セネガルの監督ジブリル・ジオップ・マンベティの作品です。その彼の1973年の作品「Touki Bouki / トゥキ・ブゥキ / ハイエナの旅 (1973)」は文句なく素晴らしい作品で、絶対にアフリカ映画の歴史に名前を刻んでいるであろう作品でした。ああいうアバンギャルドな作品が好きなせいもあるかもしれません。でも今回のこの映画は割りとオーソドックスな作り。「トゥキ・ブゥキ」の映像は「ここはアフリカなのか?」と思わせる作りながら、しっかりアフリカを主張してくる面白い作品でした。今回は冒頭からいきなり「ディス・イズ・アフリカ!」でしたね。私達が思い描くアフリカの絵。動物達が自由に広大な土地を歩く様。そして物語もしっかり「アフリカ」....なのですが、実際にはスイスの小説家で戯曲家のフリードリッヒ・デュレンマットが書いた戯曲がベースとなっている作品。まさかですね。見事にアフリカぽく置き換えています。
という事で、物語は元々あったものなので面白かった。どっちになっても人って簡単に変わってしまうものだと改めて思いました。となると、やはりマンベティ監督の斬新な映像が見ものだと思うのですが、今回は残念ながらありませんでしたね。綺麗な映像はあったけれど。でもなぜか日本人女性が主人公の裕福な女性の運転手をしているのは斬新。途中で彼女が日本語を話すシーンもあった。彼女の雰囲気は昔のハウスマヌカンみたいって、若い子には伝わらないか... という訳で日本が絡むととたんに調べたくなるじゃないですか... マンベティ監督が亡くなる前に受けたインタビュー記事を発見。なぜこの映画で主人公の運転手を日本人が演じたのか、ちゃんと話してくれています。「ポイントは彼女がアジア人かどうかという事じゃなくて、アフリカでも西洋でも日出ずる国でも、権力に囲まれながら生活しているという事。冒頭の象はケニアのマサイから借りたもので、ハイエナはウガンダから、そしてセネガルの人々。そしてもっとグローバルにする為に日本からは人を借りた。そしてカーニバルのシーンはパリのフランス共産党が行ったカーニバルなんだ。映画がユニバーサルになり視野を広げる為にやった事。私の仕事は人類の敵を特定する事。お金、国際通貨基金、および世界銀行。 私のターゲットは明確だったと思うよ。」と語っております。という事で、映画の内容がだいぶ分かっていただけると思います。いちよう書いておくと、ドラマンという50代位かな?の男性が、コロバンという町で商店を営んでいる。ツケも受けるので町の人々はだいぶ助かっていて、ダラマンは人格者として好かれている。所がグリオがやってきて、「ラマトゥが戻ってくる」と告げる。ラマトゥは元々コロバンに住んでいた女性だが、理由があって町を離れた。その後に信じられないような巨額のお金を手に入れた。なので町は大騒ぎ。市長はあまり騒がないようにと言うが、その市長が一番騒いでいる。市長は俺は引退するからドラマンが市長になれと命令。しかしラマトゥはある目的でコロバンにやってきた。ラマトゥは10代の頃に恋し体を許した男が居た。2人は結婚するものだと思っていたが、その男は少しお金を持っていた別の女性と結婚。ラマトゥは捨てられたが、子供を妊娠していた。その後なす術もなく、娼婦扱いされて町を出た。ラマトゥの心を傷つけたのがドラマンだった。ドラマンへの復讐で彼女は戻ってきていたのだった。
人のお金への執着心は怖いですね。ドラマンが若い頃に選んだ「お金」がその何百倍もの脅威となって戻ってくる。そして人々はお金に群がるハイエナとなる。権力と正義。色んな物が問われる作品です。さすがだね、アフリカ映画。
(4.75点/5点満点中:DVDにて鑑賞)