1940年代の作品。Clarence Muse (クラレンス・ミューズ)という名優が主演。しかも台詞の部分でこの映画の脚本をお手伝いもしているらしい。およそ60年にもおよび俳優人生で150本もの映画に出演した役者の中の役者。ミューズが活躍した時代は黒人と言えば、使用人の役などに限られていた。ミューズもそれらのタイプキャスト的な役を演じる事はあったが、例えばStepin' Fetchit (ステピン・フェチット)が演じるような大げさに黒人のステレオタイプを誇張した演技は決して見せなかった。どこか彼が演じる役には品格があった。1932年頃には「ニグロ俳優のジレンマ」という、ハリウッドにおける黒人俳優の苦悩とこれからの展望をパンフレットとして発表した事もある秀才。それもその筈で、大学では法学部に居たインテリなのである。ルックスはなんとなくウェズリー・スナイプスを思わせる男らしさがある。そんなミューズという役者人生を垣間見せているのが、この映画。
アーサー・ウィリアムス(クラレンス・ミューズ)は大きなコンサート会場を観客で一杯にし、ヴァイオリン演奏で沸かせ、コンサートは大成功を収めた。会場に観に来ていた娘グレイシー(シビル・ルイス)も息子ジョニー(ウィリアム・ワシントン)も安心し喜んだ。感動した観客がやってきて、是非うちでも演奏して欲しいと頼むが、強欲なマネージャーが1回1000ドル(約10万円)と破格な額を要求した。そのマネージャーと次の目的地に急ぐアーサー。そのマネージャーが運転する車が、タバコに火をつけようとした時に操作を誤り、車は横転した。アーサーは怪我を負い、ギブスをようやく外す時が来たが、ギブスを外すと大事な指が動かなくなっていた。月日は流れ、ヴァイオリン奏者を諦め、今はヴァイオリンの指導者となっていた。しかし口だけで指導する事の苛立ちと、自分が演奏出来ない落胆で、とてもイライラしていた。息子ジョニーのヴァイオリンは見事であったが、アーサーが嫌いなスウィングを演奏し始めて、それにもアーサーはイライラしていた。優秀な医者が町に来たので会いに行くが、1000ドル掛かると言われる。しかしいい医者だったので費用の300ドルで良いよと言われる。しかし演奏出来ないウィリアムス家にはそんなお金は無かった。その事実を知った息子ジョニーは、こっそり町のカフェでスウィングを演奏し、50ドルを手にいれたのだったが...
確かにこの時代にありがちな分かりやすいストーリーではあるのだけど、中々どうして、観客を引き込ませるのが上手い。まとめにはお姉ちゃんのグレイシーの部分を省略してしまったけれど、グレイシーにはお互い好き同士な会社の同僚が居るんだけど、会社の社長の息子から付き合えよ!と言われていて、断ると嫌がらせというパワーハラスメントを受けているっていう、サブストーリーもあり... アーサーの教え子ディッキー君は、息子ジョニーをライバル視しているというか、ジョニーの才能に嫉妬している所があって嫌がらせしたりという、サブストーリーもあったりと、飽きさせない!しかもディッキー君を演じたのが『ちびっこギャング』のスタイミー役で有名だったマシュー・ビアード。ジョニーを演じたウィリアムス・ワシントンも、この映画でデビューして子役から大人の役者にちゃんと大成したタイプ。という訳で、クラレンス・ミューズは当然の事として、この映画の演技はしっかりしてますね。それが私を引き込ませたんだと思います。バンジョー弾きの背の高いストリングビーンズを演じたダービー・ジョーンズも印象的。この映画を監督したバーナード・B・レイをIMDBで調べると犬がポスターの映画ばかりが出てくるね。B級なウエスタン映画を撮っていたらしい。しかし...この映画は、もう著作権が切れた映画を安価で発売しているアルファ・ビデオのDVDで見たんだけど、ラルフ・クーパーの『Gang War / 日本未公開 (1940)』のDVDにおまけとしてついているのです。ってか、こっちの映画の方が面白いのに!間違ってるぞー!アルファ・ビデオー!!
(4.75点/5点満点中:10/4/14:DVDにて鑑賞)