こんな映画は中々簡単には生まれない。でもそれゆえに中々簡単にはこの映画の事を書けなかった。いつもは30分程度で書き上げる、このブログ。長らく書けずに居た。忙しいのもあったが、それ以上になぜか書けないというスランプに陥った。最高な映画はいつも私を饒舌にさせて長文を書かせるが、それ以上の20年に一度会えるか会えないかのエポックメーキングな映画は私をスランプに陥らせるのだ。そういえば、大好きな『Killer of Sheep / 日本未公開 (1977)』について書いてきた今までの文章も未だに全然納得できていない。なのでこれから書く文も一生私を惨めな思いにさせるであろう。なぜこの映画の素晴らしさとか美しさとか、人々にちゃんと伝える事が出来る完璧な文が私には書けないのか...と。
何百年も前のワカンダ。そこにはヴィブラニウムの隕石が墜落し、ハートの形をしたハーブが生えるようになった。それを巡り、その近辺で生活していた5つのトライヴが争うことになったが、一人の戦士がハーブが体内に取り込まれると、超人の能力を得て「ブラックパンサー」となった。ブラックパンサーは争いを鎮め、ジャバリ・トライヴ以外の4つのトライヴをまとめ、そして「ワカンダ共和国」を作り上げた。ワカンダはヴィブラニウムの威力を悪い人たちによって使われないようにと、第三世界を装い、そして世界から隔離し、守り続けてきた... そしてブラックパンサーだった父ティ・チャカ(ジョン・カニ)がテロで亡くなった今、息子の若きティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)が王位の座を継承しようとしていたが...
この映画の中には数々の忘れられない台詞が沢山あるが、その中の一つが、父が「彼らは君が迷子になったと言うだろう」というと子が「貴方の故郷が貴方を迷子にしたんだ。だから彼らは見つけられないんだ」という台詞。この子供の台詞は全てのアメリカ黒人がそう思いたいという心からの叫びが詰まっている。この映画の中では衣装や言葉などにより、数々の異なるアフリカのトライヴが賛美され、そして敬意が表されている。そのアフリカから引き離され、船に乗せられ無理矢理連れて来られたアメリカ黒人にとって、アフリカのどの国やトライヴが自分の祖国・故郷なのか分からないけれど、でも自分のその肌がアフリカの出身である事は教えてくれる。そんな人たちにとって、キルモンガーが遺したあの最後の台詞は涙無くして見る事は出来ない。長い航路の途中で海に沈んだ仲間たちに思いをはせる。だからアメリカ黒人の間では、キルモンガーの人気が若者を中心に圧倒的に高い。その気持ちは容易く理解出来る。だってキルモンガーは彼らの化身だから。でもその言葉を聞いたブラックパンサーは自分の生まれてきた運命と共に王として強く生きる決心をし、そしてキルモンガーの存在意義を持たせる為に尽くす事になる。故郷に根付いた人たちと、故郷が失った迷子の人たち、その2つをしっかりと結びつけるのが『ブラックパンサー』。今までアメリカ黒人がアフリカに寄り添う映画、もしくはアフリカ黒人がアメリカ黒人に寄り添う映画はあったとしても、その両者がしっかりと結ばれる事は無かった気がするのだ。だからこそ、私はブラックパンサーが大好きだ。やっぱり王様であって欲しいのは、キルモンガーを犬死にさせなかったティ・チャラなのだ。人々をここまで熱くさせているワカンダ。ワカンダ・フォーエバー!!!そう叫ばずにはいられない。
Black Panther / ブラックパンサー (2018)(5点満点:1624本目)