アルバート・ワーグナーという独学でアートを学んだ芸術家のドキュメンタリー。彼が芸術家になったのが50歳の誕生日。プレゼントでたまたま絵の具を貰ったので、書いてみた。でも元々小さい頃から絵を書いたり、粘土遊びが大好きで、5歳の時に書いた絵を母親に見せた時に「これを美術学校に送ったら、貴方は大物になれるのにね」と母に言われた記憶が鮮明に残っており、芸術家になりたいと思っていた。アーカンソーの田舎に生まれた為、その夢も叶う事もなく普通に家の畑仕事を手伝い大人になった。大人と言っても17歳の頃におじに「もっといい仕事が見つかるから」とオハイオのクリーブランドに移住。確かにアーカンソーの畑仕事では見る事も出来なかったお金を、クリーブランドの皿洗いで貰った。その後にマグノリアと結婚。なんと16人にも(15人とも?)の子供を授かった。自営業を始めたワグナーは軌道にのり成功させるが、お酒と女性に溺れてしまう。他の2人の女性との間に4人も子供が授かり、計20人!「愛とセックスが私の罪である」と認めている。でもその妻や一人の愛人達はその状況に憤慨しているが、一人の愛人は「もう過去の事だから」と許している。そして(このドキュメンタリーに登場する)子供達はみな父を愛しているし感謝していると答えている。
そして50歳の誕生日で貰った絵の具で書いたのが「Miracle of Midnight」という作品。最後に彼の芸術品が見れるサイトを紹介しますが、何とも言えない作品に見える。いかにもアメリカ人が書きそうな絵。私でも芸術家になれるんじゃないかと思わせてくれる。所が真面目な大学教授2人が、黒人学の分野として、また美術学の分野として大絶賛している。彼の作品が続々と紹介されると確かに芸術とは?なんて分かっていない私でも不思議と彼の作品が魅力的に見えてくる。特に「Flee from Egypt」という作品や「Bad Cat」等の絵は圧巻である。彼らしさが出ている作品が、白いバックから飛び出した黒いボーリングの玉。「白いバッグから飛び出してきた黒い猫」というタイトルがつけられている。フランツ・ファノン的。黒人の歴史や文化や思想を芸術にしているのが彼の作品。
彼は自分が建て生活している家を自分の作品の展示会場として、みんなに解放している。上に書いた黒人学を教えている大学教授が生徒達を連れてきたりもしてる。また個人の収集家も訪れる。あまり良い地区ではなく、黒人のスラム街なので、その地区を訪れた事のない白人の人たちはみなビクビクしながら来ている(ドキュメンタリーで一人の女性がハッキリそう言っている)。また値段交渉はワーグナーと直接交渉なので、びくびくしながら値段を聞く親子も居た(それがたったの20ドルで安い!)。
ニューヨーク・タイムズやライフマガジンという超一流のメディアも彼を取材し記事にしている。そんな彼はこのドキュメンタリーの中で亡くなっている。どんどんと弱っていっているのが目に見える。最後の病院まで追っている。ワーグナーは「わしの事を忘れないでくれよ」と、彼の黒人の収集家達に言う。「忘れるわけないじゃない」と口をあわせて彼等は言う。確かにこの作品を見ただけの私だけど、忘れられない人だ。
(4.25点/5点満点中:DVDにて鑑賞)