長く熱い夏にぴったりの背筋も凍るホラー『Detroit』
「ロング・ホット・サマー(長く熱い夏)」...とりわけ、1967年の夏は暑かった。人種間の軋轢により、ケネディ大統領暗殺後の1964年以降暴動が多くなっていた。1967年は一番多く、なんと159回もの暴動があったとの事だ。その中の一つがデトロイトの暴動。そのデトロイト暴動中に起きた「アルジェス・モーテル事件」を描いているのが、この作品。『The Hurt Locker / ハート・ロッカー (2008)』でオスカーにも輝いたキャスリン・ビグロー監督とマーク・ボール脚本の最強コンビが再び集結。
1967年、大きな暴動が続いていた。そんな時、デトロイトのブラインド・ピグと一般で知られる無許可のバーでベトナム戦争から帰ってきた黒人軍人2人の帰還を大勢で祝っていた。しかし手入れがおきて、その対応の仕方を見ていた観衆が怒りを露わにした。その怒りは次第に暴動へと変わっていった。2日目、地元警察官のフィリップ(ウィル・ポールター)が略奪者を追い、後ろから射殺してしまう。上司は怒っていたが、取りあえずまた現場に戻した。そんな時にデトロイトでステージに立っていたのがコーラス・グループの「ザ・ドラマティックス」。しかし公演がちょうど彼らの前で暴動悪化の為に中止。彼らが帰り道に乗っていたバスも襲われ、メンバーたちは逃げるもバラバラになってしまう。リードシンガーのラリー・リード(アルジー・スミス)と友人のフレッド・テンプル(ジェイコブス・ラティモア)が何とか「アルジェス・モーテル」にたどり着き、そこで部屋を取った。外は見回りの警官や州軍らが居て物騒だったが、モーテル内はプール際に白人の女の子たちが居たりと平和そうだった。その女の子たちをチェックしに2人は部屋を後にし、女の子たちと話し、彼女たちが知るという男たちの部屋に行くと、カール(ジェイソン・ミッチェル)等が居た。カールはふざけてスターターピストルを外に目がけて鳴らした。すると、スナイパーだと勘違いしたフィリップをはじめとする警官や州軍らがアルジェス・モーテルを包囲し、フィリップや警備会社勤務で周辺の警備を任されていたメルヴィン(ジョン・ボーイエガ)がモーテルにやってきた。フィリップはモーテル内にいた人々を集め尋問を始めるが...
もうね、怖ーい!なんていうか、ホラー観た後みたいな嫌ーな気配を感じる怖さ。ホラー映画じゃないんだけどね。こわいな〜、なんかへんだな〜、どうしてかな〜、と稲川淳二のようになって考えてみたら、やっぱりキャスリン・ビグローだね。演出が克明過ぎる!臨場感あり過ぎる!警官たちが踏み込んでくる所とか、『ハート・ロッカー』並み。本物過ぎる。モーテルに居た人たちが「きゃー!」ってなっていたけれど、私も「きゃー!」ってなったもの。ホラー映画じゃないんだけど、この出来事自体がホラーで、キャスリン・ビグローが本気過ぎる演出で怖いんですわ。上のプロットの部分では書いてませんが、この事件は所謂「レイシャル・プロファイリング(人種によっての取り締まり)」により起きたホラー。今でもしょっちゅう話題になる警察による黒人へと執拗な取り調べと、ステレオタイプで決めつけてしまい、過激な暴力行使で死にまで至ってしまう...が原因で起きた悲劇。流石キャスリン・ビグローという感じで、彼女の才能がそのホラーを余計にグロテスクで最低な行為だと思わせてくれた。
人種と仕事の板挟みにあったジョン・ボーイエガの演技、歌えるアルジー・スミスの才能、彼も歌える才能あるのに今回敢えて歌わなかったジェイコブス・ラティモア...という若手が頑張っている。ジェイコブス・ラティモアは『Sleight / インフィニット (2017)』いい、今年は最高だ!そしてアルジー・スミスも『The New Edition Story / 日本未公開 (2017)』といい、今年は最高だ!『ハート・ロッカー』にも出ていたアンソニー・マッキーが、もう今やベテランと思える程にそんな若手を支えている。イージーEもそうだったけれど、ああいう突拍子もない役をやらせるとやっぱりうまいなーと思ったのがジェイソン・ミッチェル。そしてなんといってもウィル・ポールターでしょう!この映画を観た黒人観客に冷たくされないか、私は心配ってくらいに、悪役がハマっていた。『リトル・ランボーズ』の時から悪役顔だったけど、あの時はあんなに可愛い性格だったのに!と思い出して泣きたくなるほど、悪い奴。
2時間20分程と長めの作品だけど、無駄なシーンなど無い。とにかく、ビグロー流石だな〜、なんでかな〜、こわいな〜と思わせてくれる良作。
Detroit / デトロイト (2017)(4.25点:1575本目)