写真と共に語っていく...
お父さんとお母さんがサウスカロライナ出身で高校の時から付き合い始め、どういう経緯でニューヨークのロングアイランドまで移ったのか...まで遡って、被害者のウィリアム・フォード・ジュニアについて語られる。ここまで深く被害者について掘り下げようとするのは、やっぱり家族だからだ。ヤンスの他にも妹がもう一人いて、家族全員でウィリアム・ジュニアについて語る。兄がつけた妹のあだ名が「カトー」。彼らはブルース・リーが出演していた『グリーン・ホーネット』が大好きでみんなで見ていたので、兄はなぜか妹をブルース・リーが演じていた「カトー」と呼び始める。妹を助手扱いしていた兄の可愛らしいエピソード。そしてブルース・リーが黒人家庭にこんなに浸透し親しまれていた事が良く分かると思う。...というのは、置いておいて...兄妹仲良く、母が校長先生で父が鉄道員という中流家庭で育ったフォード家の子供たち。そんな彼らの人生を変えてしまったのが、とある交通事故だった。ウィリアム・ジュニアの彼女が運転していた車と19歳の白人男性が運転していた牽引トラックが事故。完全にトラック側の不注意だった。そのトラック所有の車修理店が警察にレポートしなければ、車を修理すると申し出、そうしてもらう事にした。しかし中々修理されない。トラブルに発展していくのだった。そして車を取りに行ったウィリアム・ジュニアに何者かが発砲。
しかし、ニューヨーク警察は、捜査をまともに行う事もなく、なぜかフォード家に見張りまで送る始末。結局、陪審員全員が白人の中なぜか加害者の正当防衛が認められ無罪に。結局、被害者家族が一番傷つく結果に。お父さんのウィリアム・シニアは心労が続いたせいか、事件から1年後に心臓発作で他界してしまっている。正当防衛が認められたのが、ウィリアム・ジュニアが加害者に向かってなげた掃除機のせいだった。けれど、それで殺して良いとは決して思えない。それに、加害者側の方は、上で書いたように交通事故を隠滅しようとしていたし、どうやら近所ではこの車修理店の評判は良くない。オーナーの息子が盗んだ車を改造したり部品を売って儲けていたのだ。
その前にウィリアム・ジュニアは地下鉄で偶然に地方検事が何者かに発砲される事件に出くわす。誰もが逃げ回る中、被害者に手を差し伸べたのはウィリアム・ジュニアだった。この話は割とこの映画の中でサラリと語られるのが残念だった。もうちょっとだけ詳しく聞きたかったかな?そしてこの映画監督であり妹であるヤンス・フォードは、同性愛者。兄の隠していたエロ本を隠れて読んでいた事を話してしまうのは面白い。
そして事件が起こる前、ウィリアム・ジュニアは警察官になるべく減量中だった。試験には体重で落とされる事数回。彼の死後、家に届いた手紙にはその試験に受かった事が書かれていた。ウィリアム・ジュニアが殺されてしまう前に言ったと言われているのが「俺が警察官になったあかつきには、お前たちを逮捕していてやるからな!」だったという。やっぱりこの修理店は怪しく、現在別件で逮捕されている。とはいえ、ウィリアム・ジュニアはもう戻ってこない。腐りきって偏見だらけのアメリカの司法制度こそ、どうか死んでくれ。
Strong Island / ストロング・アイランド (2017)(4.75点:1596本目)