『The Wiz / ウィズ (1978)』は、興行的・批評的にも失敗したなんて言われているけれど、アメリカの黒人ならば絶対に観ているであろう作品だ。なぜからマイケル・ジャクソンとダイアナ・ロスが出ているからである。劇場までは足を運ばないでも、TV放映などで見ているのだ。その証拠にブロードウェイのオリジナルは知らないけれど、映画版がオリジナルだと思っている人が多数なのだ。マイケルとダイアナが出ているが、それ以外も半端ない豪華さだった。リチャード・プライヤーがタイトルのウィズを演じた。リチャード・プライヤーはスタンダップコメディアンとして人気・実力ともにナンバーワンであった。そしてレナ・ホーン。レッド・フォックスの人気TVシリーズ『サンフォード・アンド・サン』では、レッド・フォックスが演じる主役の憧れがレナ・ホーン。何かとその番組で語られ、そして特別ゲストとして出演したことまであった。ブリキ男を演じたニプシー・ラッセルは、黒人コメディの十八番ともいえる女装コメディのオリジナル。70年代には自分のショー番組を持っていた程の人気コメディアン。そして今回は、ドロシーこそはオーディションで新人が選ばれたが、ウィズにクイーン・ラティファ、ブリキ男にNe-Yo、臆病ライオンにデビット・アラン・グリア、カカシにイライジャ・ケリー、魔女にはメアリー・J・ブライジにウゾ・アドゥバにアンバー・ライリーが配役。イライジャ・ケリー以外は説明不要の人々だ。イライジャ・ケリーは『Hairspray / ヘアスプレー (2007)』に『Red Tails / 日本未公開 (2012)』に出演していた注目を集める若手俳優。歌手としても活躍中。と、映画版と同じく豪華キャスティングなのだ。それをライブで放送!放送したNBCは毎年この時期に人気ミュージカルをライブ放送している。何年か前から。
カンザスの田舎の畑。ドロシー(シャニース・ウィリアムス)はエム伯母さん(ステファニー・ミルズ)と一緒に住んでいた。ドロシーの両親は事故で亡くなり、エム伯母さんが引き取った。しかしドロシーは故郷であるネブラスカ州オマハへの思いが強くなっており、家出しようとしていた。しかし嵐がやってくる。風が強くなってきて、ドロシーも逃げ遅れて飛ばされてしまう... 気が付くと家の残骸が散乱していた。そしてカラフルな恰好をした小人たちが回りに居た。そこにアダパール(アンバー・ライリー)が登場。彼女は北の良い魔女だと言う。彼女の話だと、ドロシーが嵐の中で東の悪い魔女を殺したので、小人たちが自由となったのだという。そのお礼は、ウィズが何でもドロシーの願いを叶えてくれる筈だと言われる。黄色のレンガ道をたどればウィズに会える、そして東の悪い魔女の靴を履いている間は魔法が続いて守られるので、絶対に脱がない事と言われ、ドロシーは黄色のレンガ道を歩き始めるが...
いや、本当にアメリカのエンタテイメント界って凄いよね。舞台経験が無くても、こんな風に出来ちゃうんだから!なんでも出来るよ、彼ら。その才能の凄さに圧倒されたわ!本業が俳優ならば歌の方が心配だし、本業が歌手ならば演技の方が心配。しかしそんな心配はご無用。無駄な心配。みんな歌えるし演技が出来る!そして踊れる!何なんだ!彼ら!!!しかも忙しい人達なのに、凄いわー。映画でもレコーディングでも良い所を取るという編集が出来る。でも舞台は違う。しかもライブとなると緊張感が全然違う。でもそういう緊張感が(コモン以外)無いのが凄い!みんなナチュラル。私ならガチガチになるわ!凄いわー、やっぱり一線で活躍する人たちは凄いわーーーー!!という感動ね。半端無かった。ウゾ・アドゥバがあんなに歌えるとは知らなかったよ!アンバー・ライリーの肺活量と声量は、あれどうなっているの??私たちと同じ人間なの??
でもやっぱり歌うシーンになると、歌手はやっぱり圧倒しますね。メアリー・J・ブライジ姉さんは迫力あった。悪い魔女役が最高でしたね。良い役をやらされる事が多いけれど、実は姉さんは悪役の方がハマるのかも!という新境地を開拓したよね。もっと見たかったわー。スピンオフしても良いくらい。Ne-Yoもソロがやっぱり素晴らしかった。大好きなBlackfilm.comのウィルソンさんが、その時に「どこかのTV局でNe-Yoに1時間特別番組やらせてあげてくれないかな」と書いていたが、100回位頷いた。あとオリジナルの舞台でドロシーを演じたステファニー・ミルズは、やはりこの舞台に掛ける思いが違いますね!今回は年齢的にエム伯母さんになってましたが、この舞台の理解度が完全にみんなとはレベルが違う!冒頭で泣かすな!って位素晴らしかった。
所で、私が映画版で一番好きなのがマイケルとダイアナが歌う「Ease On Down The Road」、そしてテッド・ロスの臆病ライオン。彼の演技とパフォーマンスは本当に素晴らしく、本当に臆病で、でも本当は頼れる王者!今回は『Blankman / ブランクマン・フォーエバー (1994)』でデーモン・ウェイアンズ爺の兄ケビンであり、アザーマンを演じたデビット・アラン・グリア。『ブランクマン』でもそうだったように、デーモン爺とは名コンビの人で、『In Living Color』での2人の「Men on Film」は人気キャラクターであった。コメディ畑の人かと思われるかもだけど、実はイエール大のドラマ科卒(アンジェラ・バセットと同じ!)というインテリ俳優なのだ。しかも『ストリーマーズ』というロバート・アルトマン作品では、他の共演者ともにベニス映画祭で金獅子賞を受賞した本格派なのだ!だから、演技は出来る事はよーーーく知っていたけれど、まさか歌まで歌えるとは!!デビット・アラン・グリアは本当に驚きの人。こういう人の事を多才って言うんだろうね。今まで「多才」という言葉を軽々しく使ってきた事を後悔・反省した!テッド・ロスの時と同じく、本当に臆病で、でも本当は頼れる王者!でも、途中でDAG(グリアのファンは彼の頭文字をとってこう呼ぶ)らしく「BAM!」とか挟んできて面白かった。
けど、やっぱりお客さんの反応とか無いので、あれをライブでやる必要があったのか?は謎。やっぱりカメラとかも難しそうで、ズームアップばかりでしたね。ズームでも良い所で別のキャストの頭が邪魔になっちゃったり。舞台の醍醐味はやっぱりお客の反応とハプニング!っていうのがよーーく分かりました。これ観たら、「ああ、ジェームス・ブラウンのLive at the Apolloはやっぱり最高だったんだわ!」と思いました。観客の熱狂の反応とハプニングを上手く取り入れた「ライブ感」満載のライブアルバム。舞台はそうやって作られるもの。
(4.5点/5点満点中:12/3/15:DVDにて鑑賞)