ジョーダン・デイビス、17歳。恵まれた環境で、所謂良い所の子。友達もごくごく普通の高校生。ジョーダンという名前は、母親が聖書から取りつけた名前だが、ジョーダン本人はマイケル・ジョーダンから付けられたと思い込んでいるという、子供ぽさもまだある。そんなジョーダンは友達と近所のガソリンスタンドに寄った。そこで3分30秒の間に10発の銃弾を撃ち込まれ、短い人生を閉じた。
起きたのは2012年。同じ年の初めに同じフロリダ州で起きたトレイヴォン・マーティン殺害事件で、アメリカは大きく揺れていた。ジョーダンもこのトレイヴォンのニュースを見て父親に「フーディ被ればトレイヴォンと俺は似ているね」なんていう話もしたという。ジョーダンはまさか自分も同じ目に遭うとはその時全く思っていなかっただろう。
一方同じガソリンスタンドに立ち寄ったのが、47歳の白人男性マイケル・ダン。どうみても普通の冴えないオジサンだ。いや、なんていうか老けている。見た目で50代後半だと判断していたので、47歳と聞いて驚いた。現在47歳なのは、日本なら北村一輝、アメリカならマシュー・マコノヘーやテレンス・ハワードだ。もちろん芸能人は一般人に比べて保存状態が優れているが、それでもこの人は老けすぎている。この男は、カーステの音楽がうるさいと少年たちに文句を言った。しかし無視された事で高揚し、3分30秒の間に10発の銃弾を青年たちが乗る車に撃ち込んだ。もちろん、青年たちは音量を下げるべきだったとは思う。しかしそれで殺されるなんて事はあっては決してならない。
裁判が開始され、ダンはトレイヴォン・マーティンの加害者ジョージ・ジマーマンと同じく「自衛法」を主張した。青年たちが乗る車の中で銃を見たとも証言している。しかし銃は見つからず、警察は周辺を捜査したが銃は見つからなかった。そしてダンはラップを「Thug Music(悪党音楽)」と呼び罵った。Thugという言葉は、今新しいNワードだと言われている。黒人をレッテル張るための言葉。ダンは一級殺人罪は評決不能審理で免れたが、二級殺人罪となった。
しかしジョーダンの両親は諦めなかった。民事訴訟を起こす。こちらでは一級殺人罪と認められ、仮釈放なしの終身刑が言い渡された。
この作品は許可を貰って裁判所内も撮影していて、サンダンス映画祭で審査員特別賞を受賞している。
私にも同じ年ごろの子供が居るので、ジョーダンの両親が「息子を守る事は誰も出来なかった」と語った時、本当に辛かった。多分うちの子もあの時のジョーダンと同じようにトレイヴォンの事は身近に感じながらも、でもやっぱり自分には起きないなんて思っていると思うのだ。でも子供になんて説明していいのか正直分からない。「貴方は黒人でもあるのだから、十分に気をつけなさい。白人の言う事は絶対に逆らわないように!」なんて、私の口からは絶対に言えない。そんな事を子供に言うなんて間違いだと思うから。そんな切ない事、子供には言えない。言わないといけない親と言わなくていい親が存在している事がアメリカの恐ろしい所なのだ。
3 1/2 Minutes, Ten Bullets / 日本未公開 (2015)(4点:1537本目)