アフリカ系アメリカ人の移動に関するトラウマ『Driving While Black』
夫に面白かったよと薦められて観たドキュメンタリー映画。PBSにて放送。タイトルとなっている「Driving While Black」とは、アフリカ系アメリカ人ドライバーは、運転中でも人種的プロファイリング、つまり人種によって分析・推測してしまい、何もない・無実なのに車を止められてしまうという意味で、普通に歩いていても警察に呼び止められ職務質問されてしまうのと同じ。今回のドキュメンタリーは、運転とアフリカ系アメリカ人の関係を追っている。
「自由に自分の意志で移動できる」ということすらできなかったのが、アフリカ系アメリカ人である。いきなりアフリカで自由を奪われ、繋がったまま船に乗せられ移動させられやってきたのが彼らだ。それは彼らにとってトラウマとなっている。そしてアメリカに閉じ込められてきた。奴隷から解放して、自由に行き来できるようになってからも、彼らはその移動の時ですら危険と隣合わせとなるのだった。
「自由に移動」という観念から追っている興味深いドキュメンタリー映画だ。奴隷時代にまでさかのぼり、「移動」がトラウマになっていること、そして「移動」には危険があるということ、アメリカの歴史に沿っている。奴隷時代の逃亡、そして逃亡しても捕まってしまったり、北部に逃げてもまた捕まってしまうかもという恐怖が常にある。そして奴隷解放後のジムクロウ法の頃には、北部の人間が南部へ出かける時には細心の注意が必要で、そのために「グリーン・ブック」が発行されていたこと、そして車社会となってアフリカ系アメリカ人が自由とより良い環境を求めて始まった「グレート・マイグレーション」と言われる大移動が始まったこと、公民権運動で活躍したカープールのこと、ロサンゼルスのロドニー・キング暴行事件のことなど、アフリカ系アメリカ人の「移動」に関するトラウマは尽きないのだ。車で移動するという自由も彼らは知ったが、それでもまだ彼らは偏見に苦しむことになる。彼らのトラウマが克明に浮き彫りとなっているドキュメンタリー映画だ。
(4.25点/1775本目)
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