中々DVDになりませんでしたね。3年越しでやっとDVDが発売。
感想にも書いたんですが、アメリカから年間何枚のヒップホップアルバムが日本に入ってくるんでしょうかね?タワーレコードやWaveなんていう大手輸入レコード屋さんのお陰で、アメリカから直にアルバムが入ってくるようになってからは、日本発売を待たなくても良くなりましたものね。時代は変わったものです(年がバレるか?)。とは言え、アルバムその物じゃなくて、そのアルバムの持つ文化までもが日本に輸入されています。でも最近のニュースを見ていると、日本ではどうも間違った方向で解釈されているように思えてしまう。このドキュメンタリーを見てからは特に...
1999年にニューヨークの芸術プログラムの一環「Art Start」というアーティスト達が集まってホームレスの子供達をアートを通じて手助けしていくプログラム。そこで以前から参加していたのがクリス・”カズィ”ロール。元々は舞台の方を勉強していたみたいだが、ヒップホップに出会って彼は変わった。その自分の経験を生かして自ら作ったのが「ヒップホップ・プロジェクト」。学校を落第しそうな子達を集めて、ヒップホップを通じてモチベーションをあげていくプログラム。カジィ自身はダグ・E・フレッシュとツアーに回った事もあるアーティストで、カズィの彼女が元デフジャムやアリスタ等で働いていた事もあって、最大限のコネクションを生かしたプログラム。ラッセル・シモンズがそのプログラムに参加する高校生達に直接「もっと政治的で前向きなラップを書いて欲しい」と語りかけたりする。そして彼等がアルバムを作る時には資金提供で、レコーディングスタジオをブルース・ウィリスと共に寄付もしている。MTVの司会者のSwayも出てきて、インタビューのノウハウを教えたりする。
このドキュメンタリーは、そのプログラムを率いるカズィのこれまでの人生、そしてプログラムに参加するキャノンという男子学生とプリンセスという女子学生を主にカメラは追っております。カズィは、バハマのナッソー生まれ。どうやら母親がカズィを連れて家を出て、その後カズィが6ヶ月になると母は一人でアメリカへ旅立ってしまった。友達や親戚の家等に住んでいたが、6歳で家出をして道に居た所を保護されて施設に入り、里親の所に暮らしていた。ずっと母が迎えに来てくれると信じていたそうだ。14歳の時にようやく母の居るアメリカに移住し一緒に暮らす事になったが、やはりまた家出。一人で生き抜く為に様々な事をして、刑務所を出たり入ったりを繰り返していた。しかし18歳の時に書いた舞台作「ブルックリンズ・ストーリー」が賞を受賞。その頃に「Art Start」に参加するようになって、自分で「ヒップホップ・プロジェクト」を作ることになった。まー、壮絶ですね。そのカズィが、母に会いに行くシーンはこっちが感傷的になってしまいます。「なんで捨てたのか?」を知りたい...というか、それをカズィを苦しめていた、ずっと。でもお母さんは全然素直になってくれない。カズィは「ごめんね」の言葉が聞きたいのに、母は「何で謝らないといけないの!謝ってもらいたいのはこっち!」と14歳という難しい時期に再会したけれど、結局出て行ってしまった事を話している。同じ母親としてはあの会話を聞いた時にはクラクラして、あの母親を引っ叩いてやりたい位でした。母親として今からでももっとやってあげられる事もあるのに。一緒に行ったカズィの彼女もさすがにビックリしたんでしょうね。でもこの女性、とっても出来た人なので、落ち着いてカズィの母親に語りかけてました。この彼女、本当に出来た人なんだ。雰囲気が昔のローリン・ヒルみたい。帰りがけにいは優しくカズィの肩を抱きながら「愛してるわ」と優しく囁く。涙出そうでした。
とカズィの事が長くなりましたが...(実はボーナス映像には父親に会った映像もある。こちらは穏やかで暖かい映像)
主役はやっぱり将来の主役...子供達です。キャノンという男の子はこのプログラムでは、一番の詩書き名人。でも沢山の問題を抱えていて、家族の支えとなっている母親がMS(多発性硬化症)にかかっており入院生活をしている。アパートの家賃も払えなくて、家を出て行かないといけないかも??という状態。でも本人はプログラムに参加して、自分がラッパーでやっていく自信がついてしまったようで、「高校ぐらいは卒業しなさい」というお婆ちゃんと対立。「俺は大丈夫だよ。絶対にラッパーになるんだ。分かってるんだ」と言い張ります。でもお婆ちゃんは「もしそれがダメだった時の為に...」と負けません。
そしてもう一人のプリンセスはカズィにラップは「Whack」(懐かしいスラングですね)と言われてしまう位、あまり上手ではないけれど、自分が体験した「中絶」をテーマにした曲を書き上げてからは、自信がついたよう。しかしプリンセスのお父さんが麻薬売買で逮捕されて、刑務所に入ってしまう。お母さんはあんまり協力的じゃないので、自分が働いて何とかしている。でも高校を卒業して、大学と仕事を掛け持ち。偉い子なのです。
と、本来のヒップホップは前向きなのです。ストリートから抜け出す為にスターを夢見る。でも実際には音楽業界は汚染されていて...というのが現実かもしれません。それでも日本へ入ってきた物は少し捻じ曲がってしまったように思う。あ、この映画の中でもニューヨークのヒップヒップは政治的で知的で一番だ!というのを強調する為に、南部のヒップホップの事を卑下するシーンもあったのは悲しかった。教える立場だったら、そういう偏見は悲しいかな。南部にも政治的で知的なラップも沢山ありますから... 攻撃するなら個人名だせば?と思う。これ、ネルソン・ジョージもブログか何かに同じようなことを書いていて、ムッとしたんですよね。
でも現実は厳しい。これから先、このプログラムからスターが出るとしたら1人か2人だと思う。いやゼロの可能性の方が高い。それでも、このプログラムに入った子供達はかなり成長を見せているように思えました。
(4.5点/5点満点中:DVDにて鑑賞)